南門の向こう側
実家での休暇が終わり、軍務局で仕事を始めた僕はジルヌール少佐の下で働く准士官に任命された。
いきなり准士官で、他の人に睨まれやしないかと思ったけれど、王立学園の上級部を卒業した生徒は最低でも士官だと聞いてちょっと安心した。
まあ卒業仕立てでも、第三王子は少尉らしいけれど。
そしていよいよ僕らも南門の外へ出る日がやってきた。遂に南門の外を見る事が出来る! アベルがあれだけ見たいと言っていた南門の外。その景色を想像すると、その気持ちだけで胸がドキドキしてしまっていた。
出発前に少佐がいらして「決してこの先で見た事は帰ってから他の者には言わないように」と何度も注意されている。 昨夜は寝る前にどんな景色が広がっているのか想像して中々眠れないでいた程だ。
ジルヌール少佐と僕、それに軍務局の数人が乗っている箱馬車は、窓はあるけれど開く事は出来ないようになっていて、目線に入らない高い場所に光が入る隙間が作ってある。要は僕らには外の景色が全く見えないと言う事。
軍務局に迎えに来た馬車を見た時から違和感があったのだけれど、本当に関係者でもここから先の風景は見せたく無いのだと感じた。
暫く門の前で外にいる人とのやり取りの声が聞こえていたけれど、静かになったと思ったら重い金属の擦れる音がして、重たい扉がゆっくりゆっくりと開く音が響いてきた。
ギッ、ギッ、ギッ、ギッーーーーィ
そして動き始める馬車、馬車は門を抜けたらすぐに止まるのではなく、結構な時間動き続けていた。
コレって王都からもかなり離れているんじゃないかな?
そんな風に考えていると、やっと馬車が止まりそうな雰囲気になってきた。
ジルヌール少佐も「そろそろか?」と言っているのでそうなのだろう。
馬車が止まり、ガチャリ! と鍵の音が聞こえて馬車の扉が開く。
ジルヌール少佐が先に出て僕たちがそれに続く、それまで薄暗い中にいたので、外からの光が眩しくて一瞬目が眩んでしまった。
目が慣れて来たところで外の景色も段々と見えてくると……。
「えええーっ!?」
ただただ広い平地に、魔物!? 僕たちのいる場所とは離れているけれど、とても大きな魔物がズラリと並んでいた。
その景色に圧倒されてボーッと突っ立っているのは僕だけで無い。一緒に来た卒業したての学園生は皆魔物を見て驚いていた。
「エレファ」
並んでいる魔物の名前は「エレファ」と言った。
元々は魔物だったそうだが、長年人の手で飼い慣らされた魔獣と呼ばれる生き物だそうだ。
エレファは僕らの背丈よりも大きく、長い鼻が特徴で、魔獣使いの主人から渡された果物を器用に鼻を使って口へと運んで食べている。僕らが近寄って撫でても暴れたりせず大人しいものだ、因みに触った感じはとても硬かった。
エレファの特徴は馬より体力があり長い時間歩ける事、力も強くて馬車用の荷車の二倍くらい大きな奴を、横に二台、後ろに三台の合計六台を一頭で引けるのだとか。
そのエレファが二十頭程並ぶ姿は圧巻だった。
一際大きなエレファが引く荷車に僕らは乗せてもらい、その後ろの方は食材などの補給物資が満載になっている。
「出発するぞー!」
パルォーン!!
パローン!
パォー!
魔獣使いの人の声を聞いて。エレファ達が叫ぶ!
真後ろに居た僕たちの耳は暫くキーンとなっていた。
全員がエレファの引く荷車での移動を開始すると。子供のエレファが荷車と適度な距離をとってトテトテと付いて歩く姿が見えた。その姿を見ていると相手が魔獣だと言う事も忘れて皆も自然と笑顔になった。
魔獣も魔物も変わらないのかもな、そんな風に考えているのが顔に出ていたのか魔獣使いの人が話しかけてくる。
「勘違いしちゃダメですよ。魔獣は大人しいですが、それは長年かけて人に慣れさせて世代を繋いできた結果です。それに魔獣使いもいます。
何もしていない魔獣に同じ事をしても、襲われるだけです。基本的には魔物と魔獣は変わらないのですから、近寄ると踏み潰されてしまいますよ」と、やはり魔物の恐ろしさを再認識させられた。
ここから更に南へ移動して二週間掛けて補給基地へと到着する。そこで大半の補給物資は下ろして、次の前線基地までの荷物と人員は、ヒッポで運ばれる事になる。
ヒッポは、僕らの背丈くらいの大きさで丸っこい体と、クリッとした瞳、小さな耳をピコピコと動かしているのがとても愛らしかった。
ここまでの道は、エレファに踏み固められている事もあってとてもスムーズだったけれど、ヒッポの進む道は少しガタガタとして、途中で酔うものも出始めた。
補給基地から前線基地までは一週間、ただそれだけなのに僕らは随分遠くに来たような気分になっていた。
やっとの事で前線基地に到着すると、最後まで荷車の振動に耐えられなかった新兵が早々にダウンして別の場所へと連れられて行った、彼らはソコで再訓練になるのだろう。
残った者は再編されて各部隊に取り入れられる。今此処にいるのは、前線から帰って来たばかりの兵士達で、僕とジルヌール少佐は、兵士達に新しい詠唱を覚えさせる事が仕事だ。
教える仕事は最初からスムーズに行った訳ではない。
若い学園を出たばかりの新兵が、自分達より階級が上になって偉そうにしゃべっているんだ。
皆、気に食わなさそうにしていたけれど、新しい詠唱を部隊の隊長に試して貰ったところ。
全員が見ている中で強力な中級魔法を発動し、兵士達の腰を抜かしてからは、兵士の士気も上がって皆素直に聞いてくれるようになった。
粗方の兵士に新しい詠唱を教え終わり、遂に交代の日がやって来た。仲良くなった兵士もいて、見送るのに若干の寂しさを覚える。
彼らが最前線に到着した後、最前線にいる兵士と入れ替わって戦い疲れた兵士達が戻ってくるのだ。
十日後、交代で戻ってきた最前線の兵士の中に勇者の姿は無かった。
向こうでは、その強力な詠唱の威力を知って。その力で今の内に押し返したいと勇者も残り、入れ替わった兵士達と一緒に戦っていると言う。
しかし、二日後に緊急連絡用の魔獣イグルが前線基地に飛び込んで来た。
魔族が大戦力を投入して、最前線に入った第二王子を庇って勇者が負傷したと言うのだ
緊急を要する為、新詠唱が使える僕ととジルヌール少佐も最前線へと移動する事になった。




