アルフの卒業
「「しゃべった!?」」
猫が喋った! ジルヌール先生は元から知っていたのだろうけど、猫ですよ? 猫って喋るんでしたっけ?!
僕とアンネは顔を見合わせて首を捻っている。
あ、でもアベルって言ってたから有り得るのか?
「あ、あの。アベル君は今どこにいるの?」
アンネが、僕らが一番心配している事を猫に聞く。
いや、猫に聞くって表現はおかしいだろうけど。
「それは、詳しくは言えないにゃ。だけど、安全な所にはいるにゃ」
にゃ、と言うのは猫だから?
取り敢えず安全な場所に居ると聞いてホッとする。
「これからアベル達は何処に行くの?」
「それはまだ言えないにゃ。それよりも、今日は三人に大切な話しをするにゃ、今日ジルヌールに呼んでもらったのはその為にゃ」
大切な話って何だろう?
猫……イヅミさんの話とはこうだった。
アベルが王都から逃げている間、イヅミさんが僕たちに詠唱を教えるけれど。ずっと猫の姿でいるのも面倒だし、アベルの側にも居ないといけないのでマーキングさせろと言う。
マーキング? と思っていると、イヅミさんが突然机から飛んできて鼻と鼻をくっ付けられた。
アンネは「ほわぁ」と言って喜んでいたけど、犬派の僕は……僕は、嬉しくなんかないんだからねっ!
((聞こえるかにゃ))
「うわっ!!」「きゃ!」
今度は突然頭の中に直接イヅミさんの声が聞こえてきた。
こうして直接頭の中に話しかけて、新しい詠唱を僕たちに覚え込ませるらしい。ちなみに夜の寝ている間も容赦なく囁くと言っていた。
とにかく、毎日時間のある時には呟くから死ぬ気で覚えろだって。夜中呟かれたら睡眠不足でそれこそ死んじゃうよ。
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アベルが学園から居なくなって六ヶ月、僕は遂に卒業を迎えた。学園の講堂に集まった卒業生、保護者と軍の関係者や来賓が見守る中、学園長の長い話しが続いている。
「君達の中には、初級部から来た者と上級部から入った者も居るだろうが、今日まで学園で過ごした時間は共に大切な思い出となった事だろう。
この中から、騎士団へ進む者、軍部へ進む者、研究部へ進む者と別れてしまうが、それぞれが今日まで学園で学んだ事を胸に、この先の人生に役立てて欲しい。
卒業おめでとう。」
学園長の定例のスピーチが終わると、僕らが進むそれぞれの部署の偉いさんのスピーチが始まり。それが終わると一人一人名前が呼ばれて、卒業証書と所属する部署の書かれた紙が渡された。
「アルフレッド・ウィッシュナット君、卒業おめでとう。君は、軍務局所属だね」
入学した時は、良くて軍部の歩兵部辺りで終わりかと思っていたのに。
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「来たか、そこに掛けなさい」
この六ヶ月で通い慣れたジルヌール先生の研究室、ここに来るのも今日でお終いだ。それは、僕が卒業するからだけでなくジルヌール先生も学園を出て、僕と同じ軍務局に移動となったから。
だから、この研究室はこれでもうお終い。あんなに書類で乱雑だった研究室の床が見える。
「まさか、ご一緒させて頂けるなんて」
「君の他にこの詠唱を正しく理解出来ている者はいないだろう? 必要と思ったからこそ、付いてきて欲しいと思ったのだ」
「アンネも……ってそう言う意味じゃないですよね。ともかく、ありがとうございました。父も軍務局に決まってとても喜んでいました」
そう言う僕の顔を見ても、ジルヌール先生の顔は心から喜んでいるようには見えなかった。
「十日後には軍務局に集合、王城の広間で出発式が執り行われる予定だ。翌日には南門を出ていよいよ戦地へと向かう事になる。本当に喜べる話なのか、私にはわからん」
ジルヌール先生は学園で魔法を教えているけれど、本心では人殺しの魔法より人々の役に立つ魔法の研究をしたかったのだと、何かの時にガリレオ教授から聞いた事がある。
その為には、魔法の研究をして、魔法を分析し、自分の思う通りの結果が出るまで追求しなければならない。
いつも厳しい顔をしていたけれど、あれも寝不足を誤魔化す為に飲んでいたポーションの副作用で、いつも頭痛を感じていたのだと、六ヶ月側にいて分かった。
「はい、十日後にまたお会いしましょう」
「ああ、十日後に」
僕とジルヌール先生は握手をして別れた。
そして僕は五年ぶりに実家のウィッシュナット男爵家へと帰る。
戦地に赴くまでの、僅かな平穏を感じる為に。




