追われる立場
翌日からは特に魔法関係で先生に呼ばれる事もなく、クラスの皆んなとも普段通りに過ごしていた。
そして、そんな普段の生活が十日も過ぎた日の午後。 授業中の教室の外が何やら騒がしくなって、突然教室の扉が開いた。
入ってきたのは軽鎧姿の騎士、ズカズカと教室内に入ってくると。
「ここにアベルと言う者がいる筈だ、今すぐ我々の前に出て来て貰おうか!」
突然怒鳴り上げた騎士は、僕の事を探しているようだった。
一人が教室の入り口の前に立ってさらに大声を上げる。
「アベル! 居ないのか!」
エドモンド先生は教壇でオロオロするばかりで騎士を止めようともしない。
「お前達は誰の許可を得て学園内に入っているのだ!」
その時、一番に立ち上がって声を上げたのはロイだった。
先ほど大声を上げた騎士がロイを見て「ランバート殿下」と呟く。
「騎士団と言え、勝手に学園に立ち入るのは禁止されている筈だぞ! 誰の許可を得て入って来たのだ!?」
教室内を歩き回っていた騎士も立ち止まって、ロイと入り口の騎士を見ている。
入り口に立っている騎士が一歩前へと進み。
「ランバート殿下に申し上げます。我々は第二騎士団の者です。私は第二騎士団副団長のガルザンと申します。本日のこの学園内への立ち入りと、アベルを連れて来いとの命令は王からの指示ですので、例えランバート殿下にも止める事は出来ません」
そう言って、副団長は何か丸く閉じた紙を持ち上げてみせた。
ロイは王からの命令と聞いて、体を強張らせそのまま黙ってしまう。
それを見た副団長はニヤリと嫌らしく笑い「では、失礼して」と、言うと「アベル! 早く我々の前へ出て来い!」とさらに大声で怒鳴った。
僕が、これ以上教室の皆に迷惑を掛けられないと立ち上がろうとした時だ。
「邪魔だ! 退け!」
ドガッ!
入り口に立っていた副団長を蹴飛ばして教室に入って来た人物が!
「ぐあっ!」
「「副団長!?」」
慌てて教室内を歩いていた騎士の二人が副団長の元に駆け寄る。
副団長を蹴飛ばして入って来た人物が駆け寄って、僕の手を引っ張り「あっちの扉から逃げるぞ!」と叫んだ。
「ジルヌール先生?!」
教室に駆け込んできたのはジルヌール先生だった! 僕は訳が分からなかったけど、ジルヌール先生について後方の開いている扉に向かって走り出した。
「あっ! 待て!!」
教室を出る時、起き上がった騎士が追い掛けて来ようとする所を教室の皆が邪魔をしてくれている姿がチラッとだけ見えた。
廊下を走るジルヌール先生について走りながら。あの騎士について訊ねる。
「さっきの人達は何ですか?」
ジルヌール先生は僕の方をチラッとだけ見て。
「第二騎士団の連中が、お前が魔族と繋がっていると勘違いして捕まえにきたのだ。その話しを聞いてすぐに向かったのだが一足遅かった、すまん」
魔族?! 僕が魔族と? 何で?!
走りながら困惑していると、いつの間にか建物の外に出る扉が見えてきた。
「出るぞ! 外にも騎士達が居るかも知れんから一応気をつけろ」
言われて、そのまま扉の外へと駆け出す! パッと辺りを見回すけれど、騎士の姿は無いみたいだ。
「こっちだ!」
ジルヌール先生が進んだ先に、一台の馬車と御者台にはガリレオ教授がいて手を振っていた。
「早く乗りなさい!」
馬車の扉を開けて中に押し込まれる、中に入ると怯えているニヤがいた。
「ニヤ!」
ニヤが僕に気が付いて抱きついて来る。体はガタガタと震えている。
僕がニヤを抱いて落ち着かせていると、「アベル、コレを持ってゆけ」とジルヌール先生から鞄を一つ渡された。
「出せ!」
扉を閉めながら、ジルヌール先生が御者台のガリレオ教授に向かって叫ぶ!
僕は馬車の小窓を開けてジルヌール先生に呼びかける。
「先生はどうするんですか?!」
「私はアイツらを引き留めておく!」
後ろを見ると、校舎から騎士団の人が出て来ている所だった。
「早く出せ!」
その一言で、ガリレオ教授が馬に鞭を打って馬車を動かし始めた。
「待て! 誰かその馬車を止めろ!! わっぷぶぶぶっ!?」
ジルヌール先生の『Water』の魔法が騎士の人たちを足止めする。
どんどんと離れてゆく馬車、僕はジルヌール先生が見えなくなると窓を閉めてニヤに声を掛けた。
「ニヤ、もう大丈夫だよ」
ニヤの背中を摩りながら落ち着かせていると、御者台のガリレオ教授から「これから北門に向かう、物音を立てないようにジッとして」と言われ、僕とニヤは息を潜めて抱き合っていた。
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馬車の外でガリレオ教授と門兵との話し声が聞こえる、何時もより厳しいチェックが行われているみたいで時間が掛かっている。
「何処に行かれるのですか?」
「北の街にいる友人を迎えに行くのだよ」
「お戻りの予定は?」
「さあ、四日か五日後かな?」
「中を検めても?」
「……」
「ガリレオ教授?」
「何も無いが、お好きにどうぞ」
中を調べると聞こえてドキリとした。心臓がドキドキして汗が吹き出る。
ガチャ!
コンコン!
馬車の扉が開けられ、何か叩いて確認している音が聞こえる。
ガチャリ。
物音がしている間、僕とニヤはギュッと抱き合って息を潜めてジッとしていた。
「問題ありません、ではお気を付けて」
「任務ご苦労様」
パシッと鞭の音が聞こえて馬車が動き始める。
ガタンガタンと規則正しい車輪の音が、ゴトゴトゴトゴトと言う音に変わって暫くすると「もう出てきていいよ」とガリレオ教授の声が聞こえてきた。
緊張で固くなっていた体を無理やり動かして、頭の上の板を押し上げる。
ガタン!
「ふぅ、さあニヤも出ておいで」
馬車のシートの下に隠された荷物入れから這い出して、ニヤも出してあげると二人して伸びをして体をほぐす。
御者台に繋がる小窓を開けてガリレオ教授に声を掛ける。
「ガリレオ教授、ありがとうございました。それで……何があったんですか?」
御者台の背中越しに聴かせて貰った話しでは。
僕の書いた詠唱の文字を調べるために、古代語に詳しい人物に調べて貰っていた所。何処から情報を聞いたのか第二騎士団の団長が突然押し掛けてきたらしい。
その時に「この文字を使っていたのは魔族の可能性もある」と言うのを聞き出した第二騎士団が、情報を持ってきた第一騎士団の団長に追求。
詠唱の出先が学園の生徒で僕だと言う事まで知られ、「魔族と繋がっている可能性がある者を学園に置いているのか」と、あの騒ぎになったらしい。
あのまま第二騎士団に捕まっていたらどうなっていたのかと聞くと。
きっと牢に入れられて「どうやってあの言葉を知ったのか、お前は魔族とどう繋がっているのか」と追求されて、相手の思う答えが得られるまで牢に閉じ込められただろう、と言われた。
「もし相手の思う答えを話さなかったら?」と聞くと。
「とても酷い目に遭わさていただろうな」と言う答えだった。
僕はあの言葉を使えるけれど、なぜ使えるかは分からない。あの文字も、コッチの文字を見ていると何となく頭に思い浮かんでいたのを書いただけだ。
コッチ? コッチて何だろう?
その後、北の街に到着する手前。
人気のない見通しの悪い峠道で、僕たちは馬車を降りガリレオ教授と別れて西へと向かって歩き始めた。




