新しい詠唱
さて、先生からお仕事を賜ったのだけれどコレを終わらせられるのは。
さっきまで先生にモフられて満更でない顔で、今度はニヤにブラッシングして貰っているイヅミさんです。
「ねえイヅミ」
僕は、先生に渡された本を手に持ってイヅミに声を掛けたのだけれど。
ペシッ!
少しは自分でやれ! と、しっぽで打ち払われてしまいました。
仕方なく机に座って本を開いてみる。
中級魔法の教科書、著者はジルヌール先生だ。
中級魔法に分けられる魔法は九種類、そして初めて光魔法の「ひーりんぐ」が出てくる。ひーりんぐは回復魔法と言われて体力回復と少しの傷なら治せる魔法。他の要素でも防御系の「うぉーる」や、複数攻撃の「かったー」、攻撃力が上がる「らんす」の魔法と種類が増える。
「えっと「ういんど」に「ふぁいあ」は入門でも書いただろ、あと「うぉーたー」がコレで、あとは」
既存の詠唱を、頭の中で僕の詠唱に当て嵌める。
例えば『げーる』は『Gale』、これでかなり強い風が湧き起こる筈なんだけど、案の定僕の場合は何も起きない。
強風 、げーる、Gale
風刀、ういんどかったー、Windcutter
水刀、うぉーたーかったー、Watercutter
水槍、うぉーたーらんす、Waterlance
火盾、ふぁいあうぉーる、Firewall
火槍、ふぁいあらんす、Firelance
土壁、あーすうぉーる、Earthwall
土槍、あーすらんす、Earthlance
光癒、ひーりんぐ、healing
「出来た!」
机から目を離し、「うーん」と伸びをして固まった背中と肩のコリをほぐす。
「見て、出来たよイヅミ!」
書き終わった紙を持って後ろを振り返ると、ベッドの上で仲良く寝ているイヅミとニヤの姿があった。
いつの間にか人の姿になったイヅミをニヤが抱えるようにして寝ている姿は、とても微笑ましくて姉妹のようにも見える。
実は、最近になってイヅミが人の姿でいる事が多くなっている。勿論他の人がいる場所では猫の姿か消えているんだけど、僕とニヤだけの時は猫より人の方が多くなってるくらいだ。
こないだそれとなく聞いてみたら「何となく?」と言っていたので、イヅミ的にはどっちの姿でも良いのだろう。
人の姿でいる時のイヅミは十歳位の女の子で、白髪のおかっぱ頭に猫の時と同じブルーの瞳。
それと、見た事のない服を着ている。前合せで上下が繋がっていてお腹の辺りを布で結んで止めてある服。
聞くと、やっぱり僕の記憶の中のイメージなんだって。
二人の寝ている姿をニヤニヤ見ていると、不意に目を開いたイヅミと目が合った。
「気持ちわる」
何だよー! 二人が仲良さげでいいなーって見てただけじゃないか! 何で「気持ちわる」なんだよー!
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ジルヌール先生が早い方が良いと言っていたので、さっそく先生の研究室まで教科書と詠唱を書いた紙を持って行った。
「早かったな」
相変わらずの先生の研究室、先生は机で何か書いている様子だったけれど、僕が書き終わった事を説明すると直ぐに顔を上げて紙を渡すように言ってきた。
「先生の部屋はいつも……」散らかってますね、と言おうとしたら「ギロッ」と睨まれた。
「ふむ」
ジッと紙を睨んでいる先生。
「そう言えば……」
僕が言いかけた所で固まっていると、続きを話せと促してくる先生。
「古代語の先生には、この文字は読めたのですか?」
チラリと僕を見た先生が椅子から立ち上がり、後ろの窓の方を向くとグッと背伸びをした。陽の光が眩しいのか目を細めて目頭を抑えてる。
「それなのだが、アベルはこの文字を読める人物に心当たりはあるか?」
ジルヌール先生のその質問に一瞬ドキリとした。街で見つけたあの店のお婆さん、あのお婆さんはこの文字が読めるようだったけど、それは余り言いたくないみたいだったし、それに勝手に喋っても良くない気がする。
「どうした? 心当たりがあるのか?」
黙っていたら知っているのかと深堀りされそうだったので、慌てて「知りません」と答える。
「古代語の教授にも読めないそうだ、今は古い文献を調べ直して貰って、同じ文字の書かれた書物がないか探して貰っている所だ」
先生はそこまで話すとクルリと僕の方に振り返り「とにかくコレは助かった。また実験の際には呼び出すと思うが手伝って欲しい」と、言われたので。
「あの約束を守って貰えるのでしたら何度でも書きますよ。何だったら上級魔法も書きましょうか?」
僕のその言葉に先生は体を固まらせる。
「上級魔法」もちろん、スキルが『大魔法使い』のジルヌール先生には使えるのだろうけど、その威力は今回の中級なんて目じゃないくらい強力だと授業で習っていた。
「上級……か、この中級魔法の詠唱が先日と同じように効果があり、さらに使える人間が増えればそこまで必要無いのかも知れんが。個人的にはどこまで強力な魔法になるのか見てみたい気もするな」
僕が見たのは初級魔法の『Gust』と『Bullet』だけですからね、上級どころか中級ですら予想も出来ません。
「僕は、今までの中級ですら見た事無いですから、それを見せて貰えるだけでも充分ですけどね」
などと先生には言ってみたけれど、本音は上級も見てみたいし、南門の外にも連れて行って欲しいと思っている。
取り敢えず先生の要件は済ませたし、要望も伝えたので部屋に帰ろうとすると。
「今回の依頼の報酬だ」と小袋を渡された。
「依頼?」
「君は学園の生徒でもあるが、冒険者でもあるのだろう? 冒険者にタダ働きさせてはいけないからな。本当はもっと渡したい所だが、コレの実用性が分かったら軍から巻き上げるから楽しみに待っているといい」
そう言われて冒険者と言う自分を久しぶりに思い出した。そう言えば冒険者ギルドにも行ってなかったな。




