検証の検証
日が暮れて、太陽の光が入らなくなった部屋の中では蝋燭の光だけが室内を照らし、二人の男の影が壁に大きく写し出されていた。
二人の男は顔を突き合わせ、その日取ったメモを見返しながら話し合っている。
「アベル君の、この詠唱と今までの詠唱では強さは三倍、さらに想像力でイメージを増すとさらに二倍以上の差が表れた訳だが……」
「しかも、最適要素で無い属性でも効果が出ています」
「もしこの詠唱を、前線にいる全ての兵士に覚えさせる事が出来れば。人数はそのままでも攻撃力が三倍から六倍にも上げられる事になる」
「その為には、あの詠唱を全員に覚えさせなければならない訳ですが……」
「それだけでは無いぞ! 今日のは言っても初級魔法の詠唱だ。これが、中級や上級魔法でも同じ事になるのなら、簡単に試す事も出来ないぞ」
今日の実験を思い出した二人は、興奮して思わず話し声が大きくなる。しかし、大きな問題がある事を思い出し二人の顔が苦虫を噛み潰したようになる、それもそうだ。
中級魔法の威力は初級魔法の五倍以上、上級魔法になるとその十倍ほどの威力になるが、更に上乗せされるとなれば試す場所はそう多く無い。
「それよりも、この結果をまずは学園長に話して今後の方針を決めてもらわねば」
「今日はもう遅いですから、学園長の元には明日の朝一番に伺う事にしましょう。それと、アベルに教える魔法なんですが……」
二人の話しは、蝋燭が燃え尽きるまで終わる事は無かった。
◆◆◆◇◇◇ ◆◆◆◇◇◇ ◆◆◆
翌朝、詠唱の文字を書いた紙を持ち。出来るだけ早い方が良いだろうと先生の研究室へと向かっていた僕は、窓の外にガリレオ教授がフラフラ歩いている姿を見つけた。
職員寮に帰っているのかな? と、あまり気にもせずジルヌール先生の研究室へと急ぐ。
「先生ー! ジルヌール先生、アベルです!」
扉の外から呼び掛けても返事がない。
ジルヌール先生も学園内の先生達が住む職員寮に部屋を持っているけれど、殆ど戻らず研究室で寝泊まりしている。
と言うか、授業時間以外でこの部屋に居ない時を見た事がない。
「せんせーい? 開けますよ」
開いてないよね、と思いながら扉のノブに手を掛けると、簡単にノブが下がって扉が開いた。
「先生?」
部屋の中を覗くと、いつもの様に本と書類まみれの部屋の奥のソファーと言う定位置に、うつ伏せで突っ伏して寝ているジルヌール先生の姿があった。
足元に散らばっている書類や本を避けながら、ジルヌール先生の近くへと進み。
「先生、昨日の詠唱を書いてきたのですけれど」
そう言うと、まるでばね仕掛けの人形のようにガバッと起きてきて僕が手に持っていた紙を奪い取る。
「……」
ジッ、と紙に書かれた文字を見つめる先生。
「やはり……読めんな」
昨日イヅミも言っていた通り、先生達はこの文字を読めない。
古代語の研究をしている教授先生に見て貰うと言っていたので、取り敢えず先生に紙を渡して僕は教室へと戻って行った。
◆◆◆◇◇◇ ◆◆◆◇◇◇ ◆◆◆
アベルが持ってきた詠唱を書き込んだ紙を受け取ったが、やはり私には読めないものだった。
対応する現在の詠唱と並んで書いてあったので、昨日試した「Breeze」や「Bullet」は分かるが、他の魔法の文字については読めない。
出来る事なら、何故アベルがこの詠唱を知っているのか、何故この文字を読めるのか、それも追求して聞いてみたい所だが……。
今はこの詠唱を他の学生にどうやって教えるか、昨日手伝って貰った上級部二年のアルフレッド君は素質がありそうだったな。
彼だと二年生だから実戦に即したこの詠唱を知っていても問題ない、D寮といえ寮長と言う立場も経験しているので人を纏めるのも上手いだろう。
「おっと、もう時間か」
考え事をしていたら、約束していた時間が近づいていた。アベルから受け取った紙を持ち研究室を出ると、学園長の部屋へ向けて急ぎ足を進めた。
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コンコンコン!
「学園長、ジルヌールです!」
返事を待って部屋へと入ると、そこには既にガリレオ教授の姿があった。
明け方に別れたばかりだと言うのに平気そうな……いや、よく見ると目の下にクマがある。
きっと高級なポーションでも飲んでやり過ごしているのだろう。
「すみません、こんな早い時間に押し掛けてしまって」
学園長の机の前まで進み、謝罪した後に要件を伝えようとした所。
「構いませんよ、要件についてもガリレオ教授から聞いています。何でも、今までの数倍の効果を発揮する詠唱が発見されたとか? それが事実なら戦況に大きく影響を与える事になりますが、先ずは先生方の意見を聞かせて頂きましょう」
それからガリレオ教授の説明が始まり、私はアベルが持ってきた詠唱の文字が書かれた紙を学園長に見せて新しい詠唱の可能性を大いに語った。
一通り二人の熱の籠った説明が終わると。
「ふーむ、そこまで魔法の威力が上がるとなると、訓練場どころか学園内でも試すのは難しくなりますね」
「やはり学園長もそう思われますか。ですので、学園長から騎士団に掛け合って頂いて、南門の外にある演習地の使用許可を貰って欲しいのです」
学園長は顎に手を当てて少し考え込むと。
「ふーむ、いきなり演習地は難しいだろうな。騎士団から誰かを呼んで、最初は学園の訓練場でこの詠唱の凄さを見て貰ってからと言うのではどうだろうか?」
「そうですね、では騎士団への連絡はお願い致します。こちらは学生に話しをつけておきますので」
学生と聞いて学園長が驚いた顔をするが。
「私が魔法を使って見せても『大魔法使い』だから当然と思われてしまうだけです。普通の学生だからこそ効果があると思われます」
「確かに。では、私は騎士団に連絡を取って日取りを決めるから。ジルヌール君は当日魔法を披露する学生に目星を付けておいてくれよ、くれぐれも失敗なんてしないように」
「分かりました」
学園長は学生に目星等と言うが、まだ詠唱に成功しているのは二人しか居ないのだ、それに一人は上級部とは言え一年なので、当日魔法を披露出来る学生は一人だけ。




