ギルドの資料室
(この業務日誌は、今から五十年くらい前のものにゃ。たしか王都移遷の直後くらいなのにゃ)
王都移遷、イヅミが言うように五十年くらい前に急に発表されて、それまで王都だった場所から今のこの場所に王都が変わった、歴史のテストでも必ず出る出来事だ。
(そんな古い業務日誌が何故ここに?)
(ここが王都になる前の、街の冒険者ギルドだった時の日誌みたいだにゃ)
(誰が書いてるの?)
(三人の名前があるにゃ、エリー、マイケル、スミス)
(えっ!? スミス?)
コンコンコン!
その時、資料室の扉がノックされてスミスさんが入ってきた。
「アベルさん、掃除の方はどんな具合ですか?」
僕は慌てて立ち上がると、スミスさんを振り返る。
「もう少しで終わります」
スミスさんは部屋の中を見回して、驚いた顔をしている。
「本当にもう少しで終わりそうですね。あれだけ乱雑にあった資料もキチンと整理されてますし、部屋もキレイになっていますね」
「部屋の掃除はニヤが頑張りました」
「終わったら下に降りて来てください、これなら依頼達成で問題ないでしょう」
「分かりました、あとコレを片付けたら降りて行きます」
そう言って、手に持っていた業務日誌を棚に戻そうとしたところ。
「ん? アベルさん。それは何の資料ですか?」
「これは、この冒険者ギルドの古い業務日誌のようですね」
スミスさんが手を伸ばしてきたので、そのまま業務日誌を手渡す。
パラパラとページをめくり内容を確認すると、ある所で手が止まった。
「お祖父様?」
「えっ?」
スミスさんが慌てて日誌を閉じて、もう一度部屋の中を見回す。
「アベルさん、ここの依頼は完了で大丈夫です。下に降りて報酬を受け取って下さい」
そう言われて、部屋を追い出すように外へ出されてしまった。
(さっきスミスさん、お祖父様って言ってたよね?)
(そう聞こえたにゃ)
僕は資料室の方を振り返って見る。
「依頼達成報告して帰ろっか」
一階の受付に、依頼完了のサインを貰った紙を渡す。
「はい、お疲れ様でした。奥の保管室もキレイにして貰えて助かったわー、あそこ入るのちょっと苦手にしてたのよね」
最後に受付のお姉さんから感謝されて、報酬を受け取ると冒険者ギルドを出た。
「さて、ニヤ帰ろっか」
ニヤと手を繋ぎ、貰った報酬でコンドールさん達にもお土産を買って帰ろうかなと思っていると。
あっ、来たぞ。
『わらしべ長者』の強制イベントが発生して、足が勝手に進み始めた。あのメモの内容にはすごく興味があったので、このままスキルに任せて歩く。
僕は中央の冒険者ギルドを出て、西門街の方に向かって歩いている。少し大通りを歩いていたら直ぐに脇道に入って行き、そこから二度ほど角を曲がって、何となくひっそりとした路地を進むと何も看板も出ていない扉の前で止まった。
「ここ?」
扉の横にある小窓を覗くと、何となくお店っぽい雰囲気だったので扉を開けて中に入る。
ギッ、ギーィ!
「こんにちわぁ」
中に入ると、薄暗い部屋の中には棚に色々な本や、何か分からない液体の入った瓶、天井から吊り下げられた草花に干からびた何か。奥、と言うほど奥行きのない部屋には誰も居らず。布で仕切られた向こうから微かに人の気配がしていた。
「すみませーん?!」
僕は、奥にいる人に聞こえるように大きめの声で呼びかけると、目の前にあった小瓶を手に取る。
ゴソゴソと奥から音が聞こえたかと思ったら。
「何だい! 聞こえてるよ! まったく煩いねえ」
仕切の向こうから現れたのは、かなりヨボヨボのおばあちゃん。
「はぁ?! 誰が死にかけの婆さんだって?!」
そんな事言ってないし!
「あっ、すみません。あの……ここは何屋さんですか?」
「はぁ! 何屋かも分からずに入って来たのかい! 客じゃないなら帰っとくれ」
おばあさんは、手元にあった棒を振り上げて僕を追い払おうとする。
「ごめんなさい、たぶん魔法の道具屋さんだと思ったのだけど自信がなくて」
おばあさんは、棒を振り回すのを止めて。
「なんだい、分かってんじゃないか。で? 要件は? 何か買うのかい?」
僕は手に持っていた小瓶を慌ててカウンターに出すと。
「あっ! あの! これ下さい!」
「あん?」
おばあさんが僕のことをジロリと見る。
「ふーん、あんたみたいな子供で惚れ薬ねぇ……」
アババババッ!
「あっ、いやっ、えっと!」
僕は追い出されてはかなわないと、収納からさっきの紙切れを取り出しておばあさんに見せる。
「これ、おばあさんには読めますか?」
テーブルに置いた紙をチラッと見たおばあさんの動きが止まる。小刻みに震え、恐る恐る手を伸ばして紙を指差すと。
「お前さんは、ここに書いてある言葉が読めるのかい?」
僕は、ゴクっとツバを飲み込んで。
「はい、読めます。『The Devil 』「お止め!!」」
「皆まで言わなくていいよ。まったくなんて日だい、こんな物見せられて命が縮むかと思ったよ。で、お前さんは何でこれを私に見せたんだね?」
おばあさんは、紙を早く終えという風に手を振ると、ポットと茶碗を二つ出してきて、お茶を入れてくれた。
「僕のスキルが、コレをここに持って来させたんです。紙が、僕の手を離れたという事は、おばあさんに見せた事は正解だったという事になります」
「スキルねぇ、それで?」
「分かりません。いつもだったら何かと交換で僕の手を離れるんですけど、今回は何も貰っていないし」
「そのスキルの事、もう少しだけ詳しく話してごらん」
僕は、おばあさんにスキル『わらしべ長者』で以前働いた時の話しをして、手に触れた物が離れなくなり、必要としている人と物々交換されるとスキルが解除される事だけ説明した。
「ほー、それじゃあこの紙を拾った時にスキルが働いてこの店まで辿り着き、私に見せたらスキルが解除されたという訳だね」
「そうです」
「だけど私はアンタに何も渡していないよ?」
「そうなんです、だから僕も不思議に思っているんですけれど」
(アベル……コレ……付いちゃった)
その時、ニヤから頭の中に言葉が届いた。
「ん? ニヤ、何が付いたって?」
少し離れた所で、お店の中を興味深そうに見ていたニヤが、右手を開いて立っていた。
「あっ!? お前さんソレ嵌めちまったね」
見るとニヤの右手の人差し指には、指輪が嵌っていた。
「えっ? 何、それがどうしたの?」
「取れない……」
ニヤは指輪を外そうとしていたけれど、嵌ってしまい外れないようだ。
「あーあー、全くしようがないねぇ。それは身代わりの指輪だよ。それを付けた状態で致命傷の攻撃を受けた場合に、一度だけ指輪が身代わりになって受け止めてくれると言うシロモノさ。だけど、使える者には制限があって、普通は嵌まらないものなんだけどねえ……」
ニヤの指にはその身代わりの指輪がピッタリと嵌って抜けないと言う。
「あのー、その指輪……おいくらでしょうか?」
僕が恐る恐る値段を聞くと、ニヤリと笑ったおばあさんがドカッと椅子に座り、お茶をズズーッと飲み干してから。
「交換だよ! アンタのスキルで言う交換だろ? どうせ何年も使える者が現れなくて放られていたんだ、勝手に持って行きな」
「あっ、じゃあこの紙を置いて「あー!! こんなもんポイポイ出すんじゃないよ! それも誰にも見られない所に隠しとくんだね」」
それだと交換じゃないんじゃないかな?
それからおばあさんは一言だけ「その文字については、機会がきたら教えてやるよ」と言って、もう店を閉めるからと追い出されてしまった。




