学園生活
今日は、先日のテストの結果が貼り出される日。どう見ても皆の顔色は良く無い気がする。特に上級部の問題は難しかったようでアルフ先輩の顔も真っ青だ。
「ほら、結果も見ないでしょげていても仕方ないですよ。見に行きましょうよ」
順位が貼り出された場所にはやっぱり生徒が溢れていた。それでも少し待って前に出ると順位を確認する。
「あれ?」
「うそ?!」
上級部一年、一位の場所。
そこには、ボクの名前が書いてあった。
てっきりここでも操作されるのかと思ったけど、何だったんだろね?
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「ジルヌール!! 何故私の邪魔をする!」
ジルヌールの目の前に立ち、怒りの目で睨みつけるのはシルビア副学園長。
「邪魔などしていない、採点の結果を正しく評価して貰っただけだ」
「邪魔しただろう! 態々師匠まで呼び寄せて採点の確認をさせるだなんて!」
そのおかげで正しい採点結果のまま、順位が貼り出される事になった。
「何だか面白い問題が出ていたようだからな、専門家の意見を聞いたまでだ。ガリレオ教授はとても面白がられていたぞ、『シルビアへの問題を学生がこうも理解して説いてくれるとは』とな」
「あれを説いた生徒には、ぜひ教授のゼミに来て欲しいとも言われていたぞ」
「くっ!」
恩人である教授に参加されて、思ったように事が進めなかったシルビアは、恨むような視線を残してジルヌールの前から立ち去っていった。
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「先ずはクラス全員の自己紹介からだな、勿論知っている者もいるだろうが、今回は特に初めても者も居そうなので全員にやって貰おう」
遂にまともな授業が始まりそうな予感。
「最初はそうだな……」
その時、教室のど真ん中に座っている生徒がスッと手を上げた。先生の顔が緊張して強張っている。
「エドモンド先生、僭越ながら僕が最初に自己紹介をさせて頂いても宜しいでしょうか? そうすれば皆も緊張が解れて、次からは話し易いと思うのですが?」
その生徒からの至極真っ当な提案に、先生も緊張を解いて頷いた。
「成程、とても良い提案ですランバート殿下。それでは殿下から自己紹介をよろしくお願いします」
殿下? なるほど。同学年にいると聞いた第三王子がこの学生なのか、緩いウェーブの掛かった金髪に整った顔立ち、背も高く、着ている服制も凄くキラキラして見える。
殿下は、スッと立ち上がり……この立ち上がる動きや、立ち上がった後の立ち姿もいちいち洗練されていて優雅で目を引く。
「私の事を知っている者も多いと思うが……」
ここでもチラッと僕に目線が届く。
「この国の第三王子。ランバート・ロイ・ドルトルンだ。王子とは言え、この学園にいる間は皆と同じ学生だから同じ様に接してくれ。初級部から一緒のメンバーにはもうずっと『ロイ』と呼んで貰っている、よろしく頼む」
成程、姿勢や話している時の仕草は芝居かかっているような、目を惹く動きなんだが、言っている事は凄くまともだ。
初めて王子と同じクラスになれた女学生なんかは、もう恋に堕ちた目をしているが、男子学生からの握手にも素直に応じているし。案外良い王子様なのかもな。
「では次の自己紹介の生徒は、僕に指名させて貰っても良いですか? 先生」
なんと! 自己紹介を指名制にしてきやがった。このクラスに僕の知っている生徒なんていないのに。
「では、僕が次に指名するのは……アベル君にお願いするよ」
王子から指名されずにガッカリする女子生徒と、ニヤニヤしてこっちを見る数人の生徒達。まあ、何とでもなるか。
「せっかく王子からのご指名……『ロイだ』 えっ?」
「さっきも言ったろ? ロイと呼んでくれ」
初っ端からハードル上げるなあ……。
「ロイからの指名なので挨拶させて貰います。名前はアベル。グリードル領の端の端の田舎の町から出てきました。後見人はグリードル子爵とコンドール商会に頂いています。スキルで土魔法のような真似事と収納の様な事が出来ます。よろしくお願いします」
「で、次に話して頂く方ですが……」
ここまで言って、さて次に誰を指名するかと悩む。ほんと誰も知らないんだけどな、と思っていると。隣の席から紙がスッと差し出された。
「では、アニータさん。よろしくお願いします」
僕の指名した女性がスッと立ち上がる。
「ご指名、ありがとうございますアベルさん。同じクラスで嬉しいわ、今後とも宜しくお願いしますね」
アニータさんの姿は、赤い巻き髪のツインテールでややツリ目がちにバイオレットの瞳。リボンの沢山ついた高級そうな仕立ての制服だった。
「アニータ・フォンテンバッハです。フォンテンバッハ侯爵家の次女、スキルは『賢者』、テストでアベルさんに負けたのは良い刺激になりましたわ。次は負けません事よ。では、次はトールストさんお願い出来ますかしら」
侯爵!? そうか、わざわざ僕のために紙を渡してくれたのは貴族の階級に合わせるために? これで他の生徒達は、自分の階級に合わせて次を指名する事が出来る。
見ていると、王子の回りを囲んでいる生徒から自己紹介が進み、だんだんと離れていくのが分かった。僕のように最後列なのは男爵か名の知れた商人の子。と、そう言えばアニータさんは何故僕の隣に座っていたのだろう?
全員の自己紹介が終わった所で、残りは明日からの授業の説明でこの日は終わった。
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「と、言う事があったのさ」
いつもの食堂、目の前にはアルフ先輩とアンネで、ニヤが僕の隣をゲットしていた。二人に今日の教室での出来事を話す。残念ながらアンネはBクラスだったんだよね。僕もBクラスが良かったな……。
「アニータ・フォンテンバッハ侯爵令嬢……」
アルフ先輩がボソッと呟く。
「アニータに何かあるの?」
「「アニータ!?」」
「いやだって、王子様がロイと呼べって言ったら、どうしても他の貴族はこうなるでしょ?」
「あー」
何だかロイの取り巻きの生徒は、名前だけで呼ばれるのにいい顔はしていなかったけれどね。
アニータからは直接、「『アニータ』と呼んでくれて宜しくてよ」と、言われてしまったのでそう呼んでいる。
「アニータ嬢と言うよりも、フォンテンバッハ家の方さ。王家に一番忠誠を誓う侯爵家でありながら、その力は王家と同等かそれ以上。アニータ嬢は第二王子の妃候補だったのだけれど「アニータは誰の嫁にもやらん!」ってアニータ嬢のお祖父様が言ったもんだから、その扱いが腫れ物になってるのさ」
成程、それで席も離れていたのか。
「アニータ様自身はとても素敵よ。格下の貴族や商人とも分け隔てなく接してくれるし、私も何度かお話しした事があるわ」
アンネも初級部時代に話した事があるそうだ。まあ、話し相手が誰も居ない状況よりは、接し易いのかな。
「あとは……」
チラッと目線を下げて、手元に置いてある手紙を見る、授業の終わりに担任から渡された手紙。
何でも偉い教授先生から、ぜひ話がしたいと招待状が届いていたのだ。こんな田舎出の平民と何を話したいのだろう?
第三王子や侯爵令嬢のいる教室で、アベルは普通の学園生活を送る事が出来るのでしょうか?
次回は、アベルを呼び出した教授先生とのお茶会です。




