旅の続き
とにかく無我夢中で走った僕たちは、自分が何処にいるのかも分からなくなっていた。
朝になり日も登ってきて周りの景色も見えてきたので、ちょうど良さそうな木の影で一休みする。
取り敢えず山からは離れたい。
手っ取り早く山と反対方向に進もうと思ったのだけれど。待てよ、と昨日の事を思い出した。
僕が寝転がって星を見ていた時、あの魔族はどっちに向けて移動していた? 王都へ向かっていたなら南の筈だけど、元々魔族が住んでいるのが王国のずっと南だと言うのなら、北に向かうのが本当の筈、しかも僕たちの方が王都の北にいるのに何で魔族はコッチを飛んでいたんだろう?
考えても訳が分からない。
軽く食べ物をお腹に入れてニヤを落ち着かせると、僕たちは山から離れる事にした。近くの村や町は、あの魔族が僕たちを探しに来て迷惑を掛けてはいけないと思い立ち寄らなかった。
そして二カ月が過ぎた頃。
「はぁ、はぁ、やっとついた」
僕たちは村や町を避け、大きな街道も避けて歩き、出来るだけ人目に付かないようにして王都を目指して進んできた。
そして、ようやく遠くに王都の城壁が見える場所まで辿り着く事ができた。
いろいろ回り道をした結果時間が掛かった訳だけど、何も成果が無かった訳ではない。
「アベル、あそこに何かいる」
「よし」
シュッ!
スカッ。
(にゃ!)
ドスッ!
イヅミの放った石の鏃が兎を倒した。素早く兎を回収して収納に収めるとその場を離れる。解体は水のある場所に出てからだ。
ずいぶんと森や林の中を歩き回った結果、ニヤの気配察知は範囲も広がり、かなり正確に分かるようになった。
僕の収納も単に出し入れでなく。速度を出して相手にぶつける事で遠距離攻撃が出来るようになった。
と言ってもまだまだ当てる事は難しくて、イヅミの方が上手く当てられる。
遠距離攻撃用に、石を割って鋭くした鏃を大量に作って収納に入れてある。
ちょうど良い石が見つかった場所で作業に没頭していたので、これも移動に時間が掛かってしまった原因だ。
少し歩いて流れのある小川を見つけたので、先ほどの兎を解体して肉を川に漬けて冷やしておく。
その間、僕らは久しぶりの水浴びをした。何時もは収納に入れている水を桶に出し布で拭くだけだけど。全身に水を浴びられる爽快感は違う、日中の暑さもあってとても気持ちが良かった。
「ぷはぁー、生き返る」
水浴びしてサッパリした時に思わず出た言葉に。
「アベルは時々変な言葉を使うにゃ」
「そうかな?」
イヅミが何か言いたそうだけど、何処が変なのだろう?
「生き返る……」
ニヤもサッパリして気持ち良さそうだ。ニヤにはちゃんと水浴び用の服を着せている、僕のように下着一枚にはなっていないよ。
水浴びが終わって洗った服を乾かす間に、捌いた兎肉と取り出した内臓の一部を焼いてお昼にする。森の中で見つけた香草やキノコを一緒に焼いて香り付けした兎肉はメチャクチャ美味しかった。
「さて、じゃあ後は歩いて王都を目指しますか」
「おー」
「にゃー」
そうして、久しぶりに街道に出て王都の入り口を目指して僕たちは歩き始めた。
・
・
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目の前に見えていると思った王都は想像以上に遠かった、日が暮れる直前になっても城壁がまだまだ遠い。
「やばい、ボチボチ日が暮れる」
畑の向こうに日が沈みそうになっている夕暮れ。
見回すと、早々と諦めて街道の端の方に寄ってテントを張り始める人も出始めた。
「僕らもここで野宿になるのかな」
ニヤも歩くのに疲れているみたいだし、イヅミは早々に姿を消していた。
どうしようかなと、悩みながらテントを張っている人たちを見ていると。
「あれ? アベルさんじゃないですか?」
突然、後ろから来ていた荷馬車の御者から名前を呼ばれた。
びっくりして振り返ると御者さんの顔を見上げる。
「やっぱりアベルさんだ、分かりませんか? コンドール商会のアジです」
そこにいたのは、何度もコンドール商会に出入りする間に顔見知りになったアジさんだった。
「いやー助かりました。でもアジさんは何でこんな遅くに?」
僕とニヤは、アジさんの荷馬車に乗せてもらって無事に王都に入る事が出来た。大手商人で商人組合に登録している荷馬車なので優先門まで使えたので本当に助かった。
「来る途中で馬車の軸が壊れてしまってね、修理している間に遅くなってしまったんだよ」
どうりで、さっきから左前の軸からキーキー音が聞こえると思った。
アジさんは、これから荷物をコンドール商会の王都支店に渡して馬車を修理に出しに行くという。
遅くなる事は、王都に向かう他の御者さんに話して、店に知らせて欲しいとお願いしていたそうだ。
「さて着いた、アベルさんは少しここで待ってて貰えるかい?」
そう言うと、アジさんは商会の裏門を叩いて中の人を呼び、何か話しをすると僕を手招きする。
「何ですか?」
「アベルさん、この人はこの商会の番頭さんで、本店にいる番頭さんの息子のジーンさん。アベルさんの事はジーンさんにお願いしておいたから、今日はここに泊まるといいよ」
ええーっ! 馬車に乗せて貰えただけじゃなくて泊まらせて貰えるなんて。
そう言うと、ジーンさんは「本店の大切なお客様を黙って帰らさせたなんて知られたら旦那様や父に叱られてしまいます」と言って中へと案内してくれた。
足を洗う桶まで出してくれて、僕とニヤが支度を終えると。お店とは違う階段を登って三階まで上がる。
コンコンコン!
「奥様、本店の大切なお客様をアジさんが連れて来られたので、お部屋へご案内したいのですが」
途中の部屋でノックをして、中の主にそう声を掛ける。
「まさか!? 主人が手紙で話していたアベルさんが来られたのですか?」
中から、女性の驚いた声が届いてきた。
「はい、アジもアベル様だと」
「すぐに奥の部屋に案内差し上げて、私もすぐに参ります」
そんなやり取りの後、僕とニヤは奥の部屋のフカフカのソファーに座って奥様が来られるのを待っていた。
扉がノックされて、品の良さそうなとても美しいご婦人が入ってくる。
「お待たせ致しました。当商会の王都支店の支店長をしておりますコンドール・エバと申します。アベル様、良くぞ王都を訪れて頂きました」
膝を曲げてキレイな礼をされるエバさんに見惚れていると、ニヤからお尻をつねられる。
「始めましてアベルです。えっと、コンドール・エバと言う名前という事はコンドールさんの?」
「はい、グリードル領にあるコンドール商会は私の主人の店になります」
コンドールさんの奥様だったかー。




