魔族との邂逅
テントに寝転がり、顔だけを出して夜空を眺める。
目前には空いっぱいの星・星・星。
一際青く輝く星、大きく赤い星、様々な形に表されたり占いに使われたりする星たちが、本当に沢山たくさん煌めいている。
そんな星空をボンヤリと眺めていると、チラッ、チラッと星が瞬いているのに気が付いた……いや違う、何かが移動して星の光を遮っているんだ。
あっ! さっき瞬いた隣の星が瞬いた、同じ星が瞬いているんじゃない。
鳥? あんなに遠くの空まで上がれる鳥もいるのかな? それにしては大きくない? それに夜に飛ぶ鳥なんていたかな?
そんな事を思っていると、その鳥? の姿が突然見えなくなった。
「へーえ、私の姿が見えるだなんてね」
その声は急に頭の上から聞こえた。
「だ、誰だ!?」
僕は慌ててテントから飛び出し、目の前に現れた声の主を見る。
うっすらと星明かりに照らされたその姿は。
手足が長い人間にも見え、褐色の肢体を包むのは黒い革が辛うじてのみ、背中には黒い羽根が生え、そしてその頭には特徴的なツノ……。
「ま……ぞく?」
「まぞく」と呼ばれたその人? は、面白そうにニヤリと口元を歪める。
「魔族だったらどうする? 泣き叫んで命乞いするかい?」
一歩近寄り、その長い両手を広げて、姿を大きく見せる。
「話しに聞いた魔族なら、こんな会話もせずに僕を殺してる」
怯えもせず堂々と答える僕に、言われた魔族は少しだけ顔を顰める。
「お前は魔族が怖くないのかい? 人間どもは魔族が恐ろしい悪魔だと教え込まれてきているのだろう?」
確かに僕たちが知っている話では、魔族は魔物を従えて人間を襲い、その全てを殺してしまう恐ろしい悪魔だと教わった。
けれど、いま目の前にいるこの悪魔からは、そんな恐ろしさは感じない。
「僕が見た魔族は貴女が初めてだから。恐ろしいかどうか分からない」
その魔族は、今度は面白いモノを見つけたような顔をしてまた一歩近寄ると。
「面白い、私たちを怖がらない人間なんて勇者以外にもいたんだね。坊や、名前は?」
「人に名を尋ねるなら、自分から名乗ってください」
ここで、初めて魔族が驚いたような顔をした。
「初めてだよ、魔族にそんな口を聞きた奴なんて。まあそうだね。礼儀として教えてあげる、私の名はIzabella、こっちの言葉で……」
「Izabellaか、分かった。僕の名前はAvel。それより、勇者を知っているの?」
Izabellaが、一瞬変な顔をしてから僕の質問に答える。
「知っているさ! 忌々しい勇者、唯一私たち魔族と魔王様を倒し得る存在。最近、新しい勇者がこの王国に現れたと聞いてね、ちょっとどんな奴か見に行こうとしていたのさ。そしたら、この山から私の事を見ている奴がいるじゃないか、それで面白そうだから降りてきたってわけさ」
「勇者が魔王と魔族を倒す」僕たちがずっと聞かされた言葉は魔族の間でも言い伝えられていたんだ。
「勇者を見に行ってどうするつもりだったの?」
「どうするつもりもないさ。まあ、あまりに頼りない勇者だったら、面倒になる前に私が殺してしまっても良いんだけどね」
ブワッと僕の体の熱が上がり、怒りが湧き上がる。僕の小さな時からの友だち、花が好きで、争いなんて絶対にできないテツが、こんな悪魔と戦うなんて。
僕は、バッと両手を広げて魔族の前に立ち塞がる。
「どうしたんだい坊や? その目の怒りは私に向けているのかい?」
「王都には行かせない、勇者を殺すなんて絶対にさせない!」
魔族はハッと息を吐き出して。
「行かせない? 丸腰の坊やに何が出来るって言うんだい?」
そう言われて、訳も分からず咄嗟に魔族に向かって飛びかかる。
ガッ!
「アグッ!」
飛び掛かった僕を、魔族は簡単に左手一本で捕まえて頭の上まで持ち上げた。
「どうしたんだい? 私を倒すのかい?」
僕は手足を振り回して何とか手を離させようとするけれど。
「煩いよ!」
ガッ!
魔族の右手が頬を殴る。
口の中に広がる鉄の味。
ペッと口の中の血を魔族の顔に掛けると、もう一度右手が動いた。
「このっ!」
飛んでくる右手を、僕は咄嗟に左手で掴んだ。
「くそっ! 離しな!」
その時、魔族の右手の甲にあった何かに僕の指が触れ、スキル『わらしべ長者』が発動した。
左手に何かが収まる感覚。
その瞬間、魔族が突然苦しみ出し、僕の首を掴んでいた手が離れ、僕も地面に落ちる。
ドサッ!
ドサッ!
僕が落ちたと同時に、地面に倒れ込む魔族。
「キ……サマ……何……を……した」
倒れ込んだ魔族は力が入らないのか、ピクリとも動かず僕を睨む目も弱々しい。
「ニヤ! 逃げるよ!」
僕は、その瞬間にテントの中にいたニヤを捕まえて逃げ出した。とにかく無我夢中で山を下って森の中を走り、朝になるまで走り続けた。
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(アベル! アベル! 怖い! ニヤ怖い! アレ何?!)
ニヤはずっとこの調子で怖がっている。
僕はあの魔族を直接見ても怖さを感じなかったのに、ニヤは本当に恐れているみたいだ。
(アベル、何をしたにゃ?)
イヅミも、何が起こったのか分からないようで僕の話しを聞きたがっている。
「僕にも分からない。突然魔族が目の前に現れて話しをしていたのだけれど、勇者を殺すと言われたからカッとなって飛び掛かったんだ。もう少しで殺されそうになった時にスキルが発動して……そうだ! スキル『わらしべ長者』が発動して何かが僕の手の中に入ってきたんだ!」
咄嗟に収納に収めたそれを取り出して見る。
「何だ……コレ」
手のひら位の大きさで、紅玉のように光り輝くそれは「ドクン、ドクン」と脈打つように動いていた。
「気持ち悪い」
「アベル、そんな物捨てるにゃ」
イヅミ達はそう言うけれど、コレが僕の手に入った瞬間にイザベッラは苦しみ出した。
そう思うと捨てるのは違う気がして、また収納へと戻しておいたんだ。




