麦わら
4作目の長編小説です。
楽しんで頂けると嬉しいです。
カラーン・カラーン!
カラーン・カラーン!
町の中心にある教会の鐘の音が、町全体に広がって響き渡ると家の中から色々な格好をした子供が出てきて教会に向けて集まり始めた。
この国の子供は、全員十歳になる年の秋に神様からスキルを授かる神託の儀を受ける事が出来るのだ。
子供達の目は未来への希望でキラキラしていた、裕福な家の子は親の後を継ぎもっともっと家を大きくしようと夢を見て。
貧乏な家の子は、優良なスキルを得て絶対に成り上がろうと決意して。
今日はその大切な儀式の日、アベル達も十歳になったので教会へスキルを授けて貰いに集まっていた。
「僕は絶対に勇者になるよ!」
アベルは十歳にしては背が低く、力も弱かったので周りの友だちから揶揄われたり、遊んでいても置いていかれる事が多かった事もあり、殊更強くなりたい勇者願望が強かったのだ。
「はっはっは! 俺は重戦士だったぞ! これで俺に敵う奴はいないだろう!」
同じ年の中では一番体の大きな友達が、重戦士のスキルを授かったと大声で自慢していた。
一緒に並んでいる残り三人の友だちもソワソワして待っている。
「私は料理人のスキルで料理を作って、お母さんのお店をもっと大きくするの!」
唯一の女の子ルルは、この町で美味しいと評判の食事を出してくれるお店の看板娘、料理人スキルでお母さんの手助けをしたいらしい。
「僕は商人、お父さんのお店を王都にも作ってあげるんだ」
アベルは心の中で『どっちも夢が無いなあ』と思っていた。
「テツはどうなの?」
ゴンドラ族のテツは、力は強いけれど臆病で、いつもアベルたちの後ろに隠れているような子だ。
「僕は、お花を育てる農家が良いなあ」
「お花を育てる? そんなスキルあるのかな?」
そんな話をしていると順番が進み、次はアベルの番になった。
「僕は最後でいいや、テツが先に受けなよ」
アベルはそう言ってテツに順番を譲ったけれど、内心は最後に勇者のスキルを貰って皆に自慢したいと思っていたのだ。
テツがスキルを授けてくれる宝珠に手を当てて、神父様が呪文を唱える。
「神よ! ミスリアドスの力よ! テツにスキルを与えたまへ!」
手を置いた宝珠が七色に輝き始める、その煌めきがテツの頭上へと降り注ぐ中でテツがボーッと空中を眺めていた。
目の前に現れるスキル画面を見ているのだ。このスキル画面は普段は他の人には見えないが、本人が望むと他の人にも見せる事が出来る。
「どうしたんだいテツ? 何のスキルだった?」
「〜者」
「え?」
ボーッとしているテツが、目を覚ましたようにハッキリと答えた。
「勇者って書いてある」
「ええー!?」
テツのその言葉にアベルは驚いて大声を出してしまった!
そしてその声に、神父様や他の大人達も寄って来る。テツはスキル画面を他の人に見えるようにして、周りの人たちに見せた。
「本当だ……本当に勇者様のスキルが出たぞ!」
「勇者様だって!?」
勇者のスキルが出たと教会の中が騒ぎ始める。
ザワザワと教会の外まで騒めきが広がり、神父様も周りの大人たちも大騒ぎになっている中で、アベルは次は自分の番だと神父様の袖を引いて儀式を急かした。
「まってよ! 次は僕の番なんだから! 僕だって勇者のスキルが出るんだから、皆んな見ててよ!」
神父様は袖を引かれて仕方なさそうにアベルの手を宝珠に置き、呪文を唱える。
「神よ! ミリアドスの力よ! アベルにスキルを与えたまへ!」
「待って! 呪文がさっきと違くない?」
さっきのテツの時とは違い、黒と金の光が宝珠から立ち上がりアベルへと降り注ぐ。
目の前に現れるスキル画面。
【名前、アベル
年齢、十歳
レベル、一
スキル、「わらしべ長者」】
「何?! スキル『わらしべ長者』って何なの!?」
スキル画面を開いて神父様にも見せるが、神父様も「初めて見るスキルだ」と言うだけでテツの『勇者』が気になってマトモに相手もしてくれない。
それよりも本物の『勇者』のスキルだと、大人や他の子供たちも皆なテツの周りに集まって騒いでいる。アベルは一人混乱の中から抜け出して、教会を出て家に帰ろうとした。
教会の正門を出て街の通りに出ると、日が傾きかけた町は忙しそうに人々が行き来していた。
目の前を麦をたくさん積んだ馬車が通り掛かり、アベルはとっさに避けようとして何かに躓いた。
「いてっ! もう、危ないなあ」
そう言って起き上がったアベルの手には、一本の麦わらが握られていた。
「なんだよ、こんなの」
アベルは手を振って麦わらを捨てようとするが、麦わらが手から離れない。
それどころか、何度も何度も手を振っても麦わらがての動きに付いてくるだけだ。
すれ違う町の人が「手品かい?」と聞いてきたので、慌てて麦わらを持って家へと急いだ。
「あれ? 何?」
家まであと少しと言う所になって、アベルの体が勝手に違う方向に向かって動き出した。
止まろうと思っても、向きを変えようとしても足が止まらない。
「何これ! どうしたの僕の体? 怖いんだけど」
アベルは怖くなって今にも泣きそうになっていた。暫くしてアベルが辿り着いたのは、暫く前に赤ちゃんが産まれたと聞いていた家の前。
体は止まったが、何が起こるのかアベルが不思議に思っていると。
プゥーーン、プゥン、プゥーーーーーーン。
頭の上に虫が飛んで来たので、煩いと思って手に持っていた麦わらで振り払らう。
「煩いなあ!」
パシッ!
「プゥーーーン」
払った麦わらに虫がからんで、今度は虫がか取れなくなった。
手に持った麦わらに絡んだ虫、何だコレはと眺めていると。
ガラララッ。
目の前の家の扉が開いて、中から家の人が出てきた。
「あーあー、この子はもう! どうやったら泣き止むのかねぇ!」
どうやら泣き止まない赤ん坊をあやす為に、外に出てきたようだ。
出てきた母親とアベルの目が合う。
気まずい……いたたまれなくなり、頭を掻くために手を上げるアベル。
「キャッ! キャッ!」
なんと、それまで泣いていた赤ん坊が突然笑い出したのだ、母親も驚いて赤ん坊を見ている。
赤ん坊の顔は……アベルの持っている虫の付いた麦わらを見て笑っていたのだ。
「あ、あんた! その麦わら、売ってくれないかい?」
そう言って、ポケットに入っていた銅貨をアベルに渡してきた。
ボケッとしている間にアベルの手から麦わらを奪い、銅貨を渡す母親。
母親が虫の付いた麦わらを振ると、赤ん坊はとても楽しそうに笑っていた。そして母親も、とても安心したような顔をしていた。
アベルの手には銅貨が五枚。麦わらが手から離れたのだから、これで良かったのだろう。拾った麦わらがあっという間に銅貨五枚になった。
スキル『わらしべ長者』は商売のスキルなのかとアベルは思った。
体も思った通りに動くので、改めて家に向かって帰り始めたアベルは、途中の屋台で銅貨五枚分の串焼きを買って家族へのお土産にした。
今日は家族皆んなで串焼きを食べる事が出来た。スキル『わらしべ長者』ありがとう。
ピコン!
スキルポイントアップ
スキル、「わらしべ長者」(1)+1
目に止めて頂きありがとうございます。
これから毎日更新する予定です。
スキル『わらしべ長者』、手にしたアイテムは交換するまで手放せません。『わらしべ長者』でアイテム交換して勇者を目指します。
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