トギリコ草を探せ
(と言うわけで、トギリコ草を探す事になったんだよ)
(ふーん)
今話をしているのはリリー、いつもの定時コールだ。イヅミは猫の姿になってニヤからブラッシングをして貰っている。
(トギリコ草で作った薬はないの?)
(それも聞いたけど、あまり日持ちしない薬らしくて。最後に集めたトギリコ草で作った薬も全部使えなくなっているんだって)
(この辺はお兄ちゃんがいる街よりは寒い場所だけど、トギリコ草ってどんなのか知らないし、誰かに聞いてみる?)
(そうだな、父さんか母さんにも聞いてみてくれよ)
(分かった。それと、ニヤの体調はどう? 元気になってる)
(おー、大分元気になったぞ)
「おいニヤ。リリーだ、代わるか?」
(はい! ニヤです! リリーお姉様)
(うんうん、声も元気になってるね。お洋服は買って貰った?)
(はい! 素敵な服を選んで貰いました、ありがとうございます!)
(へー、お兄ちゃんに選んで貰ったんだ……)
「!?」
何故だか僕とニヤの周りだけ温度が下がった気がする。
「アベル、あれ買ったことリリーに言うにゃ」
(あっ! リリーにもお洋服を買ってあるよ。リリーに似合うと思って選んだんだ)
(えー!? お兄ちゃんが選んでくれたの! お金大丈夫? 冒険者になって大変なんじゃないの?)
(お金は、イヅミのアイデアで稼ぐ方法を見つけたから心配しなくても大丈夫だよ。それより、イヅミに服を持たせるからそっちで受け取れる?)
(今なら誰もいないから大丈夫! お兄ちゃんからのプレゼントかあ、楽しみだなあ)
「イヅミ、お願いできる?」
「行ってくるにゃ」
そう言うと、実体になっていたイヅミの姿がフッと消え去った。
・
・
・
今のやり取りは何かだって?
初めてイヅミが姿を現したときの話しで「僕が行った事のある場所なら何処でも現れる事が出来る」と言うスキルの機能。
今頃イヅミはリリーの所に現れて、買っていた服を渡しているはず。
イヅミ自身は物を持てないけれど、収納を使えば物を出し入れ出来る。向こうに行って収納から服を取り出せば。なんて思っていると、急に睡魔に襲われてきた……。
「ただいまにゃ。リリー姉様はとても喜んでいたにゃ」
「……」
「アベル?」
「アベルーーー!? 起きるにゃ!」
肉球を顔に押し付け、無理やり意識を向けさせるイヅミ、何これ!? フニフニ気持ちいい。
「ああ、イヅミ……もっと……」
「気持ち悪いにゃ」
ペシッ!
叩かれたけど気持ちいい。
「あっ! 思ったんだけどさ。もし遠くの町にトギリコ草があった場合、そこが僕の行った事がある町だったらイヅミが今の方法を使えば、行って持ってくる事が出来るよね?」
イヅミの移動方法なら、距離なんて関係ないし時間もあっという間に行き帰り出来る。なんて僕は頭が良いんだ!
そう思ってイヅミに話したのだけれど。
「で? アベルは今まで何処の町に行った事があるのかにゃ?」
それは……あれ? 僕って産まれた町から一度も出た事が無かったし。他の街に来たのだって今回が初めてで、この街に到着する前は、途中の町と村で……。
「僕ってなんて頭が悪いんだろう」
自分の考えの浅はかさに、ものすごく落ち込んでしまった。
「アベル……頭いい……」
落ち込んだ僕に、ニヤが頭をポンポンしてくれる。
「仕方ない、僕らも情報を調べてみるか」
僕は、両手両膝を付いた格好から立ち上がると、取り敢えずの荷物を持って冒険者ギルドに向かった。
「トギリコ草ですか? あれは先々月までが時期なので今の時期では探しても難しいと思いますよ。後は、よほど北の方の土地なら可能性はありますが」
と、受付の職員さんからの答えもやっぱり同じだった。
「やっぱり無理なのかなあ」と僕が諦め気味に呟いていると。
「北……ニヤの里……寒い……」
「ん? ニヤ、何だって?」
「ニヤ……いた……寒い」
(ニヤ、頭の中で話してごらん)
(ニヤがいた里、もっと寒い場所だった。寒いは北?)
ニヤが住んでいた里が、もっと北の寒い場所だったと言っているのか?!
僕はもう一度ギルドの資料棚に走り、薬草の資料を持ち出した。
「これだ!」
(ニヤ! お前の里でこの絵と同じ草を見た事はあるか? トギリコ草だ)
(トギリコ草、知ってる。私たちは鼻が効くから臭いの嫌い。臭い消すのに使う)
ギルドの資料にも「独特の匂いがあり地域によっては臭い消しに使われる」と書いてある。これだ!
(イヅミ! 僕が行った事がある場所に行けるんだったら、ニヤが行った事ある場所でも行けるんじゃないか?!)
イヅミにそう言うと、イヅミは頭の中で試し始めた。
(……ん、これは? ん……ん、にゃ?! ニヤ、ちょっとお前の里を頭に思い浮かべるにゃ!)
(はいっ!)
・
・
・
(イヅミ?)
(ぷはっ!)
「おおっ!?」
暫く反応が無いと思っていると、急に大きな吐く息と共に戻ってきた。
(どうだった?)
(成功したにゃ、だけどアベルの時よりも負荷が大きいにゃ。あまり、長い時間は無理かも知れないにゃ)
何とか行けると感じた僕たちは、一旦宿へと戻って再度計画を練るとこにした。
「長い時間が無理だと言う事は、イヅミが向こうに行って自分でトギリコ草を探して歩くのは難しいって事?」
「さっきの感じだと、五分も居たら弾き戻されるにゃ」
それを聞いて、ニヤにトギリコ草が生えている場所を覚えているか聞いてみたら。
(ニヤは、小さくてトギリコ草を取りに行った事ない……。けれど、トギリコ草売ってるお店は知ってる! 優しいお婆ちゃんのお店、ニヤ好きだった)
「それなら、そこにイヅミが行ってトギリコ草を買ってくれば!」
「待つにゃ、この姿で行ったら騒ぎににゃらないか?」
そうだった! ニヤの里では白猫は神様と崇められてるから、ニヤの姿をみた人たちでパニックになるかも!?
僕とイヅミがウンウン考えていると。
「イヅミ……女の子……ダメ?」
と、ニヤからのアイデアが。
「あの姿か……イヅミ、今ならどの位いける?」
「んー? 向こうに行って、買い物して……ギリ行けるかもにゃ」
「よし! じゃあ早速計画を立てよう!」
◆◆◆◇◇◇ ◆◆◆◇◇◇ ◆◆◆
ザッ。
爽やかな風が吹き抜ける路地、ニヤが言ってた通り街より気温が低くて快適にゃ。
ニヤが話していたお店の目の前に移動した「あちし」は、すぐにお店へと入って行く。
「こんにちは」
お店の中に客は居ない、カウンターにも誰も居なくて静かだと思ったら奥の方から声が聞こえてきたにゃ。
「はい、はい。お客さんかな? いま行きますよ」
奥からゆっくり、ゆっくりと歩いてやってきたのは。ニヤと同じような姿で、腰の曲がったお婆ちゃん。
お婆ちゃん。も少し、も少し早く歩いてきてにゃ。
「はい、お待たせしましたよ。あら? かわいいお嬢ちゃん、見かけない顔だけど何処の子かね?」
世間話はいいにゃ! あちしは適当な方向を指さして「あっち」と答え、要件を伝えたにゃ。
「トギリコ草くださいな」
お婆ちゃんは指差した方角を見てハテ? と頭を捻ったけれど「トギリコ草だね」と言って、天井の梁から下げてある草の束を一つ取とうとする。
おばあちゃん! おばあちゃん、足元危ない! フラフラしてるにゃ!
「はい、トギリコ草。今朝採ってきたばかりだから香りが良いよ、銅貨三十枚だね」と言って手渡してくれたにゃ。
あちしも、用意していた銅貨をお婆ちゃんに渡してお礼を言う。
「ありがとう」
お婆ちゃんは、より一層顔のシワを濃くして、後ろの籠に銅貨を戻しながら。
「そうだお嬢ちゃん、飴ちゃん食べるかい?」
そうお婆ちゃんが話した時には、時間切れになったにゃ。移動して行く空間の中で聞こえた最後の言葉。
「あの子は、猫神様のお使い様だったのかねぇ」
そう聞こえて、猫の姿で行かなくて本当に良かったと思ったにゃ。
◆◆◆◇◇◇ ◆◆◆◇◇◇ ◆◆◆
「ただいまにゃ!」
戻ってきたイヅミは、女の子から猫の姿に戻っていた。本当にギリギリだったんだね。
その足元に置かれた草。僕は置かれた草を指差して。
「それ?」
イヅミは、ふふん! と胸を張る。
「トギリコ草、ゲットだにゃ!」
「いえーい!」
「やったにゃ!」
「イヅミ……すごい」
僕たちは三人で抱き合って喜んだ!




