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部室への道
スロープを上りきると、校舎の空気が一気に変わった。
ひんやりとした白い光。
ワックスの匂いに、どこか甘い購買の揚げパンの匂いが混ざってくる。
「ねえ夏樹、弦は何派?」
彩月の開口一番がこれだ。
「……いきなり?」
「重要でしょ」
「エリクサー。コーティング」
「やっぱり!」
彩月の声が少し弾む。
「最近のコーティングは鈴鳴りを殺さないから。昔は“寿命=鳴りの死期”だったけど、今はライブ回すならエリクサー一択だよねー」
「廊下でそのテンションはやめてくれ」
「でも優しい情報だよ。“張り替え周期が伸びます”」
「……家計に優しいのは認める」
「ほら、やっぱり」
彩月は、勝ち誇ったみたいににやりと笑った。
隣で弥生が小声で挟む。
「私はマーチン派なんだけどなあ……」
「お、保守的」
「弦は一途でいいの」
「楽器は浮気しまくってるのに?」
「う、うるさい!」
会話のラリーが、廊下の空気を跳ねさせる。
すれ違う二年生たちがひそひそ声で囁く。
「あれ総音研じゃね?」
「丸い……」
「鍋?」
「鍋ではない」
今日、三度目の正解。
やっぱりこの学校には“鍋ではない委員会”でもあるんじゃないか。




