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だから僕は普通に音楽がしたい。  作者: Kei-ichi
第5章 文化祭、ライブ、響く
25/26

MC:自己紹介と“呼吸の間”/二曲目:『風を追いかけて』

 曲が終わると空気がふわっと解けた。ざわめきでも、耳はこちらを向いたまま。足の裏が床を掴む。

「ちょっとだけ自己紹介を……」

 少し震える声に、客席が柔らかく笑った。安心が一枚、胸に貼りつく。

「七海夏樹。転校したばかりで、ギターと歌を――」

「歌わないとインストになるからね!」

 彩月が素で被せ、体育館が笑いに包まれる。僕は「タイトル回収すな!」と慌てて突っ込んだ。

「三ヶ尻弥生! アコギ担当! 今日はアリアのD-50で鈴鳴りいきます!」

 しゃらん、と一音。拍手が起きる。

「六条六条。エレキ。……歪みの粒で隙間を埋めます」

「要するにかっこよく支えてくれる人!」

 弥生のフォローに六条が「翻訳ありがとう」とぼそり。笑いが広がる。

「五十嵐五十嵐。普段はDTM。今日は手で刻みます」

 コンガみたいに膝を叩くと、自然に手拍子が揃った。本人が「反応いい!」と驚いて笑う。

「八神です。ケーブルです」

 ケーブルをすっと掲げる。「???」の一秒後、なぜか拍手。好きの温度だ。

「瀬川彩月。楽器はガンク。丸い鍋じゃないです」

 ぽうん。「かわいい!」の声に、彩月が指先を唇に当てて微笑む。

「ありがとう。じゃあ次の曲ではもっと天使になるね」

 前列の女子が「黙って聞け」と小声でツッコみ、場がさらに緩んだ。

「はい! こんなメンバーでやってます!」

 MCを締めると照明が一段暖色に寄る。期待の温度になる。




「二曲目、『風を追いかけて』」

 「おー!」と歓声。名前のある曲は人を“聴きに行く体勢”にするらしい。

「テンポは108。歩くより少し速く」

 五十嵐がメトロノームを一瞬鳴らし、始める。

 イントロ。ガンクが軽やかに“風”を描く。ぽん、ぽうん――羽ばたきの周期。D-50のストロークが空気を明るく照らし、六条のワウがにゅわっと抜ける風を添える。五十嵐はパッドで輪郭のはっきりした風切り音を作った。

 僕はG→D→Em7→Cadd9。Cadd9の着地で胸が広がり、喉が開く。


  追いかけた風の向こうに

  まだ見ぬ街の影がある

  立ち止まることはできない

  足音が 未来を刻む


 会場のざわめきが消え、“耳”が固定される。サビ前、弥生がハイコードで引っ張り、六条がボリュームを1ミリ上げた。五十嵐がクラップを出すと、後方から手拍子のうねりが前へ押し寄せる。


  ねえ、僕らは風になる

  声を合わせ 空を切って

  重なる音が 道を作る

  この瞬間を 生きてる


 何人かが立ち上がる。床に揺れが走る。彩月は10%天使でリズムを刻み、六条は眉間に皺でも音は鋭く伸び、五十嵐は冷静なまま口元を緩めた。八神先輩は袖で導線を見守り、うん、と頷く。ケーブルの流れは生きている。

 最後のサビに向けて一段上げる。弥生がハイコードを強くかき鳴らし、ガンクが“鐘”を落とす。六条が短く噛みつき、僕は最後のコードを一拍伸ばして止めた。

 静寂、爆発。歓声。「次もー!」の声。完全に“流れ”に乗った。



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