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だから僕は普通に音楽がしたい。  作者: Kei-ichi
第4章 冬のリハと決意
22/26

雪混じりの放課後/曲順をめぐる議論/れい子先生の指導

 放課後の音楽室は、曇りガラス越しに白い光を受けていた。窓の外では細かい雪がちらついている。ヒーターの音が低く響き、吐く息はもう白くないけれど、指先に触れる弦の冷たさで冬を実感する。

「……っ、うわ、やっぱ冷たい」

 僕はアコギを抱え直し、軽くストロークを鳴らす。音の立ち上がりが少し硬い。

「新品のエリクサーだろ、それ」

 六条六条が呟いた。彼はエレキを膝に抱え、足元のエフェクターを調整している。いつもの無表情だけど、指先の動きは繊細だ。

「そう。鈴鳴りは最高だけど、手がついていかない」

「じゃあ練習あるのみ」

 ぶっきらぼうだけど、正論だった。

 弥生はアコギのD-50を抱え、ストロークのリズムを刻んでいる。彼女の音は、相変わらず軽やかで、部屋の空気を一気に柔らかくする。

「ねえ、次のリハ、セットリスト決めないと」

 彩月がガンクを膝に乗せ、ぽうん、と柔らかく叩いた。鉄の薄い板から生まれる倍音は、どこか水のように広がる。

「文化祭まで、あと一か月もない」

 五十嵐五十嵐がノートPCを広げ、画面をスクロールしながら言った。冷静で事務的。けれど声の端にはわずかな高揚が混じる。

「退部届は?」

 八神先輩の低い声。ケーブルを整えながらちらりと僕を見る。

「まだ……持ってる」

 胸ポケットの紙切れが、じわりと重く感じた。



「最初はキャッチーなやつだな」

 六条がコードを軽く鳴らす。

「インストでも掴めるけど、やっぱ歌で始めた方がいい」

「私は“風を追いかけて”推し」

 弥生が即答する。

「テンポ108。歩く速さよりちょっと早いから、ノリやすいよ」

「でも、それだけじゃ弱い」

 彩月が言葉を挟む。

「途中にバラード入れて、空気を変えたい。……たとえば“重力”」

 僕の胸の奥が反応した。弥生の曲で、僕が初めて本気で歌いたいと思った歌。

「最後に“重力”っていうのは……悪くない」

 五十嵐がメモを打ちながら言う。

「構成として、盛り上がって静めて、また上げる流れになる」

「じゃ、真ん中にオリジナル新曲を入れよう」

 弥生が声を弾ませる。

「“音の羽化”」

「まだ未完成だろ」

 六条が眉をひそめる。

「でも、磨けば間に合う」

 彩月が静かに重ねた。

「言葉は、もうできてるから」

 僕は無言でうなずいた。頭の中に、未完成の旋律が確かに鳴っていた。



「はいはい、盛り上がってるとこごめんなさーい」

 ふわふわした声とともに神前れい子先生が現れた。ミント色のカーディガンを羽織り、背中に赤いPRSを背負っている。笑顔は柔らかいが、PRSの金属パーツがやたら鋭く光って見えた。

「ライブってねー、最初の8小節で決まると、個人的には思いますよー」

「8小節?」

 僕が聞き返すと、先生はうんうんとうなずいた。

「観客の耳がこちらに向くかどうかは、ほんとに最初の数秒。そこで世界を作れるかどうか。……七海くん、歌わなきゃインストになりますよー」

 まただ。何度も言われてきた言葉。喉の奥がひりつく。

「声、飛ばせるように練習しときましょうねー。空気の重さに負けないで」

 その言葉は、刃物のようでいて、不思議と温かい。僕はうなずくしかなかった。



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