表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
だから僕は普通に音楽がしたい。  作者: 景一
第一章 桜の木の下から
2/13

退部届の重み

 立ち上がると、白いベンチの背板が“こつん”と乾いた音で指をはね返した。

 その小さな衝撃が、骨を通って手首に残る。

 ――ただの音。けれど、なぜか胸の奥をきゅっと締め付けてくる。


(これが“青春の一ページ”なら、読み飛ばしていいのに)

(……そうであってほしいのに)


 制服のポケットに忍ばせてある、折り畳まれた一枚の紙。

 角が少しだけ立っていて、歩くたびに太腿に軽く当たる。

 その感触が、心臓の鼓動とリンクしているみたいだった。


 退部届。

 出せば楽になる。出せば“普通”に戻れる。

 でも、まだ。指先は紙から離れたままだ。


「夏樹ー! はやく!」

 三ヶ尻弥生が、砂利の上を軽快に歩き出す。ショートボブがリズムよく跳ねる。


「……うん」

 僕は小さく返事をして、彼女の背を追った。


 隣では、彩月が鞄の口をきっちり閉め直し、丸いガンクを抱き直している。

 その腕の中で、まるで赤ん坊みたいに安定して収まるその姿に、妙な温度を覚えた。

 音を抱いている――そんな言葉が頭をよぎる。


 桜の木の影は、もう僕の足元を抜け出して、スロープの上に伸びていた。

 その影に飲み込まれるように、僕ら三人はA棟へと向かう。



---


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ