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Cadd9の出番
「夏樹」
彩月が僕の肩を軽く叩く。
「少しだけ合わせて。その子の音ひとつだけ貸して。――普通のコード」
その子というのは僕のギターのことを指している。彩月の言うとおり、僕はケースからギターを出し、ストラップをかける。
「キーは?」
「Gメジャー。4度のCadd9から綺麗に、まっすぐ」
「了解」
弦に息を落とし、言葉にならない“ら”の母音だけで、そっと鳴らす。
音が重なる。
ガンクの“水”の輪郭に、D-50の鈴鳴りが粒を足す。そこへCadd9の開放感がフタをしない程度に広がる。
「……うん」
彩月の口元がほどける。
「音の間に空席ができた。そこに座らせて」
彩月はガンクの“鈴”へ指を落とし、弥生は高音弦をやさしく撫でる。僕はブリッジ寄りで薄いアルペジオ。
重なったはずなのに、ぶつからない。
真壁が小声で「バンドっていうより、三つの呼吸だ」と言い、成瀬が「波形で見たくなる」と笑った。
最後に彩月が一度だけ強く、中央を叩く。
ぽうん。
音がゆっくり消えて、吸音材の壁が“よくやった”と頷いた気がした。
「これが、ここでの“普通”」
彩月が言う。
「普通、なの?」
「うん。私にとっての、ね」




