D-50の鈴鳴り
「はい、ここで私のターン!」
弥生がギグバッグをぽんと床に置く。金具を外す音が妙に小気味いい。
蓋を開くと、起毛が少し日焼けして、縁は毛羽立っていない。丁寧に扱われた時間。
取り出したのは、アリアのドレッドノート――D-50。トップのスプルースにきっちり通る年輪。サイド&バックのローズは褐色が深く、三ピースのセンターにハカランダが走る。
弥生は今月四本目だというそれのチューニングを合わせ、軽くストローク。
開放EからG→D→Cへ。
高域の鈴が空中でほどけ、桜の木漏れ日みたいに耳の奥で光る。低域は背中で鳴って、椅子がないのに背もたれが震えた“錯覚”が来る。
「……はい、鈴鳴り」
弥生が得意げに笑う。
「トップのラッカーが薄め。吹き過ぎてないから鳴き出しが前に出る。で、ハカランダの“らしさ”はここ」
彼女は親指の角度をほんの少し変え、そっと弾いた。立ち上がりの“縁”だけが硬く、音の上に薄刃の光が一本引かれる。
「今の、分かった?」
「分かる……のが悔しい」
「やった」
真壁が感心したようにうなる。
「ハカランダの帯域の出方、やっぱ独特だよな。低い芯が残ったまま上にキラが乗る感じ」
成瀬がPCの前でメモを打つ。
「録るなら、マイクは45度に振ってハイ落ちを避けたい。……あ、いや今は録らないけど」
八神先輩はケーブルを胸の前で組み、満足げに頷いた。
「ケーブル的にも、ここは短距離・低容量が似合う音だ」
「ケーブルに人格を与えないでください」




