ケーブルの山から
「……八神先輩?」
弥生が声をあげる。
山の頂から黒い髪が出てきて、続いてメガネ、そして人。
「やあ、新入りくん。新人歓迎のサプライズ、成功だね」
彼は腕いっぱいにケーブル束を抱えたまま、にこりともせずに言った。
「サプライズというより地層からの発掘なんですけど」
八神陽斗。総音研の先輩。ケーブル科人類最高峰――という肩書きが冗談にならないくらい、ケーブルで生きている人。
「ほこり、吸った?」と僕。
「吸ってない。吸わせない。巻けば舞わない」
「名言っぽいけど現場の知恵だ」
八神先輩は僕のギターケースに視線を落とす。
「そのケースの角、擦れてるね。よく歩いた跡。……ここに居場所ができるタイプの音だと思う」
「音の居心地をケースで診断しないでください」
ケーブル山の影から、もうひとり。
すらりと背の高い男子が、ストラトのネックを抱きかかえて顔を出す。
「新顔? 真壁。ギター。エフェクターは沼。よろしく」
真壁亮。穏やかな声に反して、足元のボードは明らかに過積載。
「沼って自称する人はだいたい底が見えてないやつだよ」
「底が見えたら沼じゃない。だから大丈夫」
「何が大丈夫なんだ」
そして机の角。ノートPCの前から、ひょいと手が上がる。
「成瀬。DTM。生音は好き。打ち込みも好き。仲良くしてください」
成瀬律。薄い笑顔、指先の動きが落ち着いている。画面にはDAW。タイムラインに色とりどりのブロック。
「人数、けっこういるんだな」
僕がつぶやくと、弥生が指折り数えた。
「私たち三人に、八神先輩、真壁、成瀬それに顧問の神前先生……で、あと数人たまーにしか顔ださない部員もいるけど、いつも通り、今日は来てない」
「けっこう、いるんだな(二回目)」
「安心して、濃度が問題なだけで、人数は普通」




