12/26
防音扉の向こう
ドアがこちら側と向こう側の“気圧差”を溶かすみたいに、重たく戻った。
吸音材で覆われた壁は、教室の白さとは別系統の静けさを纏っている。触れたら指が沈みそうで、空気は紙とレモンオイルの匂いが混ざる。床には黄色いガムテで這うケーブルを跨がない導線が引かれ、両端にはスタンドケースや見慣れない箱が鎮座していた。
「ほら、入って」
先に踏み出したのは彩月だ。丸いガンクを抱えたまま、肘でそっと扉を押し開ける。
「ちょっと、僕、まだ心の準備が」
「準備はいらないよ。音が鳴った瞬間に世界になるから」
「詩で押し切らないで」
背中から弥生が肩をつつく。
「大丈夫、夏樹くん。ここ、いい匂いするよ。機材に使うレモンオイルの匂い!」
「情報のセンサーが違う」
部屋の奥、壁一面に黒い吸音材、その手前に四角い机がコの字。椅子はいくつか空いているけれど、誰かの“定位置”が匂った。鉛筆、クロス、六角レンチがまとめられた小皿。小さな世界の秩序。
僕がドアを閉めると、音が一段、丸くなった。外の靴音や放送の練習音が、綿で包んだみたいに遠くなる。
「総音研へ、ようこそ」
彩月がそう言って、ガンクを机の上にそっと置いた。丸い胴に刻まれた花びらみたいなスリットが十数本。鈍い光。弥生が思わず唇を尖らせる。
「やっぱり、かわいい……」




