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だから僕は普通に音楽がしたい。  作者: Kei-ichi
第二章 総音研、侵入
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防音扉の向こう

 ドアがこちら側と向こう側の“気圧差”を溶かすみたいに、重たく戻った。

 吸音材で覆われた壁は、教室の白さとは別系統の静けさを纏っている。触れたら指が沈みそうで、空気は紙とレモンオイルの匂いが混ざる。床には黄色いガムテで這うケーブルを跨がない導線が引かれ、両端にはスタンドケースや見慣れない箱が鎮座していた。

「ほら、入って」

 先に踏み出したのは彩月だ。丸いガンクを抱えたまま、肘でそっと扉を押し開ける。

「ちょっと、僕、まだ心の準備が」

「準備はいらないよ。音が鳴った瞬間に世界になるから」

「詩で押し切らないで」

 背中から弥生が肩をつつく。

「大丈夫、夏樹くん。ここ、いい匂いするよ。機材に使うレモンオイルの匂い!」

「情報のセンサーが違う」

 部屋の奥、壁一面に黒い吸音材、その手前に四角い机がコの字。椅子はいくつか空いているけれど、誰かの“定位置”が匂った。鉛筆、クロス、六角レンチがまとめられた小皿。小さな世界の秩序。

 僕がドアを閉めると、音が一段、丸くなった。外の靴音や放送の練習音が、綿で包んだみたいに遠くなる。

「総音研へ、ようこそ」

 彩月がそう言って、ガンクを机の上にそっと置いた。丸い胴に刻まれた花びらみたいなスリットが十数本。鈍い光。弥生が思わず唇を尖らせる。

「やっぱり、かわいい……」


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