撃墜計画
1944年・俺14歳・東京
「……これは、間に合うかもしれない」
俺は、紙の上に描いた空の地図を見つめながら、そう呟いた。
敵の通信傍受、航路予測、迎撃機の性能。
すべての条件が、ギリギリで噛み合い始めていた。
この作戦の目的はただ一つ。
――エノラ・ゲイを撃墜すること。
原爆を積んで広島へ向かうB-29を、空の上で止める。
「坂上少尉、迎撃機の選定は?」
軍の技術班が、俺の顔を覗き込む。
俺は、図面を指差した。
「改良型震電。未来技術を応用した高高度対応型です」
「震電……あの後ろ向きのプロペラ機か?」
「ええ。空力特性を調整すれば、B-29の高度にも届きます」
俺は、未来の航空力学をベースに、震電の設計を再構築した。
エンジン出力、機体強度、酸素供給装置。
この時代の技術では限界もあるが、俺の知識がそれを補う。
「問題は、パイロットだな」
「ええ。特殊訓練を施した部隊を編成します。選抜は、俺がやります」
俺は、訓練場に足を運んだ。
そこには、若い兵士たちが並んでいた。
彼らの目は、まだ戦争の意味を知らない光を宿していた。
「お前たちに任せるのは、ただの迎撃じゃない」
「空の向こうにある未来を、守るための戦いだ」
俺の言葉に、兵士たちは戸惑いながらも頷いた。
彼らは命令に従う兵士であると同時に、未来を託す同志でもある。
俺は、彼らに未来の戦術を教えた。
高高度飛行の呼吸法、通信妨害のタイミング、編隊の組み方。
「坂上少尉、あんた……本当に14歳か?」
「さあ、どうでしょう。俺もよくわかりません」
軽口を叩きながら、俺は彼らの訓練を見守った。
この時代の空は、重い。
でも、俺たちの機体は、その重さを突き抜ける。
夜、俺は作戦室に戻った。
地図の上に、サイパン島から飛び立つB-29の航路を描く。
その先にあるのは、広島。
そして、その途中に、俺たちの迎撃ポイント。
「茜……お前なら、どう言う?」
彼女の声が、記憶の中で響く。
「暴力じゃなくて、思想で世界を変えるの」
でも、今だけは、力が必要だ。
この一撃が、未来を守るための思想になる。
俺は、作戦書に最後の一文を書き加えた。
“この作戦は、未来を守るための思想的行動である。”
それは、俺の中で茜と交わした誓いの延長だった。
思想は、言葉だけじゃない。
時には、行動として形にしなければならない。
「よし。やるぞ」
俺は、空を見上げた。
その向こうに、未来がある。
そして、俺たちの手で、それを守る。