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茜の記憶

1937年・俺7歳・東京

俺は、夢を見ていた。

雨の夜。交差点。光の中で消えていく彼女の姿。

「碧……信じてるから……」

その声が、何度も何度も、俺の耳に届く。


目が覚めたとき、俺は布団の中で汗をかいていた。

昭和の家屋は冬でも隙間風が冷たいのに、俺の身体は妙に熱を帯びていた。

胸の奥が、ざわついていた。


茜。

俺がこの世界に来る前、最後に見た人間。

俺の思想の同志であり、俺の心を揺らした唯一の存在。


彼女も、きっとこの世界にいる。

そう思った瞬間、息が浅くなった。

記憶の中の彼女が、鮮やかに蘇る。


黒髪ショートボブ、前髪重め、繊細な目元。

あの夜の瞳が、俺の中でずっと光っていた。

あの瞳は、俺に「信じてる」と言った。

その言葉が、今も俺を支えている。


「茜……お前も、転生してるんだろ?」


確信は、根拠のない直感だった。

でも、俺の中ではそれが真実だった。

あの誓いが、ただの言葉で終わるはずがない。

俺たちは、約束した。

次の人生で、世界を変えると。


俺は、彼女を探すことにした。

もちろん、子どもの俺にできることは限られている。

でも、情報を集めることはできる。

そして、彼女の痕跡を見つけることも。


新聞、ラジオ、町の噂。

俺は、子どもらしく振る舞いながら、耳を澄ませた。

「変わった子がいる」「妙に大人びてる」「難しい本を読んでる」

そんな話が、時々聞こえてくる。


でも、それだけじゃ足りない。

茜は、思想家だ。

彼女がこの時代に生きているなら、きっと何かを始めているはずだ。

言葉を使って、世界に問いかけているはずだ。


俺は、彼女の言葉を思い出した。

「文化的革命よ。暴力じゃなくて、思想で世界を変えるの」

その言葉が、俺の中で再び火を灯した。


俺は、彼女を見つける。

そして、もう一度誓う。

この世界を、俺たちの手で変えると。


そのために、俺は学び続ける。

語学、科学、思想、歴史。

この時代の限界を、俺の知識で突破する。

それが、俺にできる準備だ。


そして、茜に会ったとき、胸を張って言えるようにする。

「俺は、準備してきた。お前と、もう一度始めるために」


それが、俺の生きる理由だった。

そして、俺の希望だった。

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