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孤独な学び舎

1935年・俺5歳・東京

俺は、静かな子どもだった。

泣かない。騒がない。笑わない。

周囲からは「育てやすい子」と言われていたが、内心ではずっと違和感を抱えていた。


俺は、30歳の記憶を持った赤ん坊として生まれた。

そして今、5歳になった。

身体は子どもでも、頭の中は大人だ。

それは、想像以上に孤独だった。


「碧ちゃんは、ほんとに賢いねぇ」

母はそう言って、俺の頭を撫でる。

その手の温かさに、俺は少しだけ救われていた。


俺は、未来の知識を隠しながら生きていた。

この時代の常識に合わせて、言葉を選び、行動を調整する。

でも、俺の中では常に計算が走っていた。


英語、ロシア語、ドイツ語。

俺は、図書館で手に入る限られた資料を使って、語学を独学した。

発音はラジオから拾い、文法は記憶から再構成した。


航空力学、電波理論、暗号通信。

紙と鉛筆だけで、俺は未来の技術を図式化した。

それは、まるで魔法陣を描いているような感覚だった。


「この時代に、俺は何を残せる?」


問いは、いつも頭の片隅にあった。

でも、答えはまだ出ない。

俺は、準備をしているだけだ。

茜と再会するその日まで。


茜――彼女も、きっとどこかで目覚めている。

俺と同じように、記憶を抱えて。

そして、同じように孤独を感じているはずだ。


俺は、彼女のことを忘れたことがない。

あの夜の瞳。

「碧……信じてるから……」

その言葉が、今も俺の中で灯っている。


周囲の子どもたちとは、うまく馴染めなかった。

俺の話すことは、彼らには難しすぎたし、俺にとって彼らの遊びは退屈すぎた。

だから、俺は一人でいた。


でも、孤独は嫌いじゃなかった。

一人でいる時間は、俺にとって「準備の時間」だった。

未来を再構築するための、静かな鍛錬。


俺は、毎日ノートに図を描いた。

レーダーの原理、IFFの構造、ジャミングの方法。

それらは、誰にも見せない俺だけの設計図だった。


「俺は、必ずこの世界を変える」

その決意だけが、俺を支えていた。


そして、心の奥底で、俺は願っていた。

――茜に、もう一度会いたい。

彼女と、もう一度誓いを交わしたい。

この世界で、俺たちの理想を形にしたい。


それが、俺の生きる理由だった。

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