チェスターはハルベルトに提案する①
「ソフィア。新興貴族が、どうやって莫大な資産を築いたか?知っているかい?」
「…いいえ、存じ上げません…」
「別に責めている訳じゃない。気にしなくて良い。そもそも帝国や貴族にとって、都合の悪い事は教育カプセルでは学習しないからな」
「新興貴族の領地では、数百年前から一人っ子政策を始めたんだ」
「一人っ子政策ですか?」
「ああ、そうだ。夫婦1組に付き子供1人しか産んでは駄目って言う政策だ」
「でも、それでは人口が減ってしまうのではないですか?」
「ああ、その通り。そして減った労働力を補う為に、ロボットやアンドロイドを積極的に活用するんだ。ロボットやアンドロイドの導入には、初期費用が必要だが、1度導入してしまえば給料の支払いは不要だ」
「給料が支払われない。だから、各貴族が集め帝国に納税する所得税が減少する」
「次に消費税だ。ロボットやアンドロイドは食事もしないし、お洒落な洋服も不要だ。そもそもロボットは買い物をしない。買い物をしないから消費税も払わない」
「一人っ子政策によって人口が減り、ロボットは買い物をしない。だから物が売れず経済が縮小する。商店主は物を売る為、売価を下げる」
「それによって、商店の利益が減り、法人税も減少する。また、競争が激化し倒産する商店も出てくる。こうして負のスパイラルに突入するんだ」
「でも、それでは新興貴族も困るのではないですか?」
「それがそうでもない。小麦もそうだし、工業製品も同様に、給料の支払いが不要のロボット達が労働するから、安く生産出来る。領内の景気が悪くてデフレが進み、物価が下落するから安く購入出来る」
「領主貴族自ら商会を設立し、領内で安く仕入れた商品を最大の人口を抱え、市場規模の大きい、帝国首都星で販売し、莫大な利益を上げているのさ」
「皇子の兄上や私、それから貴族家出身のエリーゼ姉上やソフィアも、税金の支払い義務が無い。これは、我々が税金で生活しているからだ。我々に税金を科すと税金に税金を科す事になる」
「新興貴族の連中は、自らの商会の役員に、一族の名前を入れて役員報酬を得る。また、その商会の株主でもあるから、配当金も得る。そして彼らには納税の義務が無いんだ」
「こうして新興貴族の連中は、莫大な資産を蓄えたんだ」
「そして、現在、帝国は財政難に悩まされている…」
「兄上に提案なのですが、まず、ロボットやアンドロイドの使用を制限し、一定以上の人間の雇用を義務付ける法律の制定を提案致します」
この法律が出来れば、人間の雇用が維持される。
所得税が納税されるし、人間はロボットと違い、買い物をするから消費税も入ってくる。
経済が活性化し、法人税の増加も見込める。
「次に、労働時間を制限する法律です。1日○時間以内。週○○時間以内と言う風に、労働時間を制限します」
今までロボットを使い、24時間働かせていた新興貴族は、人間を雇用した場合、奴隷の様に働かせようとするのが見えているからな。
それを防止する為の法律だ。
「最後に、最低賃金を定める法律です」
日本でも、都道府県ごとに最低賃金を定めていた。
この法律が無いと、新興貴族の連中が、給料の支払いを減らそうとするからな。
「如何でしょうか?兄上!」
俺が兄上を見ると、兄上は考え込んでいた。
兄上の産みの母はルーベンス公爵家の出身だ。
現ルーベンス公爵は、帝国法務長官だ。
そして、婚約者のエリーゼ。
彼女の父はボーデン公爵。
帝国財務長官。
兄上を支える門閥貴族は、伝統を重んじる。
だから、ボーデン公爵も領地では、ロボットやアンドロイドの使用を必要最低限に控えている。
首都星では、新興貴族達が進出し、対抗の為に仕方無く人間の雇用を減らしたとエラから報告があった。
つまり、彼からすれば、首都星での事業で多少の負担が発生する。
しかし彼は、財務長官だ。
財政難で頭を悩ませているだろうし、帝国財政を立て直したと名声を手にするかも知れない。
帝国貴族にとっては、名誉や名声は欲しくてたまらないものだ。
ボーデン公爵は、今日のお茶会の話を必ずエリーゼに聞くハズだ。
もはや兄上には、逃げ道が無いのだ!
うふふ。
兄上にとってもメリットが多い。
まず、ゲルハルト派の力を削ぐ事が出来る。
ゲルハルト派の貴族は、新興貴族が多い。
そして、彼等の力の源は資金力だ。
この3つの法律が施行されれば、新興貴族達は大打撃だ。
それは、つまり、ハルベルト兄上が皇帝の座に近づくと言う事だからな。
法務長官も、財務長官も、ハルベルト派の重鎮だし、2人共ハルベルト兄上を皇帝に据えた後は、自分が帝国宰相になる気満々らしいし。
ハルベルト兄上から法案作成の依頼があれば、2人は競い合いながら法案を作成するだろう。




