レオンはチェスターを指導する①
練習場で暫く待っていると、若い男が歩いてきた。
その後ろに、俺を練習場まで案内した執事と、背の高いグラマーな美女。
どうやら先頭を歩く、若い男がチェスター殿下みたいだ。
その若い男は、俺の目の前まで来ると「チェスターだ。宜しく頼む」と言われた。
俺は「帝国軍陸戦隊のレオン少将であります!」そう言って敬礼をする。
殿下は「敬語は必要無い。俺が教えを乞う立場だからな!」そう言われる。
どうやら気さくな方みたで、ほっとする。
「では、殿下。まず柔軟体操から始めましょう。身体をほぐしておいた方が、怪我をする可能性が減りますから…」
すると、背の高い美女が「貴様!チェスター様に怪我を負わせる気か!!」と俺に怒鳴る。
「煩いぞ!バイオレット。静かにしていろ」チェスター殿下がそう言うと、バイオレットと呼ばれた美女が「申し訳御座いません」そう言って静かになる。
しかし、バイオレットと呼ばれた美女と、執事から鋭い視線と無言の圧力を感じて、とても遣り難い。
だが俺も仕事で来ている。
このまま何もしない訳には行かない。
俺と殿下は、柔軟体操を終わらせてランニング開始をする。
殿下がどれ位の体力があるか?
見極めなければ、今後のトレーニングメニュー通りやれるかの判断が出来ない。
場合に寄ってはメニューの見直しが必要かも知れない。
俺が先頭を走り、殿下が俺の後に続く。
俺が指示だけ出して、殿下だけを走らせたと噂にでもなれば、実家や依親に迷惑が掛かる。
貴族は無駄にプライドが高い。
爵位を上げるには、誰もが認める程の成果を帝国に認めてもらわなければならない。
爵位を上げるのが難しいから、他の貴族の足を引っ張ろうとする貴族が多いのだ。
だから、騎士爵家出身の俺が、殿下だけを走らせて、自分は休んでいた!と噂にでもなれば…たかが騎士家の分際で、何て偉そうなんだ!きっとそうなる。
そして、依親の伯爵家に苦情が行く。
だから、俺も一緒に走る。
何処で誰が見ているか?分からないからだ。
しかし…さっきから殿下は、ばてる事も無く俺の後を付いてくる。
思っていたより体力がある様だ。
俺は走るペースを上げてみる。
だが、殿下は付いてくる。
息も上がっていない様だ。
まさか、これほど体力があるとは思っていなかった。
ランニングを終え、室内運動場に場所を移す。
執事とバイオレットと呼ばれていた、気の強い美女も付いてくる。
次のメニューは受身だ。
受身が身に付いていれば、相手に倒された時、怪我をする可能性が減る。
俺が手本を見せる。
すると殿下は文句も言わず、俺の真似をする。
そして暫く受身の練習をする。
さて、困った。
次は組み手だ。
だが、俺が殿下を投げる訳には行かない。
さて、どうするか?
すると、俺の心中を察したのか?
殿下が「クレストン!俺を投げろ」そう言われる。
殿下の指示を受けたクレストンと言う執事が前に出て、俺の代わりに殿下を投げ飛ばした。
だ…大丈夫か?
殿下が怪我でもしたら、俺の責任問題が発生する。
俺はヒヤヒヤしながら見守る。
しかし殿下は怪我をされる事もなく、見事な受身をして立ち上がる。
この人は天才か?
とても始めてとは思えない。
完璧な受身だった。
殿下が思っていたより遥かに優秀だから、予定のメニューより早く進む。
もう、受身は大丈夫だと判断した俺は、次ののメニューに進む事にした。
「殿下。もう受身は完璧です。次に進みます」
今後は、相手を投げる方だ。
「分かった!クレストン!俺が投げるから、お前は受身をしろよ!」
「承知しました」
執事が頭を下げた。
殿下は、先ほどから執事に投げ飛ばされていた。
俺が指導しなくても、投げ方を見ていて、直ぐに習得されてしまった。
「殿下。完璧で御座います。今日の訓練はこれで終了で御座います」
そう言って、俺は頭を下げた。
「そうか!分かった!レオン少将。礼を言う」
「応接室でお茶でも飲んで、ゆっくりしてから帰ってくれ!クレストン頼んだぞ!」
「承知しました。チェスター様」
こうして、無事に訓練の1日目が終わり、俺は溜め息をついた。




