ワグナー公爵家令嬢ソフィア。
私はソフィア。
ワグナー公爵家の娘として産まれた。
いま、お父様もお兄様も、帝国首都星に行っている。
領地に残っているのは、私とお母様だけだ。
現在、私は公爵家令嬢として、厳しい教育を受けているところだ。
以前、最新・最高級の教育カプセルに入った。
カプセル内で横になると、催眠ガスが発生する。
そして寝ている間に、プログラムされた最新の知識が脳にダウンロードされる。
催眠学習方の一種らしい。
詳しい事は分からないけど…
でも、教育カプセルだけでは役に立たない。
例えばダンスや音楽。
音楽の楽譜を頭の中では理解出来る。
でも訓練しないと、思う様に体が動かず、楽器の演奏が出来ないのだ。
昨日はピアノの練習日だった。
楽譜は読めるが、練習しないと指が動かない。
だから練習する。
音楽は貴族令嬢としての嗜みだ。
上手に弾けて当たり前。
我が家の様に上位貴族家の令嬢が、ピアノを上手く弾けないなどと噂にでもなれば、我が家の家名に傷が付く。
だから私は必死に練習をする。
昨日のピアノの先生は、アンドロイドだった。
人間よりアンドロイドの方が、ミス無く完璧に演奏するからだ。
楽譜通りに、完璧な演奏…
人間味もなければ、感情や臨場感と言うのか…そう言う物が、全く伝わって来ない。
でも、これが普通らしい。
明日のダンスの練習も、教えるのはアンドロイド。
人間に教わる事はほとんど無い。
そして今日の午後は、数少ない人間の先生から習う。
今日、習うのは魔法だ。
魔法はアンドロイドでは再現出来ない。
だから人間の先生に習うのだ。
私が魔法を習っているアレックス先生は、帝国で魔法の権威と言われている、パウロ様のお弟子さんだ。
お父様がお願いして、私とお兄様の魔法の先生として領地に来て頂いた方だ。
お兄様は、いま、お父様と一緒に首都星に行かれたから、今日は私1人。
こうして私は貴族令嬢として、恥ずかしく無い最高の教育を受けるのだ。
★★★★★
アレックス先生との魔法の練習が終わった私は、お庭でお茶をする。
今日は天気が良い。
屋敷に勤めるパテシェが作ったケーキをメイドが運んで来る。
私がお茶を飲みながら、ケーキを食べていると、我が家に仕える執事が私を呼びに来た。
「お嬢様、奥様がお呼びです」
「お母様が?何の用かしら?」
「私は存じ上げません」
私は執事の後に付いて、お母様のところに向かった。
向かった先は、お父様の執務室だった。
どうしたのかしら?
執務室で話しだなんて…
部屋の中には、お母様がいて…そして、大きなスクリーンには、お父様が映っていた。
「来たか、ソフィア」
「はい。お父様。何か?緊急事態ですか?」
「いや、そうではないよ」
するとお母様が「ソフィアの婚約が決まったのよ!」
「…そうなのですか?」
「ああ、本当だ」
「それで…お相手は、どちらの方ですか?」
「帝国第4皇子のチェスター殿下だ」
「そうですか。承知致しました」
「ソフィア?驚かないのか?」
「はい。私は貴族家の娘。何れは何処かの貴族に嫁ぐものと思っておりましたから」
これは嘘だ。
実はお兄様から、チェスター殿下との婚約の話が進んでいると、内緒で聞いていたのだ。
でもその後、お兄様から、寄子のホフマン男爵家が問題を起こし、話が中断したと聞いていた。
急に話が進んだみたいだ。
するとお父様が「チェスター殿下から、是非ソフィアをと、お話を賜ったのだ!」
「良かったな!ソフィア」
「はい。お父様」
「今年の皇帝陛下主催のパーティーで、チェスター殿下との婚約が正式に発表される」
「だから、今年はソフィアも首都星に来て貰う。そのつもりでいなさい」
「それから、冬の社交界が終わっても、そのまま首都星に残ってもらう」
「チェスター殿下の母。クラウディア妃の元で、行儀見習いをしてもらう事になる」
「暫く領地には戻れないから、そのつもりでいなさい」
「承知致しました」
毎年、冬は社交界シーズンだ。
何でも中世では、各貴族が税として農民から麦を徴収。
その麦を商人に売却。
その売却益の一部を各貴族が帝国に現金で納めたそうだ。
つまり、秋に収穫した麦を現金に替え、秋の終わりに帝国首都に赴き納税する。
皇帝陛下は、各貴族の労を労う為、パーティーを開き貴族をもてなす。
古来からの伝統行事だ。
今では各貴族の領地に、帝国銀行の支店が設置され、電子データで納税する。
だから私は、1度も現金を見た事が無い。
領民達も、物品の購入も支払いも、すべてタブレットで行っているそうだ。
私は今まで領地を出た事がない。
帝国首都星って、どんなところなんだろう?
それと、チェスター殿下。
どんな方なのかな?
優しい方だと良いな。
私の始めての旅が、帝国首都星に決まった。




