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仮面の英雄  作者: 焼き芋
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第2話 霊獣狩り



組合内で一番安い肉料理をとりあえず頬張っていると何やら声が聞こえてくる。


「〜〜!!」


これは間違いない、だいたい大声で騒いでいるときは普段は見れない面白いことが起こっているのだ。

俺はあたりを見回して騒ぎの中心地を探す。

すると当たり前だがあっさりと見つけることが出来た。

どうやら女と男が揉めているらしい。


珍しいことに男女ともに傭兵風の服装をしている。

どちらも傭兵なのだろうか?

男の傭兵はよく見かけるが、女の傭兵は見かけない。

それは当然のことで、傭兵という職業の男女比は5:1ほどだと言われている。


男の方はここ最近見かけるようになったので傭兵になりたてか、この街に移り住んでからまだ少ししか経っていない傭兵だろう。

女の方も毎日来てる俺が初めて目にしたぐらいだから断定できるわけじゃないけど、たぶんそう長くいるわけではないだろう。


パーティー内で方針が合わなかったのだろうか?

それとも痴話喧嘩だろうか?



「だ、か、ら、いらないって言ってるだろ!!」



「まあまあ、ちょっと声量を落としてくれませんか?」



「いらないって言ってるだろ!!」



「ああ、分かりましたからちょっと声を小さく——」



「いらないって言ってるだろ!!」



「チッ」



何度か押し問答を繰り返すと男が諦めたようで、舌打ちをすると早足に組合から出ていっててしまった。

ちなみに大声出してたほうが女だ。


様子からたぶんナンパでもしてたっぽい?

結構な美人さんだったしな。


俺は思いの外早く終わってしまったイベントに肩透かしを喰らいつつ、食事を完食した。

それから俺は組合の外に出ると、組合近くの門に向かう。


え?依頼は受けなくていいのか?だと?


そもそも傭兵への依頼とは基本的に3種類ある。


1つが傭兵全員に対する任意の依頼”全体依頼”。

これは基本的に誰でも参加することが出来、大体の場合期限はまる一日。

大体は特定の霊獣の特定の部位の納品などで、通常金額に依頼者が提示しておいた上乗せ金額を合わせてもらえる。


その日に死んだばかりの霊獣から剥ぎ取ったものしか買い取りが出来ないものの買い取り量に上限がないため、とりあえず朝に全体依頼を確認しておいて、依頼の霊獣を見つけれたら狩っとく、みたいなことができる。

まあ、上乗せ幅は僅かだが、特に駆け出しのときにはお世話になるらしい。


2つ目は傭兵自身が選択する”取得依頼”

これは誰が受けても構わないが早いものがちで、期限も定められており、達成できなかった場合、罰金もある。

その代わり上乗せ金額、報酬はそれなりのものだ。


3つ目に特定の傭兵個人に対する依頼”個人依頼”。

これは特定の傭兵に出される依頼のことで受けるかどうかは任意だが、受けたあとに達成できなかった場合罰金が発生するが、大体の場合取得依頼と比べても上乗せ金額、報酬は大きいらしい。


緊急依頼なんてものもあるがそれはそうそうあることじゃない。


つまり俺は出遅れたから”取得依頼”は良いものが残っていなかったし、”全体依頼”も見るだけ見たって感じだ。

ちなみに今日の”全体依頼”は"「ヨム草の採取」「クモ型霊獣の外骨格」「等級2の霊核」の3つだった。

霊核は嵩張りづらいけど、等級2は上乗せ分を加えて考えても安い、なので俺は参加しないかな。


そんなことを考えながら門に到着すると、いつもは順番待ちで多少待たされるが今日はスムーズに外に出ることができた。

今日も昨日同様に晴れていて日差しが強く照りつけてきているので待ち時間なんて少なければ少ないほどいい。


結界の外に出ると、一歩進む事に周囲の霊素が急速に休眠状態から平常状態に近づいていくのが分かる。

結界から数十メートル離れると霊素は平常状態で完全に安定した。

霊素の濃度も昨日とさほど変わらないし、周りには人の姿は見えるものの霊獣の姿はない。


まあ当然だろう。

ここは門のすぐ近くなのだ、出現してもすぐに霊獣は殺されるし、そうそうここで生きている霊獣を見かけることはない。


俺は体内の霊素を活発状態にしながら軽く駆け出す。

俺がしばらく走っているとすぐに霊獣が姿を表し始める。

最初は小型のネズミ型霊獣の群れだな、こんな奴らに時間を使うのももったいないので軽く飛び越えて無視して走り続ける。


すぐに振り切るが今度は人型の霊獣だ。

これも無視、そもそも今立ち止まりたくないからな。


***


とりあえず結界から二時間ぐらい走り続けた。

このあたりの霊獣になると大きな霊素の動きに反応するぐらいのことは出来るようになってくる。

そのため自身の体の中の霊素を霊獣に気取られる事のないよう隠蔽し、気付かれないようにするのが望ましい。


俺もこのあたりの霊獣に群となって襲いかかられるとかなりの消耗を強いられるだろう。

霊素と気配を隠してさらに30分程進むとちょうどいい強さの霊獣と遭遇するようになる。

このぐらいの場所が今の俺にとって最も効率よく霊核や糧を稼ぐことができる場所だ。


少し高めの建物に登って目立った場所に霊獣がいないことを確認すると、そこら辺の建物の中の様子を伺う。

4、5件目の家の様子を家の外から探ると、この辺りとしては低めの霊力の反応を持つ生き物がいることが分かった。

運よく窓越しに姿を確認することが出来て体長1、2m程の——中型と分類されるであろう——霊獣の姿を確認することが出来た。


4足歩行でスリムな体型、体外を覆っていたのは毛皮だったのでおそらくそう固くはなく、スピードを武器とするタイプだろう。

まあ特別固かったり、特殊な能力を持っていなければ取る戦法は代わらないが。


地面からそれなりの大きさの石を探すと、俺に気づいていないそいつに向けて窓からぶん投げる。


「バリィィン」


耳を指すような音とともに霊獣に石がぶつかる。


それと同時に俺はわざと霊獣に窓から背が見えるようにして逃げ出す。

だいたいの霊獣はこれで追っかけてくる。


今回もうまく行ったようで見晴らしが悪くなく、剣も振りやすい道路へとおびき出すことに成功した。


俺は霊獣が道路へと降り立ったと同時に顔に向けて牽制で剣を薙ぐ。


霊獣は一歩下がってそれを回避し、攻勢に回ろうとするがそれと同時に投げナイフを投擲。


顔で受けることは避けたものの、避けきれず、首のあたりに直撃。


深い傷ではなかったものの、痛みで鈍った動きで俺からとっさに距離をそうとしたがそれに合わせて後ろ足の足首あたりを切り飛ばす。


その足では自由に動き回ることも出来ずに徐々に体の傷を増やしていきすぐに息絶えた。


俺はそいつから投げナイフを抜き取ると血を拭き取り、あたりに追加の敵がいないことを確認すると霊獣の霊核の場所をなんとなく見極め、剣でバッサリと切った。


「あっ」


つい声が出た。

切った瞬間に分かった。

霊核ごと切ったと。


…まあこういう事もある。

そこまで霊素量は多くなかったし起こってしまったことは仕方が無い、と俺は諦めた。


他の素材は重くてかさばるので放置し、俺は次の獲物を探し始めた。

次の獲物はすぐに見つかった。


3匹でいるようでサイズは先程よりも小さいが、おそらく中型、姿は四足歩行でその皮膚を覆っているのは毛皮ではなく外骨格に近いものだろう。

そいつらは道路の真ん中を歩いており、食べ物でも探していたのだろう。

基本的に同じ地域であれば複数で群れているものよりも一匹で活動しているもののほうが強い傾向にある。


だがそれはそれとして数が多いというのはそれだけで脅威だ。

なので俺は姿を隠したまま、石の塀で仕切られた敷地の庭からレンガみたいなものを全力でぶん投げた。

一番左にいたやつには当たらなかったがそいつが避けたせいで真ん中のやつに当たった。


「ギャンッ」


もちろん奴らはこちらに何かいることに気付いた。

そして幸運なことに奴らはこちらに向かってきてくれた。

俺は屋根に登って気配を殺す。


俺は奴らが隙を見せるのを待つだけでいい。

こういうとき相手が霊素の索敵も隠蔽も下手くそだととても助かる。

こっちは姿も見せずに相手の場所を確認できるからね。


俺はレンガがぶつかった個体が仲間から少し離れた瞬間飛び出た。


襲われた個体以外は咄嗟に反応できておらず、俺は襲った個体が咄嗟に放った攻撃を避けるだけで良かった。


俺はそいつが放った右足をぬるりと避けると、至近距離から予備武器の短剣を喉元に突きつける。


それはその霊獣の外骨格をやすやすと貫き通し、致命的な傷を与えた。


俺は短剣を手放すと急いで離脱し、俺が攻撃した個体からの攻撃を避けた。


次に追撃してきた2匹の攻撃を剣で攻撃しながら回避する。


そこで1匹の顔に大きく赤い線を刻んでやったが、軽くもないが深すぎることもないといったところだろう。


今の状況はこうだ。

一匹は戦闘不能、もう一匹は戦えないほどではないが、戦闘力は万全よりも落ちるだろう。

もう一匹は万全だが、このまま行けば正面からでもリスクなく無傷で殺せる。


俺はそう考え万全の方から殺そうと駆け出す。


そしてまさに俺の剣がそいつの首に触れた瞬間だった。


爆発的な霊素の動きをほんの数メートル左に感じ、それが俺めがけて飛んでくる数瞬前、俺は霊素の減少に構うことなく体を限界まで強化して全力で斜め前に飛んだ。


俺は着地するとすぐさま視線をそちらに向けた。


そのときに見えたのは体長2、3mはあるであろう犬型の化物とそいつの右腕に潰された万全の個体の死骸だった。


犬型の化物はこちらを伺っており今のところ動く様子はない。


犬型の化物とにらめっこをしていると嫌な汗が背を伝うのを感じる。


先程の動きはおそらく向こうも自身の保有している霊素の減少を伴う瞬間的な自身の制御を超えた霊素の活性化による自己強化だったのだろうが、それにしてもこんなバカでかい霊素に俺があれほど近くまで気づけなかったことが問題だ。


俺は外骨格持ちの4足歩行を狩っている途中も辺りへの警戒を怠っていなかった。

だが、あそこまで近づかれた。


これは目の前で牙を見せているこいつが意図的に霊素を隠していたことを表している。

霊素を隠す霊獣というのはかなり珍しく、主に2パターンの種類がいる。


1つ目はもともとそういう性質の霊獣。

2つ目は後天的にその技能を獲得した霊獣だ。


1つ目は弱い霊獣や動かない霊獣に多く見られる特徴だ。

これに関しては問題ない。


2つ目は長く生き残り続けた霊獣に多く見られる特徴だ。

目の前にいるこいつはおそらくこれに分類される。


これはかなり異常なことだ。

そして、霊獣には食事を必要とするものとそうでないものがいる。


食事を必要としないものや食事が草などの草食性、食事が必要だが燃費が良く、ほとんど狩りをする必要がない者たち、こういった霊獣は長く生きやすい傾向にある。


ただ、こいつは多くの食料を必要とするタイプだろう。

見るからに燃費が悪そうなでかい体だ。

つまりこいつは長い間生き残り続け、その間に多くの他の生き物を屠ってきた歴戦の霊獣というわけだ。


そんなことを考えている間、向こうは唸り声を上げてきているものの、何故かすぐに襲ってこない。

なぜだろうかと考え、そして気づく。


この犬型の化け物だって別に争いたいわけじゃないのだろう。


食事が必要だから、お互いに争い、消耗していた狩りやすいであろう獲物を狩ろうとした。


自分の下に十分な食い物があるのだから、別に命の危険を犯してまで目の前の小さな生き物を殺したいとは思わないのだろう。


まあ俺はお前の腹の中の霊核が、鋭利な牙が、艷やかな毛皮が、欲しくて欲しくて堪らないがな。


故にここで出会った俺達が争わないなんて選択肢はない。


俺は争う意志がないふりをするために、後ずさりながらこっそりと霊術を編んでいく。


正直霊術は苦手だが、別にからきし出来ないというわけでは無い。


本職には大きく劣——


「クソッ」


俺が霊術を編み始めるや否や、犬型の化け物がこちらに突っ込んでくる。


俺は霊術の作成を放棄し、ギリギリのところで回避、巨大な前足での攻撃を避け、剣で切る。


ただ剛毛に覆われたその体を傷つけるには至らない。


「かってぇな」


霊術の放棄のせいで回避がギリギリになったとはいえ、こうも簡単に攻撃を阻まれるとは驚きだ。


そんなふうに考えているとその巨体がそのまま俺方面に向かってくるのを感じる。


これほどの巨体であれば確かに体当たりは有効だし、攻撃をしのいで安心したところに攻撃できればもろに食らう可能性もあるだろう。


まあ戦闘経験が豊富なのに攻撃に特筆した鋭さもなくこんな単純な攻撃しか放てないのは所詮獣といったところか。


そう考えながら俺は足で衝撃を吸収し、ダメージを軽減しながら本気で体表を斬りつける。


そしてそのまま体を蹴って距離を離そうとすると、強烈に嫌な予感がした。


こういうときの嫌な予感はよく当たる、かといって何が危険なのかはわからない、そのためとりあえず行動を取りやめることなく一番使い慣れた霊術をとりあえず編んでいく。


そして俺が地上に足を付ける前、俺の霊術が発動する前に、それは発動した。


それは突然でか犬のほど近くで何かが強烈な光を放ち始め、俺に向かい高速で飛来し、爆発した。



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