わかってるってどこまでわかってる?
‐ウソの反対は優しさなの?‐
俺はパトロール隊の視線を背に、町を街を歩き続けた。
どこに行くわけでもないが店には居たくなかった。
冷たい風が夜の闇を切り裂くけれど、俺の心はどこか静かだった。
そんな時、ふいにスマホを覗き込むようにして近づいてくる影があった。
「あの、もしかしてSNSで見たことあります!」
若い女の子が声をかけてきた。
(誰とも話したくないっていってるのに…)
段々笑えてくる。
俺は一瞬驚いたけど、笑って応えた。
「え、まじ??センスいいじゃん」
とっさに出た自分の言葉にセンスを感じてやっぱ天職だなと思った。
彼女の瞳には期待が混じっている。
俺には嬉しい気持ちと同時に、どこか違和感もあった。
「写真でも撮る??」
SNSの向こう側で俺の言葉や姿を追ってくれるのはありがたい。
「え?いいんですか??」
だけど、その“断片”だけで俺を知った気になることに、俺はいつも複雑な思いを抱えていた。
「高いけどね笑」
スマホの画面をちらりと見つめる彼女の期待に応えるために俺は完璧な自分を演じた。
見たいものを見せる。
それがこの町での俺の美学であり正義だった。
本当の自分を見せないことで
本当の自分を見せられる場所がある。
「ありがとうございました!!」
「毎度あり~!!」
逃げるようにコンビニに入って飲みたくもないコーヒーを買った。
歩きながら一口飲んでスマホを取り出した。
何件かの未読ラインとお客さんからの出勤確認が一件。
随分と長いこと考え事をしていたようだ。
日が沈んでからは時間の感覚がどうも鈍くなる。
「たまたま友達と飲んでてさ~、今日出勤してる~???」
いつも変なタイミングで連絡してくるキャバ嬢の千秋だ。
本名かどうかも知らないし、大体いつも酔っている。
「まじごめん!今、体調壊しててさ…。
めっちゃ会いたかったんだけど、今度最近入った生意気な面白い後輩連れて店行くから!」
何回か読み直して音がずれてないか確認した。
店のグループラインには
「悪い、体調悪いから今日帰るわ!誰か来たら他の子に指名つけて入れてあげて」
とだけ返した。
(今日はもう帰ろう)
誰かとちゃんと向き合うには自分もちゃんとここに居なきゃダメで
今日は多分無理な気がした。
それでお金をもらうのはずるい気がしたけど
町を一周しただけで、俺だけこんなに疲れているのも不公平な気がした。
「めんどくせぇ」
煙草をポイ捨てしてタクシーを止めた。
ポイ捨てはしてません(笑)
フィクションです!!!!
一段落つきました。この後の主人公の動きは一旦自由なので、もし皆さんの日常の感じるズレや心にある矛盾を教えてくれたら、主人公が勝手に動き出すかもしれません!
コメントくるまで自由に動かしてみます。