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WABISABI- 完成された未完成‐  作者: カスガ・ハラミ
WABISABI-Main Story-
6/13

挨拶の意味


‐言葉は何のためにある?‐





「おっつれーーっす!!」



店を出た瞬間、入り口の自動ドアの前でユウとすれ違った。


最近入った新人で軽くて生意気だけど子供みたいな奴で


誰とも話したくなかったけどこいつならいいかと思った。


(こいつ…また適当な挨拶してんな笑)


その時嫌なことを思い出した気がした。


「挨拶とか姿勢とか、最近乱れてきていると思います」


俺がいなくなったあと幹部の会議でそんな話があったらしい。


(あ、こいつのことか笑)


と笑ってしまったとほぼ同じぐらいのタイミングで


めんどくさい感情が追い付いてきた気がした。


(めんどくせぇぇぇぇぇえ)



「なんだよその挨拶」


わざと笑って言った。


ユウは何も言わず、にやけたまま軽く会釈だけして通り過ぎた。


その無邪気とも無気力ともつかない態度に、ちょっとだけ救われる瞬間もある。


誰にも期待してない顔。


でもどこかで、誰かに期待されるのを待ってる顔。


(やっぱめんどくせぇわ…)


俺はそのまま、ネオンの残り香が漂う夜の町を歩き出した。


ホストの看板が集まる駐車場を曲がろうとしたとき


一つの看板が目に留まった


「年間最高売上日本記録更新!!5億突破!!!!」


(いや、おかしいだろ笑)


誰よりも負けず嫌いだったはずだったが


不思議と負けた気は一切しなかった。



“間違っていないことが、正しいとは限らない”


社長の言葉が頭の奥でくすぶってる。


なんとなく納得できそうで、でもどこかで引っかかっている。


(じゃあ、俺があの場で言ったことはなんだったんだろう)


誰かを傷つけたかもしれない。


でも、俺は全員の為を思っていったつもり…。


(…つもり?)


正しさってのは、いつからこんなにも扱いづらいもんになったんだ?


コンビニの前を通りすぎる。


ガラの悪い兄ちゃんが笑いながら缶ビールを蹴っ飛ばしてた。


思ったより遠くまで飛んだみたいで上機嫌になっていた。


俺も少し笑った。


ああ、これもこの町だ。



その先の路地から、スーツを着た女を先頭に


制服みたいなジャンパーを着た集団が出てくる。


都のパトロール隊だった。いわゆる、浄化活動。


彼らは、この街に“正しさ”を持ち込む。


暴力じゃない、でも確かにじわじわと居場所を奪っていく種類の力。


無言の視線と、無言の圧力。


それが一番、人の心を冷やす。



歩きたばこをしていたわけじゃないのに、心臓が小さく跳ねる。


(俺らが“正しくない側”にされるのは、いつからだ?)


大人しくしてたって、正しさは襲ってくる。


正しさってなんだよ。


誰の正しさだよ。


何のための正しさなんだよ。


問いだけが、夜に混じっていく。




交差点で足を止めた。


赤信号。


でも、誰も渡らない。


信号機の下に、雨粒が残った電光掲示板が光ってる。


「明日も元気に、挨拶を!」


(ヤクザじゃないんだから…笑)


なんだか地元を思い出してふと笑った。




ユウの挨拶がどんなに雑でも、アイツなりにこの街で生きてる。


あの雑さに、ちょっとだけ救われてる俺もいる。


つまりそういうことなんだろう。


“正しさ”が、人を救うとは限らない。


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