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WABISABI- 完成された未完成‐  作者: カスガ・ハラミ
WABISABI-Main Story-
10/11

呼んでもいい客、ダメな客


‐居場所って、誰のための居場所なの?‐



憂鬱な気分を切り抜けた後は、いつもより気分が楽に感じるのはどうしてだろう。


少なくともプラマイゼロなはずなのに…。


夜の歌舞伎町は、いつもより静かに息を潜めているようだった。


路地裏のネオンがぼんやりと滲み、店の扉が開く音が薄く響いた。


いつもは俺の出勤が遅いせいで、タイミングが合わなかった久しぶりの来店。


彼女の名前は杏奈アンナ。この町のキャバクラで勤めている。


彼女は出勤前にホストで酒を飲み、出勤してからさらに飲み


アフターバーでもさらに飲む。いわゆる「酒」そのものみたいな女だ。


アンナが出勤前に珍しく友達を連れて入ってきた。


「めっちゃ久しぶりじゃ~ん!!!」


キャッシャー前で飛びついてきた既に酔っているアンナを


軽くいなしながら席に誘導する。


席に着いて飲み物を作っている間に、俺は友達の方に声をかけた。


「大変ね(笑)もうけっこう飲んだの?」


「私は大丈夫ですけど、アンナが…。」


友達の名前は寿梨ジュリというらしい。綺麗な顔をしていた。


本名かどうかは知らないし、知ったところで仕方がないから特に聞きもしない。


「ちょっとトイレ行ってくる…。うっ…」


アンナはそう言って化粧室の方へ走って行った。


ジュリはけらけらと笑いながらグラスに口をつけていた。


初めましての人間と二人きりで話すのは苦手だった。


全くの新規なら、遠慮せずに話せるんだけど、


少しでも誰かのフィルターがかかった人と話すのは、どうも苦手だった。


最初のキャストが回ってくるまでは、仕方がないので、主人公は静かに口を開く。


「君、ホスト初めてでしょ?」


意味の分からないことを言ってしまった気がした。


ジュリは一瞬言葉を失い、そして目を丸くして振り返る。


「え、なんで分かるんですか?」


俺は軽く微笑みを浮かべながら、少しだけ声のトーンを落とす。


「ここ、必要なさそうな子だから」


めちゃくちゃ意味の分からないことを言っている気がしているが


得意ではないことをやれば、人間大体こういうもんだ。


「ホストって凄いんですね!!初めてでも、ちゃんと楽しいですよっ。」


ジュリはそう言って、またけらけらと笑いながらお酒に口をつけていた。


「初めまして~!!アユムで~す!!!」


初回のお客さんへの最初のキャストが回ってきたタイミングで、俺は席を立った。


「大丈夫かー?(笑)」


化粧室から出てきたアンナに水とおしぼりを手渡しながら、俺は考えていた。


確かに「酒そのもの」みたいな女ではあるが、かなり酒が強かったはずだ。


友人を連れてきたのも、初めて?に近いぐらいのはずだった。


「サンキュー、おブスちゃん(笑)」


アンナの吐く毒には、複雑な感情が混ざっている気がした。


そしてその違和感は、俺にしか見えていない、アンナの未完成な部分だったのかもしれない。


ーー


初回の時間が過ぎ、送り指名(一番気に入った人)を悩むジュリに向かって、


水を飲みながらアンナが言い放った。


「自分が好きな子選べばいいのよ、こいつ見てみ?ブスじゃん(笑)」


俺を指さしながら言うアンナ。


俺は何も言わなかった。


しばらく迷って、やっと決めたのか、ジュリは名刺を両手で差し出して言った。


「ユウくんにしますっ」


「え?パンピーじゃんwwあれがいいの?」


アンナの毒を、冗談だとちゃんと理解できているのか、ジュリは今日で1番笑っていた。


ユウが改めて席に戻ってきて、連絡先を交換している間、


俺はアンナに軽く聞いた


「なんかあった?」


「ん~??なんもないよぉ~?」


まっすぐ前を向いたまま、アンナは噓をついた。


その横顔には、酒が一滴も落ちていなかった。


ーーー



「ありがとうございました!」


ユウと俺は二人を店の外まで見送った。


ユウはずっと手を振っていたし、ジュリはたまに振り返って笑っていた。


アンナは一度も振り返りはしなかったし、俺は…。


俺は何をしていたか忘れた…。



ーーーー



「明日はレクレーションで泊まりでBBQだ!11:00に店の前に集合な!!」


終礼を終えて、俺はユウを呼んだ。


「おつかれーっす!」


相変わらず挨拶の仕方は変わらないが、二人だけなのでまぁいい。


「ちゃんとお礼のLINE送っておけよ!」


「もう送ったっす!あの子、めっちゃ可愛かったっすねー!」


主人公は冷静さを取り戻すように水を飲み干し、視線をユウに向ける。


「あの子が勝手に来るのはいいけど、呼んじゃダメだよ」


ユウは驚いた様子で眉をひそめる。


それからすぐに残念そうな音を鳴らしながら言った


「えー?まじっすかー」


間違っていることを言っているのは、自分が一番分かっていた。


ユウは黙り込み視線を落とした。


俺にはその矛盾を説明する言葉が見つけられなかったからなのか


「っま、お前が決めていいよ」


と、誰からも背負わされた覚えのないリュックをユウに投げた。


「明日遅刻すんなよ(笑)」


ユウにはそれだけ伝えてほかの人には挨拶せずに店を出た。


明日は新人歓迎会を兼ねたレクレーションがあるため店休日だった。


外に出ると、とても月がきれいに輝いていた。


俺は真夜中にもかかわらず、十字架マークの付いた真っ黒なサングラスをつけた。


明日は晴れてしまうだろう…。


複雑な温度の風が、俺の全身を駆け抜けた。



丁寧に感情を拾っていたら少し長くなってしまいました


ジュリは多分、未完成なものをそのまま飲み込んで愛せちゃうんですよね。素質だと思います。

だから相性の裏表が見えすぎて主人公はそれを感じ取ったんじゃないかな、と思います。

でも、ホストはホストでそれが仕事なんですよね。

居場所ってむずかしい!!

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