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【悪役令嬢】の妹

作者: 下菊みこと

私はリン。


リンネアル・トラディシオン。


大好きな姉様、ネイル・トラディシオンの妹。


姉様はそれはそれは美しい人だった。


顔に特徴的なあざがあるけれど、それを差し引いてもなお美しい人。


そして優しい人だった。


『リンちゃん、こっちへいらっしゃい』


『姉様ー!』


『いい子、いい子ね、いい子』


両親は金と権力にしか興味がないクズで、私たち姉妹は二人ぼっちで支え合っていた。


姉様の口癖は、リンちゃんがいるから頑張れるわという優しい言葉で。


姉様は、優しい人だった。


本当に、優しい人だった。


『…姉様が、自死した?』


だから、あの事件は私にとって青天の霹靂だった。















結論から言おう。


姉様は、婚約者の浮気で心身をボロボロにされ自殺した。


貴族の子女の通う学園。


そこは寮制で、私は姉様の置かれた状況に気付かなかった。


だから、姉様を死なせてしまった。


『姉様が…浮気されて…周りにも愛し合う二人を引き裂く【悪役令嬢】と吹聴されて………?』


ああ、姉様。


言ってくれれば、私は身を捨ててでも姉様を守ったのに。


でも姉様は優しいから。


私を巻き込まないために………。


『クソクソクソクソクソ!!!お前らのせいでぇ!!!』


『ごぎゃっ』


『おえっ』


私は手始めに、両親を〝片づけた〟。


こいつらが、相手の浮気を知っていてもなお…金のためだけに、姉様に我慢を強いたと知ったから。


魔術師に頼み込み、呪術で捕らえ、三人きりになって…惨たらしく殺してやった。


使用人たちは私に同情的で、〝強盗に襲われて両親を亡くした〟私が爵位や領地を叔父に譲り貴族社会から離れるのを酷く心配してくれた。


だが、私は私財だけを持って屋敷を離れた。


そして次に、浮気男と阿婆擦れを〝片づけた〟。


『姉様を苦しめたお前たちだけは絶対に許さない』


『おぶっ、ごへっ』


『ぐふぅっ』


例の魔術師にまた頼み込んで、二人を呪術で捕らえた。


ただでは殺さない。


爪を剥いだ。


指をもいだ。


腕を切り落とした。


足を切り落とした。


そして、四肢欠損が性癖のマダムとオジ様に二束三文で売り渡した。


『生き地獄で、反省なさいな』


お父様とお母様ははやく死ねてよかったわね。


こいつらの末路より数倍マシよ。


ああ、肉親に対して〝情〟をかけてあげた私のなんと優しいことか。


そして、次のターゲットに向かう。


次のターゲットは姉様を【悪役令嬢】だと吹聴していじめたクズども。


姉様を貶めた罪は決して軽いものではない。


『人殺し』


『浮気された被害者を【悪役令嬢】などと吹聴した人殺し』


『お前らは人殺しだ』


『人殺し、人殺し』


『【悪役令嬢】はお前らだ』


姉様を【悪役令嬢】などと吹聴して追い詰めた女たち。


実際にはただのいじめっ子に過ぎない、薄汚い女狐たち。


愛し合う二人を引き裂く【悪役令嬢】などと姉様をいじめたクズども。


許しはしない。


ありとあらゆるところで、タネを撒いた。


『人殺し、人殺し』


『人を自殺に追いやった人殺し』


『いじめっ子』


『悪い子』


『憎まれっ子』


どんな場面でも、どんな瞬間でも。


例の魔術師に頼み込み、人生の最高の瞬間をぶち壊す。


例えば結婚式、例えば子供が産まれるとき、例えば子供が大きくなって最初のイベントの時。


呪術を用いて、あの女たちを人殺しだと責める声がどこからともなく聞こえるようにした。


結果、どんな相手と結婚してもいずれご破算。


実家からも縁を切られていた。


そして貴族社会から追放され、気付けば全員娼館行きになった。


だがその娼館でも同じことをする。


結果奴らは、最底辺の『やれればどんな子でもいい』お客様のみを相手するようになった。


生き地獄で苦しみ続けるがいい。















「さて、それで…ここまで協力した俺にご褒美はあるのかな」


「あるわよ」


「へぇ…君は何を差し出してくれるの?」


「私自身を」


「おや」


彼は穏やかに笑って言った。


「君は俺にとって宝にも等しい。君だけが魔術師の才があった俺を【異端】だと言わなかった。君だけが俺の幸せだった。だから俺は君のためならなんでも差し出せる…そんな君を俺が貰い受けてもいいの?」


「もちろんよ」


「でもそれでは釣り合いが取れない。たかだか数人への復讐の手伝いくらいしかしていないのだから」


「でも私たち、元々【婚約者】同士の間柄だったでしょ?」


「それはそうだけど」


彼は彼で、自分の居場所を求めて貴族社会から逃げ出している。


だからこの婚約はもう〝なくなった〟ことだ。


でも、私は彼に私をあげよう。


「なら、釣り合いが取れるようにしてちょうだい」


「…具体的には?」


「姉様ともう一度会える【奇跡】を私にちょうだい」


「…まあ、出来ないことはないけど」


彼は私に触れる。


「魂の根源、そこに接続してあげよう。でもこれは一生に一度の奇跡。そしてほんの少しの時間しかない。いいね」


「ええ、もちろん」


私は、魂の根源と呼ばれる場所に意識を飛ばした。













「…姉様」


「リンちゃん、ごめんね…」


出会って早々に、姉様に謝られる。


「なにが?」


「優しいリンちゃんにあんなことをさせてしまって…」


「私は元々優しくないよ、優しいのは姉様の方。でね、姉様…スッキリ、した?」


「少しだけ、胸がスッキリしたわ。次の人生も前向きに考えられそう」


「次の人生、あるんだ」


「ええ、この世界ではみんなそうなのよ」


「へえ」


姉様が、スッキリしたならよかった。


「でも、姉様は心配だわ。これからどう生きていくの?」


「あいつと結婚して魔術師の妻になるわ。大丈夫、私財もあるし」


「そう…やっぱり心配。彼、リンちゃんのこと好き過ぎるから」


「ふふ、それはそうかも」


そして、姉様は言った。


「お父様とお母様は残念ながらここでも投獄されて、しばらくは転生させてもらえないみたい。でもね、私は早めに転生できるみたいだから…」


姉様は笑う。


「次の人生でも、きっと会いましょうね」


「…うん、姉様。お元気で」


「お元気でね」


そして私は、現実に戻った。













私と魔術師の彼…レオンは小さな村に移住して、魔術師とその妻として生活した。


「レオン、今日は甘い果物をお隣さんからもらったわ。子供達も呼んで一緒に食べましょう」


「いいね、そうしよう」


しばらくして子供も三人もうけて、それなりに穏やかな幸せを得た。


復讐に身を費やした私がこんなにも幸せでいいのかと思うほどに。


でも、夫はそんな私に笑って言う。


「君が幸せな方が、お義姉様も喜ぶと思うよ」


「そう…よね」


だから私は、この幸せを享受する。


そんな私と夫の暮らす村のとある夫婦のもとに、女の子が生まれた。


私たち夫婦も懇意にしている夫婦だ。


見舞いに行って、赤ちゃんの顔を見てすぐ理解した。


「ああ…」


【お姉様の生まれ変わり】だと。


顔にある特徴的なあざで、すぐにわかった。


「ああ、ああ…!!!」


なんてこと、なんて奇跡!


本当に、また会えるなんて!!!


夫も気付いたようで、泣く私をフォローしてくれた。


妻は感動し過ぎてしまったようだから、また日を改めて来ると外に連れ出してくれた。


そしてなんと、私たちの息子と【あの子】の婚約を取り付けてくれた。


「こんな、こんな幸せがあっていいの…?」


「いいんだよ、お義姉様もそのためにあの夫婦を選んだのだろう」


「ありがとう…レオン、ありがとう…姉様、ありがとう…!!!」


そして私は、完璧な幸せを手に入れた。


あれだけ壮絶な復讐をしてしまったのに、幸せになってしまったのだ。


「ねえ、レオン…私、怖すぎるくらい幸せ」


「大丈夫、君の幸せは俺が守るよ。子供達も、君自身も…あの子も、今度こそ」


「レオンっ…!」


今はこの幸せが今後壊されないように、今度こそ姉様が幸せになれるように…息子を陰ながら見守っている。


あの子を息子が本当に幸せにできるのか見極めているが、今のところ大丈夫そうだ。


「レオンとあの子は仲睦まじく育っているね」


「そうね、よかったわ」


「将来は俺たちのようなおしどり夫婦になりたいってさ」


「まあ、可愛らしい」


当然あの子を産んだご夫婦との繋がりも強固なものとなり、ご夫婦の住むこの村のために夫共々尽力するようになったのはまた別のお話。
















ガッツリやり返す話を書きたくなってしまいました…すみません。


ここからは宣伝になりますが、


『悪役令嬢として捨てられる予定ですが、それまで人生楽しみます!』


というお話が電子書籍として発売されています。


よろしければご覧ください!

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― 新着の感想 ―
たぶん死後投獄されそうですが、そこでも夫婦で頑張りそうですね。 姉さまも二人が亡くなるまで一緒にいてくれて、少しでも罪が軽くなるように祈ってくれそう。
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