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闇を裂く、ふたりの誓い♡

第10話 闇を裂く、ふたりの誓い♡


――戦場の真っ只中。


炎と煙が渦巻く中、魔王が異形と対峙していた。


「……我が娘に、指一本触れるな」


燃えるような魔力が魔王を包み込む。 その威圧感に、兵士たちが次々とひれ伏す中、異形――かつて魔族だったが瘴気に堕ち、理を外れた存在・モーデントは、不気味に嗤った。


「お前もまた、時代遅れの魔王よ……ならば、ここで終われ」


両者の間で、魔力の奔流が炸裂する。 闇と紅蓮が激突し、剣と爪、炎と瘴気が火花を散らす。


まさに――死闘。


だが、モーデントの力は異質だった。


「……ぐ、は……っ」


剛腕を貫かれ、魔王は崩れ落ちる。 それでも、娘の名を呼ぶ唇は最後まで戦いを諦めなかった。


「ミラ……生きろ……」


──その叫びと交錯するように、戦場の反対側ではカイとゼクスの一騎討ちが最終局面を迎えていた。


「これが……貴様の正義か、カイ!」


「俺は……世界を、ミラを守るために戦ってるんだ!」


血まみれの剣が、ゼクスの鎧を貫いた。


ゼクスは目を見開き、満足そうに呟く。


「……この時を、ずっと夢見ていた……お前と本気で戦える瞬間を……」


静かに、地に伏すゼクス。 だが、カイの身体も限界だった。


膝をついたその時、背後に蠢く気配。


――異形、モーデント。


「まったく……最後に残るのが貴様とはな」


その声に、カイはボロボロの身体で立ち上がる。


「お前だけは……ここで止める」


剣を構える。だが、力が入らない。


異形の巨大な腕が、カイに振り下ろされる――!


「やめてーーー!!!!」


ミラの叫び声が響くと、閃光が走った。


ミラが、異形の手から逃れるように宙を舞い、漆黒の翼を広げて舞い降りる。

その姿は、まるで闇を闇で裂く黒炎のようだった。


封じられていた力が完全に覚醒し、彼女の周囲に魔方陣の花が咲く。


「これ以上、カイ様に触れさせないっ……!」


ミラの放つ一撃が、モーデントを吹き飛ばす。 異形が初めて、怯えたように後退る。


「貴様……何者だ……」


「私はミラ・ドラキュラ。魔王の娘にして、この戦いを終わらせる者ですわ!」


再び、戦いが始まる。


今度は、ミラが互角に渡り合っていた。 その戦いに、満身創痍のカイも加わる。


ふたりの剣と魔力が重なり、異形を追い詰めていく。 モーデントの身体が瘴気にまみれ、歪みながら蠢く。


「なぜだっ……貴様らごときが、なぜこの私を追い詰められる……!」


その怒りと絶望が混ざった咆哮の中、ミラとカイは向き合った。


「ミラ、いけるか……?」


「ええ。カイ様となら……!」


ふたりの手が重なる。 その瞬間、光と闇がひとつに溶け合った。 愛が導く二人を、聖なる力が包み込む。


ミラの描いた魔法陣に反応するように、光と闇に包まれた剣が燃え上がる。


「……これが、私たちの答えですわ!」


ミラの声に、カイが剣を握りしめる。


「ミラを、世界を守るために……お前を、討つ!」


剣が閃き、ふたりの力が重なる――! ミラの魔力が空を割り、カイの斬撃が瘴気を裂く。 その一閃が、異形の胸を貫いた。


「ぐ、あ……がっ……!!」


異形の体が崩れ、瘴気が空に吸い込まれていく。 モーデントは信じられないという顔で、ふたりを見上げた。


「愛……などというものに……!」


──その声は、風にかき消された。


戦場は静けさを取り戻し、ふたりはようやく剣を下ろす。


だが──そのとき。


ズッ──と、不気味な音が響いた。


「カイ様っ!」


ミラが叫ぶ。


異形の折れた角。 それが、瘴気に乗って宙を漂い、まるで意志を持ったようにミラへ向かって飛んでいた。


「ミラ、下がれ!!」


カイがミラを突き飛ばす。 代わりに、その鋭い角が、彼の腹を貫いた。


「っ……!!」


鮮血が、聖剣の上に滴る。


「カイさ…ま…?…っ… カイーーー!!」


ミラが駆け寄る。カイの体はもう、自力では立っていられなかった。


「しっかりして……お願い、目を開けて……!」


「……大丈夫……ミラが、無事なら……それで……」


「だめですわ、そんなの……! ふたりで進むって、約束したのにっ……!」


カイの手が、弱くミラの手を包み込む。


「……守れて、よかった……お前のこと、ずっと──」


言葉が、そこで途切れる。


ミラの頬を、涙が伝う。


「お願い……カイ様……!」


彼の身体には、まだ微かなぬくもりが残っていた。


――ふたりの勝利が、愛の誓いが、報われたはずだった。


けれど、それは決して、無傷の結末ではなかった。



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