008.恩師との出会い(1)
俺は知らない部屋のベッドで目が覚めた。
「あら、起きた?」
俺に話しかけてきたのは、高校生位の女性だった。
「ああ、俺はなんでこんなところにいるんだ?」
「君は、昨日の夜に路地裏で私のお父さんがあなたのことを見つけてうちまで運んできたのよ」
俺は昨日の戦いを思い出し、そういえば路地裏で倒れたところまで思い出した。
「あなたはなんでこんな酷い傷であんなところに倒れていたの?」
「・・・」
「あ、ごめんね。話したいことだったら話さなくてもいいよ」
どう話すか迷っていたら勝手に変なふうに誤解してくれたらしい。俺は、ベッドから起きようとしたが傷が痛んでしまった。
「まだ、起き上がったらダメだよ。酷い傷だったんだから」
俺の傷は丁寧に手当をしてあった。フェンリルの子に切り裂かれた傷もあったから家庭で手当できるようなものではなかったはず。
そう疑問に思っていると、
「私の”聖”は他人の治癒能力を向上させることなの。それで、君の傷もなんとか手当したのよ」
「そうか」
「お姉ちゃん、入るよ」
部屋の扉が開き、中学生位の少年が入ってきた。
「あ、やっぱり起きてる。声が聞こえたから起きてるんじゃないかと思ったんだよね。ご飯ができてるけどこっちに持ってこようか?」
「うん、おねがい」
「わかった、ちょっと待ってて」
そう言って、扉を閉めて行ってしまった。
「あれはね、私の弟で俊哉っていうの。私は菫。あなた名前はなんていうの?」
俺には、名前がある。だが、あんなクソ野郎と同じ苗字でそいつらがつけた名前なんて名乗りたくなかった。
「名前・・・覚えていない」
とりあえず覚えていないふりをしておいた。
「もしかして記憶喪失?」
いや、記憶喪失ではないがとりあえず頷いておく
「朝ごはん持ってきたよ」
そう言って弟の俊哉がご飯を持ってきてくれた。
俺の傷を思ってか、ご飯は食べやすいお粥にだった。
俺は一口食べたが、昨日の戦いで口の中まで傷を負っていたようでかなり沁みて痛かった。だが、それを悟られないようにゆっくりと喉を通す。用意されたお粥が全て食べ終わった頃、一人の中年男性が部屋に入ってきた。
「あ、お父さん」
この家の主人だろう。
「この人が路地裏で倒れているあなたをここまで連れてきてくれたんだよ」
「どうも」
「元気になったようでよかったよ。君の名前はなんて言うんだい?」
「あ、この子記憶喪失らしいの。それで名前がわからないらしい」
まぁ、本当は記憶喪失じゃなけどな。。
心の中でそう思っていると、
「そうか、それじゃなんで昨日はあんなところに倒れていたのか覚えているかい?」
説明するのも面倒臭いしここも覚えてないふりでもしておくか
「いや、覚えていない」
「それじゃ、どこに住んでいるのかとかどこから来たのかとかも覚えていなんだね」
俺は頷いておく。
「うーん。困ったな。あんな傷で倒れていたってことは、訳ありそうだしな。警察に届けるのは気がひけるな」
よかった。警察に届けようとしたら殺すしかなかったな。
「とりあえず、記憶が戻るまでここで暮らさないか?」
そんな提案をされた
「いや、俺がここにいても迷惑だろう」
「迷惑じゃないよ!俺も弟ができたみたいで嬉しいしな」
「そうよ、困った時はお互い様なんだから」
菫と俊哉姉弟が言った。
どうしようか。
今までのように研究施設の襲撃を続けて行ったら絶対にまたあいつと戦う必要が出て来る。まだあいつと戦うためには力が足りない。しばらくは、ここで身を隠して力を貯めるのも悪くないか。
「よし、決まりだ。君は今日から私たちの家族だ」
なぜか沈黙を肯定だと捉えた中年男性が勝手に決めてしまった。
「君は自分の年齢はわかるかい?」
「年齢・・・?13くらいだと思う・・・」
本当に13歳だが、ちょっと濁しておいた。
「13かまだ中学1年生だね。それじゃうちで生活するためには、一つ条件がある」
「条件?」
「学校に通うことだ」
「がっこう?」
「学校のことも忘れてしまったのかい?」
「いや、学校くらいは覚えている。だが、そんな簡単に学校というものに入れるのか?」
もちろん俺も小学校3年生くらいまでは学校に通っていたため中学校3年生までは義務教育で通わなければ行けないことくらいは知っている。
「私は、近くの公立中学校で教師をしていてね。その中学では、戸籍や住民票がない子供たちも受け入れているんだ。あまりそういう子はいないけど、君は記憶喪失らしいからなんとか入れることはできるとはずだ」
「そうか」
学校にはあまり行く気はなかったが、行くことにした。
そう思ったらまだ昨日の戦いの疲れがあり眠ってしまった。