005.新たなる日の始まり
あれから俺は東雲が島から出る用の船を使いなんとか本島まで帰ってくることができたのは、朝日が登った頃になっていた。
本島に戻ることができたのは素直に嬉しかった。
「2年ぶりの本島か。これからどうやって、あの研究の関係者を探し出せばいいだ」
俺は、まだ12歳だし政府関係者にはなんの伝手もない。それどころか、金もないため、これからどうやって生きていくのかも決まらない。元々、両親に金で売られてあの研究施設にやってきたため、今更、家に戻るつもりは毛頭ない。
「とりあえず、腹ごしらえだな。どこかに食えそうな植物とか虫とかいればいいんだが」
俺は、降り立った砂浜から遠くの方に見える雑木林の方へ向かった。雑木林へ行く途中、ここ最近では嗅ぐことが全くなかったいい匂いというものを嗅いだ。その匂いの源を探したらどうやら近くにあった一軒家からだと思われた。その一軒家をこっそり覗いたら、10歳くらいの少女とその両親と思われる男女がいて、テーブルには、食パンと目玉焼きなど一般的な人からしたら普通の朝食だろう。2年以上普通の食事なんてしていなかった俺にはとんでもないご馳走に見えた。そして、その朝ごはんを前に笑い合っている家族がとっても憎かった。今まで俺たちが痛くて苦しくて辛い時間をし後していた間、こいつらは毎日こんな生ぬるい生活をしていたんだと思うとやるせない気がした。そう思っていたら体が勝手にその家族を殺してしまっていた。最初は人を殺すつもりはなかった俺だったが、既に500人ほど殺してしまっている。既に感覚は麻痺してしまい、もう誰かを殺してしまっても何も感じなくなってしまった。
テーブルを置いてある食事を食べ始めた。
「おいしい」
2年ぶりのちゃんとしたご飯。自然と涙が出てきた。親子3人の死体なんて気にすることもなく、全てのご飯を全て食べてしまった。久しぶりにお腹いっぱいになるまで食べたら今度は眠くなってしまった。この家の中にあるベッドがあったからそこで横になり目を瞑った。
インターホンの音が何度か鳴ったせいもあり、俺は目を覚ました。あれから4時間くらいだろうか、太陽はすっかり登りきっていた。短い時間だったが、今まで安心して眠ることもできなかったから、すっきりとしていた。家のリビングにはまだ家族の死体が転がっていた。リビングに備え付けられているモニターにはインターホンをならしたであろう人物が写っていた。その男は、中年くらいの男だった。その男は何か言っているが、どうやら、この家の少女が時間になっても一向に学校に来なかったから確認をしにきたようだ。
「ちょっと学校に来なかったからといって、心配して家まで来るのかよ。本島には暇人が多いんだな。なんでこんな奴らがのうのうと暮らしているんだ。こんな奴らが生きてて、遼介が死なないといけないこの世の中はどうかしてる・・・」
俺は、あの島にいた研究者たちだけではなく、平和に暮らしているこの世界の全員に憎悪を抱き始めていた。
俺は、玄関から家を出て、インターホンを押した中年の男性の前に出た。
「あ、どうも。私、すずさんの担任の伊藤といいます。本日、なんの連絡もなく学校に来なかったものですから、心配していたんですよ。あなたは、すずさんのお兄さんでしょうか?お兄さんもまだ学生のようですが学校には行かなくてもよろしいのですか?あれ?そういえば、すずさんってお兄さんいたっけな?」
なんかよくわからないが独り言を言っているようなので、そいつに関わらないように横を通り抜け、街の方に歩いて行った。
その数十秒後後ろの方から悲鳴のようなものが聞こえたが気のせいだろう。