003.赤い夜(2)
「天野のやつ変なこと言い出しやがったせいもあるが、少し他の奴らが萎縮しているな」
「殺そうとしていた奴に、逆に殺される可能性があるってわかったからな。真正面から戦って勝てるような相手じゃないとわかっているから慎重になっているんだろうね」
『君たちは何をしているのかな?船に乗れるのは最初に殺した一人だけだよ?早くしないと他の人に先を越されちゃうよ?』
「余計なこと言いやがって」
心の中で舌打ちをしながら、島の灯台まで辿り着いた。
「灯台まで来たけどこれからどうするんだ?こっちの方に来たのは天野の放送でバレているけど」
「ここで優香と落ち合う予定になっているんだ。この近くに洞窟があってそこを通れば、島の反対側まで出られるらしいんだ」
「そんな抜け道があったなんてな。知らなかった」
「他の子達も知らないから、ここを通って島の逆までいけばかなり時間が稼げるはずだよ。天野もこの抜け道までは知らないだろうしね」
灯台の中に入ると優香がいた。
「あ、いたいた、遅いよ!」
優香がこっちに気づき手招きをしている。
「動くな!」
俺は異変に気づき咄嗟に叫んだ。
「え、どうしたの急に?優香だよ?」
遼介が不思議そうにこちらを見てきた。
「おい、優香。その左手に持っているのはなんだ」
「左手?」
優香の左手には紐のようなものが握られていた。
その紐は近くにある樽に続いていた。
「その樽の中身はなんだ」
「何を疑ってるの?さっきからいろんなやつに追いかけられて疑心暗鬼になった?」
「その樽の中身はなんだと聞いているんだ」
「そんなに気になるなら、自分で覗いてみればいいじゃない」
「僕が覗くよ」
遼介が優香の近くにより、樽の中身を覗いた。
「これはどういうこと?なんでこんな量の火薬が入っているの?」
優香の笑顔が貼り付いたまま崩れない。
「こんな量の火薬だったら君も一緒に巻き込まれて死んでしまうよ」
「私はね、あの子のためならなんだってする。今ここで、あんたと一緒に私が死ねば、あの子が船に乗る権利を得られる!」
そう言って優香は左手に持っている紐に自身の”聖”で点火した。
その後、近くにあった別の紐にも点火し始めた。
その数秒後、灯台のいたるところで爆発が起きた。
「馬鹿野郎!!」
優香は近くにあった樽の爆発に巻き込まれていた。
「くそ、逃げ道が」
「優香!?どうして・・・」
「おい、遼介!何ぼーっとしてるんだ。逃げるぞ」
灯台から出ようとした時、灯台の入り口が爆発によって崩れ落ちてしまった。さらに爆発は続き、灯台は完全に崩壊してしまった。
俺たちは瓦礫の下敷きになるはずだったが、奇跡的に俺たちの周りには瓦礫が落ちていなかった。
遼介は、優香の死を受け入れられていないのか意気消沈している。
「こんなド派手に灯台がぶち壊れたんだ、すぐに奴らが集まってくるぞ。早くここから離れるぞ」
「ねぇ」
「どうした?早く行くぞ」
遼介の方を見ると遼介の右手には瓦礫の破片の中でも鋭く尖ったものが握られていた。
「僕の将来の夢は、聖競争者になることなんだ」
「こんな時に何を言っているんだ」
「僕は、こんなところで死にたくない。生きてやりたいことがたくさんある」
「それで?俺を殺すのか?」
「ううん、君には生きて欲しい。君の力はきっと世界の役に立つ。僕なんかよりずっと生きる価値があるんだ」
遼介の様子が何かおかしい。
「君が生きてこの島から出るためにはこの島にいる全員を殺さないといけない」
「俺は、誰も殺すつもりはない。もちろん、遼介を殺すなんてもって他だ」
「そうだよね。君はそう言うと思ってた。君には少なくとも僕を殺すことはできない・・・」
「遼介?何を言っているんだ?わからないぞ?」
「僕は死にたくない、生きたい、君には生きて欲しい、君は僕を殺せない・・・!!」
「何をしようとしている!!」
遼介は右手に持っていた瓦礫の破片を大きく振り上げた。
「やめろ!!遼介!!!!」
俺は、急いで遼介を止めようとした。
だが、間に合わなかった。遼介の持っていた瓦礫の破片は、自らの腹部を貫いていた。
「りょうすけーーーーー!!!!」
いくら鋭いからと言って、瓦礫の破片ではうまく腹部を刺せなかったのだろう。まだ死んでおらずうめき声をあげていた。俺は慌てて止血をしようとした。だがその時、遼介は最後の力を振り絞り、再度自らの腹部に瓦礫の破片を刺した。
「はぁ、はぁ、遼介、遼介、りょうすけーーー!!!!」
俺は何度も遼介の名前を叫ぶ。しかし、その甲斐も虚しく遼介は息絶えてしまった。