002.赤い夜(1)
とある日の夕刻、研究施設にいる子供たちが全員集められていた。
この施設には約500人の子供たちがいるのそこそこ広い空間だった。
子供たちの目の前に立っているのは、この研究施設の長、天野だ。
『君たちには失望しました。この研究施設の目的は、この世界の頂点に君臨する七聖。その序列2位である神聖様の”聖”を安定して作成することです。しかし、君たちのうち誰一人神聖の力を手にできたものどころか、近い”聖”を手にしたのはたったの一人だけ。ほとんどは、神聖に影響されて自身の”聖”すら使えなくなっている。この研究は完全に失敗だと上層部に判断されてしまいました。君たちのせいで私の評価が駄々下がりです。』
天野が俺たちの前で延々と愚痴を言っている。
「だからなんだよ」
「結局失敗何だったら僕たちを解放してくれればいいのにね」
俺は遼介と小声でそんなことを話していた。
『上層部からこの研究への助成金も打ち切られてしまったので、本研究は本日を持って解散となります。』
辺りがざわつき出した。研究が終わったということはこれで帰ることができるからだ。
「それじゃ俺たちは帰ってもいいのか!」
前の方にいた少年が天野に聞いた。
『帰ってもらってもいいですが、この施設は、離島にあるから出ることはできませんよ。先ほども言った通り、船を呼ぶための助成金はすでに打ち切られています。』
「それじゃ、あんた達はどうすんだよ!あんた達も帰れないじゃないか」
『私たちは、私たちのお金で船を呼びます』
「そ、それに俺たちも乗せてくれ!」
『500人も乗せられるような船を呼んでいるわけないじゃないですか。少しは物事を考えて発言をしてもらえますか?』
「そんな、俺たちはこの島から出ることができないのか・・・」
『泳いで帰ればいいんじゃないでしょうか?私たちは止めませんよ?』
この島から一番近い島でも100kmは離れている。”聖”を使ったとしても、年端もいかない少年少女達にはこの距離を移動することは不可能に等しい。
『とはいえ、流石に可愛そうだと思いましてね。あなた達に一つだけチャンスを差し上げようと思います。そのチャンスはこの研究施設で唯一の成功例と言えなくともない作品を殺すことができたならあなた達を船に乗せて差し上げましょう。』
その場にいる全ての子供達が俺の方を一斉に振り返った。その瞬間、俺は一目散にその場を離れた。
あれから、1時間くらいたっただろうか。辺りが暗くなってきた。
この施設にいる子供達は死が近かったとはいえ人を殺したことはなかったからすぐに覚悟をできた子が少なかったからとりあえず隠れることができた。とはいえ、この島はそれほど大きくなく、見つかるのも時間の問題だろう。
「はぁ、これからどうするかな。ずっとこのままにはいかないよな・・・」
遠くでは、俺のことを探している子供達の姿がちらほらと見える。
「どうせ、俺のことを殺せても本当に船に乗せてもらえるかどうか分からないのにな」
それでも、この島を脱出するための唯一の可能性に縋るしかないのだろう。
「こっちの方にいるかもしれない。探すぞ。」
近くで、俺を探す声がする。手には、石包丁を持っていた。手作りなのか、あまり出来はよくなさそうだが、それでも人一人を殺すには足りそうだ。
「あれで俺を殺すつもりなのかよ。流石に痛そうだな。。」
石包丁を持った少年たちが通り過ぎるのを待って、俺は逆方向に駆け出した。
「いたぞ!あっちの方に走っていった!」
あれから30分くらいたったがとうとう見つかってしまった。
辺りは完全に暗くなっていたが、流石にこれだけの人の目があれば見つかって当然か
俺を追ってきているのは、は先ほどの石包丁を持っているやつを含めて、5人。全員何かしらの武器と呼べるか怪しいが武器らしきものを持っていた。
「流石にやばいかな・・・」
俺は彼らとは逆方向に駆け出していたが、あまり大袈裟に逃げてしまうと、もっとたくさんの奴らに見つかってしまいそうだ。
その時、俺が通った道のすぐ後ろの大きな木が急に倒れ、彼らの通り道が塞がれた。
「こっちだ!」
「遼介?」
木を倒した犯人?である遼介が俺の手をつかみ施設の方に駆け出してい行った。
「お前は俺を殺そうとはしないのか?」
「どうせ、あいつらは僕たちをこの島から出すつもりはないんだ。今までこの実験でやっていたことが公になってしまったら困るだろう。だから君を殺したって、僕は生きて島を出ることなんてできないよ」
遼介の手助けもあり、研究施設の内部にこっそりと侵入することができた。
「施設のみんなは君が外に逃げたと思ってここはあまり探していないみたいだよ」
「それでもいつかは、見つかるだろ」
「そうかもね。でも彼らが君を殺すのは船に乗る為だ。だから、研究員たちがみんな船に乗って島を出れば君を殺す理由がなくなるよ。それまで逃げ切れれば、なんとかなるさ。逃げ出す計画を立てるのはそれからでもいいよ」
ピンポンパンポーン
その時、急に島中に放送が流れた。
『意外と逃げ切っていますね。もうすぐ船が来てしまいますよ。そこでヒントを差し上げましょう。彼は今、施設の中に隠れています。』
「は?なんでそんなこと」
「いいから、ここから離れるよ!すぐに集まってきちゃう」
俺と遼介は施設を抜け出し、島にある灯台の方に向かった。
『施設を出て、海の方に向かいましたよ。早く追ってください。』
「くそ、どこかで監視でもしているのかよ」
「これじゃあどこに逃げてもすぐにバレちゃう」
『あ、そうそう。一つ言い忘れていたというかいう前にどっか行っちゃったから言う時間がなかったんだけど、君が船に乗るための条件は、この島にいる子供を全員殺すことだよ』