表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/1

プロローグ

稀に社会には何でも人並み以上にこなしてしまう人がいるものです。もっとも、本人にはそれが誇るべきことだと理解していない場合が多いのですが。

かく言う私は、運動も勉強も人並みに出来るつもりです。

けれど苦手な物があります。勉強で言えば数学。運動で言えば水泳。どちらも人並みどころか底辺に近いほどです。

だから私は時々思うのです。


もし全ての能力が人並みどころか最上だったら?と。


このお話はそんな僕自身の想像と非現実的な世界を掛け合わせた作品です。

俺は何でも出来る。


もちろん『何でも』と言う中には身ひとつで空を飛んだり、酸素ボンベ無しで長時間水中に潜ったりする非人間的行為は含まれない。

頭の中が腐った西瓜のような奴でない限り、俺の言うことは理解出来るだろう。

出来ない奴はさっさと著名な文学作家の本でも読んで、知能指数が上がったような自己満足意識に溺れていればいい。

俺の話を聞かせてやるのは、曲がりなりにも脳みそが詰まった頭を持つやつだけだ。

無駄話が過ぎたみたいだ。仕切り直そう。



俺は何でも出来た。

他人が出来て、俺に出来ないことはなかった。

小学校で体育の授業か何かで、縄跳びをやっていた。

クラスメートの今は名前も覚えていない誰か、確かクラスの中心的存在のやつだったと思う。

そいつが得意気に二重跳びを続けて五回やってみせた。

当時、そんなことを出来る子供は同い年のやつらにはいなかった。

当然、そいつは他のクラスメートから拍手喝采。

それを見た当時の幼い俺は、何の気なしにそいつがやった二重跳び連続五回を真似しようと思った。

すると出来てしまった。

笑ったよ。こんな簡単なことで拍手を浴びれるのかってな。

そんな俺を見てそいつは憎々しそうに顔を歪めた。後日、そいつはリベンジのつもりで練習してきたのか、十回跳んでみせた。

俺はまた、見よう見まねでやってみた。俺は出来た。そいつは悔しがった。

その後も何度も無言でリベンジしてきたが、ついには諦めた。

俺が百回跳んでみせたからだ。そいつには出来ない。俺も足が痺れるくらいにくたびれたから当然だ。

小学校時代、この時から俺の勝者としての人生は始まったのだ。

中学、高校時代も共に俺は勝者で在り続けた。


授業が格段に難しくなると周囲の大人から脅されていたから、俺も覚悟はしていた。

いざ中学に入ってみると、授業は理路整然と教師が言わんとすることを理解さえすれば、何も困難ではなかった。

後は教科書の要点にさえ目を通せば、テストなどなんの苦痛にもならなかった。


ならば部活でも、と期待を込めて入部してみた。せっかくだからと何の知識を持たない軟式のテニス部を選んだ。

入部当時はつまらない球拾いばかり。先輩達の打ち合いを見て、ルールを理解しろというご立派な建前で。

確かにルールは理解したが、実際やってみないと解らないことと差異はない。

一度、先輩たちの休憩中に先輩たちの動きを真似て、サーブを打ってみた。

球の軌道、速さともに俺の予想通りのものだった。

当然、年長者たちがそんな俺を放っておくわけもないのも道理。

生意気だなんだと文句を付け勝負を申し込んできた。もちろん指導という建前で。

俺もいささか緊張したが、大して難しいことではなかった。

サーブで片を付けるつもりだったのか、本気で球を寄越してきた。俺は記憶にある一番上手い先輩の真似をして、弾き返してやった。

まさか取られるとは思わなかったのか、相手の先輩は反応すらしなかった。その時の先輩たちのマヌケ面は、猿でさえ笑いころげるような面白さだった。

先輩は本気になって俺と勝負したが、ただの一度も俺から得点を奪うことは出来なかった。つまらない。俺はその日に退部届を提出した。

その時から今まで、俺は二度とテニスラケットを握ることはなかった。理由は簡単。飽きたからだ。だが才能というか能力というのか、俺の力を妬むやつらもいた。



何度かベタに校舎裏に呼び出されたこともあった。

そんなところでやることは一つ。集団暴行。横文字で表記するならリンチ。

大概、四,五人程度だったが、時に二桁に及ぶ時もあった。

頭脳が人よりも勝っている俺のことだ。そんな事態を予測しないハズがない。

事前に様々な格闘技のレクチャー本を読んでいた。準備に抜かりはない。後はそれを実行するだけ。

だが筋力だけはどうしようもなかった。単純に力で相手を圧倒するような格闘技は、ただ筋を痛めるだけに終わった。それでも充分に通用はしたが。

最終的に、柔道と合気道があれば筋をさほど痛めずとも、相手を圧倒することが可能だと分かった。相手の攻撃を受け流し、投げ飛ばす。

打撃を使わずとも、俺は常に勝者であった。

学生時代は他の様々な分野に置いても勝者だった。言いにくいことだが異性からもよくモテた。芸術の面でも様々な賞を受賞した。


俺を敗者にする要因は、ただの一つもなかった。

だが同時に、全てに飽きてしまった。

分かってしまったのだ。やれば出来てしまう。予想通りに物事が進んでしまう。予想通りにならないことなど、何もなかった。

全て、俺が思い描いた構図の上をなぞる鉛筆でしかなかった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ