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40. わたしの死に様を見ててね

 翌日は、昼過ぎから雨模様になった。

 天気予報は、東海地方の梅雨入りを告げていた。


 教室の外は一面灰色の空。

 少し肌寒い空気が、昨日の熱りを冷ましてくれるような気がしていた。


「環くん、わたしの死に様を見ててね」


 放課後、部室に向かう廊下で、西町さんはそう宣言した。


 冷めているのは僕だけだった。

 彼女の声は熱に満ちていた。


「西町さん、どうする気?」


 迷いなく歩を進める西町さんの背中に問う。


「くらら先輩、昨日は明らかに覚悟を決めてたよね」


「……怜先輩に告白する気、だったと思う」


 三階への階段を、西町さんは一段とばしで降りていく。


「環くん、よくあそこで割り込めたね。皮肉とかじゃなくて本気だよ。ナイスブロック。あれがなかったら全部終わってた」


 階段の踊り場で追い越し、西町さんの前に立つ。


「答えになってないよ。この後、何をする気?」


「聞かなくてもわかるよね」


 西町さんが、皮肉な笑みを浮かべる。


「フラれに行くんだよ」


 何で。


 と訊くのは違う気がして、僕は口ごもった。

 理由は、そう、聞かなくたってわかる。


 くらら先輩がその気になったら、もうおしまいだ。


 先輩たちは、自分たちの関係に名前をつけるようになる。

 彼氏彼女、恋人、おつきあい。


 今でさえ仲よしな二人が、かたちを得たらどうなるか。

 僕らは、好きな人が好きな人と幸せになる様を見せつけられ続けることになる。


 そんな苦行には耐えられない。

 ならいっそ、自分から文芸部の物語にはピリオドを打とう。

 どうせ元から三年間だけのロマンスだった。

 終わりが早くなるだけだ。


 西町さんは、きっとそんなことを考えている。


「環くん。くらら先輩は、何で文芸部の部室で告白に及んだんだと思う?」


「僕らに見せるため、かな」


 部活、先輩、片思い。

 そうしたワードで紡がれる記憶が、脳をよぎる。


「見せつけるためだよ。わたしたちがこれ以上ちょっかい出さないようにね。でも、くらら先輩にとってわたしたちへの牽制はおまけでしかない。部室で事に及ばなくたって、怜先輩への告白はいつだってできる。デッド・エンドは時間の問題。だったら最期に一花咲かせるくらいはいいでしょう」


「それは……」


 西町さんを止める言葉を、もはや僕は持っていない。

 その様子を見るや、西町さんは再び階段を降りていった。


 せめてもの足掻きに、彼女の背を追う。

 大股で歩いていく西町さんが、とうとう部室のドアに手をかける。


「怜先輩!」


 悲痛な叫びとともに、西町さんがドアを開ける。


 追いつき、彼女の脇から部屋の中を伺う。


 部室には、くらら先輩しかいなかった。

 先輩は、ぽかんと口を開け西町さんを見ている。


「……お邪魔しました」


 西町さんはしずしずと両手でドアを閉め、そして駆けだした。

 あっという間に階段へと消えていく。


 流石にそのまま僕まで立ち去るわけにもいかないので、再びドアを開ける。


「えっと、お騒がせしました。西町さん、何か急ぎの用事があるとかで」


 もう何を言ってよいものかサッパリだったので、口から出任せで言い訳を繕う。


 怜先輩に急ぎの用事があったのか、急ぎの用事があったから急いで立ち去ったのか。

 追及されたらどうしようかと思ったけれど、くらら先輩は「そっか」と流してくれた。


 先輩の口許には、微笑みに見えるような歪みが浮かんでいる。

 しかし目は一切笑っていない。


 多分、くらら先輩は察している。

 西町さんが何をしようとしていたのかを。


「……僕も今日はサッカー部の買いものがあるので、これで失礼します」


 一息にそう言い切って、ペコペコしながらドアを閉める。

 これ以上この空間に身を置くことは、もうできなかった。



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