25. 即既読イコール即死
「あ、しまった」
金曜の夜、自室での読書タイム。
ふと気づいた。
体育館シューズを学校に置いてきてしまっていることに。
文芸部での打ちあわせの結果、日曜は市立中央図書館と体育館にお出かけすることになった。
どちらも市営で場所が近い。図書館は怜先輩の、体育館はくらら先輩の希望だ。
体育館ではバドミントンをすることになった。
市営体育館ではラケット、羽根、ネットをレンタルできるが、シューズだけは持参する必要がある。
うちから市立体育館に向かうときには、ちょうど遠衛の前を通る。
日曜の集合前に学校に寄れば体育館シューズは回収できる。
だが日曜に学校は開いてるのだろうか。
明日のうちに学校まで取りに行ったほうがいいかもしれない。
でもさすがに面倒だ。
そういえば西町さんはどうしただろう。
ちゃんと持ち帰ったのかな。
そんなことを考えながらLINEのトーク画面を開く。
西町さんと連絡先を交換したのは文芸部に入部してすぐ、まだ西町さんの素顔を知らなかったころだ。
くらら先輩に促されてのことだったが、西町さんが嫌そうな顔をしていたのはよく覚えている。
以後、メッセージのやりとりはまだ一度もしたことがない。
トーク画面を開いたところで指が止まる。
特別な意味なんてないんだから、さっさと連絡すればいい。
そうわかってはいても、最初の一回はどうしてもハードルが高くなる。
と、そうこうしているうちにポコン、とメッセージが湧いて出た。
西町さんからのメッセージだった。
ちょうど開いていたので即既読になってしまった。
西町英梨:バドってどんな格好すればいいかな? スコートのほうがかわいい?』
そんなメッセージの直後にスタンプ。
謎のうさぎ風生物が『?』と首をかしげている。
内容を見てちょっとだけ気が抜けた。
西町さんは、怜先輩にどう見られるかしか気にしていない。
初めてのメッセージも、即既読も気にすることなんてない。
何しろ相手は西町さんだ。
もしこれがくらら先輩だったら、即既読イコール即死だった。
『え、環くんメッセージのやりとり一度もしたことがないのに何でトーク画面開いてたの?』なんて思われたら死。
西町さんだったら別にいい。
『もしかして環くんわたしのこと好き?』なんて考えはしない人だから。
口に出してイジってはくるけれど、本気で勘違いはしない。
だって西町さんは、僕が誰に片思いをしているか知っている。
前島環 :変にあざといのはどうかな
前島環 :目いっぱいスポーツ楽しむ素直な後輩スタイルがいいんじゃない?
前島環 :怜先輩、やる気に応えてくれる人だと思う
西町英梨:天才なの?
メッセージ送信の直後、コンマ数秒で西町さんは返信を返してきた。
西町英梨:ところで
西町英梨:たまきくんも
西町英梨:連絡とろうとしてた?
西町英梨:なんかよう?
西町英梨:なにしてた?
そして雨あられのように追撃が来る。とにかく打つのが速い!
前島環 :うつのはやいちょっとまって
と、急いで返信。変換している暇もない。
西町英梨:(謎のうさぎ風生物がドヤるスタンプ)
西町英梨:ピアノやってたから
西町英梨:はやびきとくい
西町英梨:だうよ
前島環 :へんな音でてるよ
と返信したところで、急に通話がかかってきた。
『もしもし。打つの面倒になったからかけちゃった。環くんのほうも何か用があった?』
「日曜の体育館ってシューズ持参でしょ? 僕、学校にシューズ忘れてきちゃってさ。西町さんはどうしたか聞こうと思って」
『わたしは自分のサルシュ持ってくつもりだよ。履き慣れてるし』
「フットサル・シューズか。そりゃ持ってるよね」
フットサルは屋内のコートで行うスポーツだ。
スパイクやトレーニング・シューズとは違い、シューズのソールはラバーになっている。
要はゴム底だ。ショップでも見たことがある。
「この際だから僕も買っとこうかな。そのうち屋内コートでもやるかもしれないし」
『お街のショップに行くの? こないだのお店』
「イオンでいいかな。近いし」
『郊外のイオンって本当に大きいの? うちの近くにはなかったんだよね』
「市野のイオンだったら、一つの街がスッポリ入ってる感じだよ」
僕の譬えに、西町さんは『へえ』とか『いいなあ』とかいった反応を示した。
遊びに誘ってほしがっている小学生みたいな声音だった。
もし目の前に西町さんがいたら、わざとらしく『チラッ』とか口で言いながらこちらを覗き見したに違いない。
「西町さんも、何か買いたいものある?」
『わたし? うーん……。あ、本屋さん。怜先輩が読んでた本、買いたいかも』
ということで、明日土曜日は二人でイオンに買いものへ行くことになった。




