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18. どこからどう見ても恋人同士だったよ

 先輩たちとは、ザザシティの前でお別れした。


 途中まで帰る方向は同じはずだけど、今日はもう十分にくらら先輩成分を補給した。

 というかもう供給過多。

 「サッカーに関する買い物があるから」と、三人には別れを告げた。


 嘘じゃない。

 せっかくお街まで来たし、フットサルのボールを買おうと思っている。

 厳密にいえばサッカーではないけれど、まあ似た競技ということで。


 さよならをして歩きだした直後、「じゃあわたしも」と西町さんが追いかけてきた。


「よかったの? もうちょっと怜先輩といられたのに」


 並びかけてきた西町さんに問いかける。


「そういう環くんこそ、何で一人になろうとしたの?」


 僕と西町さんはお互い疑問符を投げつけあったが、二人とも回答はしなかった。

 わざわざ口にしなくても、理由はわかっていたからだ。


「環くん、くらら先輩と二人きりで幸せそうだったね」


「西町さんこそ、戻ってきたとき顔が上気してたよ。積極攻勢はできた?」


「怜先輩、沢山しゃべってくれたよ。わたし、『そうですね』『そうなんですか』しか言ってないのに、気を遣ってくれて」


「わかる」


「先輩優しすぎ。好き以外の感情が行方不明」


「わかる」


「でも怜先輩が話すのって、くらら先輩のことばっかりで」


「わかる」


 西町さんと二人、自転車を押して歩く。

 街なかは車が多くて車道は怖いし、歩道は歩道で人が多いので、自転車移動には向いていない。


 道中、西町さんには怜先輩の話をした。

 小説を書いていること。

 才能を認められていること。

 放っておくとずっと机にかじりついていること。

 そして、くらら先輩は人間観察と人生経験のため怜先輩を外に連れ出そうとしていること。


「怜先輩、大正の文学青年なの? 尊い」


 と、西町さんは神を称えるように天を仰いだ。


 ちなみに西町さんは怜先輩から何冊か本をオススメされたらしい。

 カフェに行く前、そのうちの一冊を買ったんだとか。


「二人でレジに並ぶわたしと怜先輩。どこからどう見ても恋人同士だったよ」


「妄想は心にしまっておいたほうがいいよ」


 ザザシティから鍛冶町(かじまち)大通りを東へ進み、有楽街(ゆうらくがい)へと入る。

 有楽街は飲食店やカラオケ、ゲームセンターなんかが立ち並ぶ繁華街だ。

 居酒屋なんかの大人のお店も多いらしい。


「もしかして環くん、お買いものって本当だったの?」


「嘘なんてつかないよ。西町さんじゃあるまいし」


「てっきり逃げるための言い訳なのかと」


「フットサルのボールを買おうと思ってさ」


「へえ。サルも始めるの?」


 西町さんが興味を示す。

 そうだった。忘れがちだけど、彼女は中学でフットサルをやっていたという。

 いわば先輩だ。


「今週末フットサルの大会に出るんだよ。ほら、部活がないからさ。運動不足だし、試合勘がなくなるからってコーイチが……えっと、同中の仲間がやる気満々で」


「大会って、一般参加のスービギ?」


「そう。流石、詳しいね」


 僕たちが出場登録しているのは、大学生や大人も出場する一般参加の大会だ。

 西町さんのいうスービギとは、スーパービギナーのこと。

 一般参加の大会ではオープン、ビギナー、スーパービギナーといった具合にレベルが分けられている。


「フットサルのボールって、サッカーとは違うんでしょ?」


「うん。四号球だね。一回り小さいボール。あと跳ね方も違うかな」


「やっぱり結構違うんだ。ぶっつけ本番はキツいから、予めなれておきたくてさ。それでマイボールを買っておこうってわけ」


 有楽街の一角に、サッカー・グッズの専門店がある。

 ボールやスパイク、レプリカのユニフォームはもちろん、練習用のビブスやコーン、ラダーなんかの小物も取り扱っている。

 代表の青いユニフォームが並んだり、試合の映像が流されているようなおしゃれなチェーン店とは違う。

 昔ながらのお店だけど、浜松でボールを蹴っている人間なら一度は来たことがあると思う。


 西町さんはフットサルのプレーヤでサッカー好きとはいうけれど、マニアックなお店で退屈しやしないかと正直少し心配していた。


「これホンダのレプリカだよね? すごい! さすが地元。こんなマニアックなの売ってるなんて!」


 でもそんなのは杞憂だった。

 西町さんは、JFLに所属する実業団のユニフォームにいち早く気づき、かけ寄って大興奮していた。


 浜松に本拠をおくホンダFC。

 Jリーグ未所属ではあるが、しばしば天皇杯でジャイアント・キリングを起こすから、サッカーファンの間で知られた存在ではある。


 とはいえだ。

 そんなにテンションあがる?

 まるで前からよく知ってたみたいな。


「ホンダは何度か見たことあるよ。東京武蔵野(むさしの)シティFCってあるでしょ? 昔の横河(よこがわ)電機。そのホームがうちの近くにあって、練習とか試合とか見に行ってたの。同じJFLだから、ホンダも年に一回はこっちに来るんだよ」


「そういえば地元のサッカー選手をストーキングしてたって言ってたね」


「可愛い女子中学生の追っかけを犯罪みたいに言わないで」


 西町さんと店内を回る。

 西町さんは物珍しそうにスパイクを触っていた。

 フットサルのコートは基本的に屋内で、シューズはバスケット・シューズのように滑らないゴム底になっているらしい。

 屋外の人工芝コートもあるけれど、スパイクは使わないそうだ。


 サッカーとフットサル談義に花を咲かせながら店内を巡り、フットサルのコーナーでボールを発見。

 早速レジに持っていく。もちろん領収証をもらうのを忘れずに。

 ボールは皆の割り勘で買うことにしている。

 領収証がないとお母さんもとい希恵ちゃんに怒られる。


「おまたせ。悪いけどこれ手に持ってくれる?」


 待ってもらっていた西町さんと合流し、ボールを手わたす。


「わざわざ写真撮るの? そんなに映えるデザインでもないと思うけど」


「『いいね』がほしいわけじゃなくてね。みんなに買ったって連絡するんだよ。早く連絡しとかないと、他にも誰か買っちゃうかもしれないから」


 ボールを撮影し、カミチュー仲間のLINEグループに投稿。

 『ボール買ったよ』とメッセージを添えて。


「環くん、もしかしていまの送っちゃった?」


 送信した直後、ボールを持っていた西町さんが慌てた声音で訊いてくる。


 と、入口のほうから聞き慣れた声がした。


「お、環がボール買ったってよ」


 聞き間違える余地もない。

 その大声はコーイチのものだ。

 普通の人間はそんな腹式呼吸で会話しない。


「本当だね。ん? この床、どこかで見たような……」


「つかこの手、たまきちのじゃないら。ネイルきれいすぎだに」


 棚の向こうから、希恵ちゃんと麻利衣の声も聞こえてくる。


 あ、と口にする間もなく、棚の向こうからコーイチの巨体が姿を現した。


「あれ、環? おまえも来てたのか」


 右手を「よ」と挙げたコーイチは、そこで動きを止めた。


「環くんと……西町さん?」


「マジじゃん! がーんこだなやー」


 ガタイのいいコーイチの両脇から、女子二人が顔をのそかせる。

 目を泳がせる希恵ちゃん。

 やらしい笑みを浮かべる麻里衣。


 希恵ちゃんが困惑するのも、麻利衣がニヤけるのも無理はない。

 実は今日、希恵ちゃんたちからは『お街に買いものに行かないか』と誘われていた。

 『文芸部があるから』と誘いを断った僕が、サッカーショップにいるのだから、当然の反応だろう。


 しかもクラスメイトの女子と二人連れじゃなおさらだ。

 かてて加えて、そのお相手が西町さんときている。

 クラスでは人を寄せつけない高嶺の花のお嬢さま。

 そのうえ、文芸部でもうまくいっていないと希恵ちゃんや麻里衣には相談までしてしまった。


 何がどうなって、部活中のはずの僕と西町さんが二人きりでお街にいるのか。

 きっといま、三人の頭のなかでは疑問と想像が駆けめぐっている。


 嫌な予感がする。

 三人は間違った答えを出すかもしれない。

 僕と西町さんが隠れてお出かけする仲だとか、そんな答えを。



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