3-24 最近うちに不法侵入しそのまま不法滞在している超絶美人縦セタ巨乳未亡人風お姉さん
最近うちに不法侵入しそのまま不法滞在している超絶美人縦セタ巨乳未亡人風お姉さんは、最近うちに不法侵入しそのまま不法滞在している超絶美人縦セタ巨乳未亡人風お姉さんである。便宜上、静子と呼ぼう。
静子は、父と二人暮らしの我が家に、夏休みになって急に現れた異物である。都合の悪いことに、父のいる間はどこかに隠れてしまうから、父に相談しても解決にならない。
悩みに悩んだ俺は,親友の迫を呼び出し協力を求めた。俺たちは平穏な夏休みをかけて、静子を一刻も早く追い出さなければならないのだ。
「おい、聞いてないぞ!」
迫は俺の部屋に入るなり、大きな声で迫ってきた。名が体を表している。
「急にどうした。落ち着けよ」
「これが落ち着いていられるか。お前、姉妹はいないんだよな?!」
「あぁ」
「お母さんとも死に別れたって言ってたよな!」
「デリカシーがないなお前は」
一体、どうしたというのだろう。
迫は無二の親友である。何せ、一緒にうんこを踏んだ仲だ。高校の入学式の日、学校へ続く道へ点々と続いていた畜生の野グソを同時に踏んで以来の仲だ。うんこの踏み甲斐もあったというもので、今ではどんな恥をも語り合える関係を築いている。
けれども、それは相手のうんこまで無遠慮に踏みに来るような、配慮のなさには繋がらなかったというのに。
「もしや、あれのせいか」
「もしやもクソもないだろ!」
迫は食い気味にかぶせてくる。そうか、やはりあれか。
俺は鷹揚にうなずいて見せた。俺は寛容な男である。迫も男子高校生なのだから、当然の反応なのだろう。
息切れしたらしい迫をなだめ、落ち着かせる。
「お待たせー」
その間に、最近うちに不法侵入しそのまま不法滞在している超絶美人縦セタ巨乳未亡人風お姉さんが麦茶をお盆にのせてやってきた。俺は礼を言ってそれを受け取ると、迫を勉強机の椅子に座らせ茶を勧める。俺は自分のベッドに腰かけ、茶をすすった。
「それじゃあ、ごゆっくり」
最近うちに不法侵入しそのまま不法滞在している超絶美人縦セタ巨乳未亡人風お姉さんはお盆を回収すると、静々と部屋を後にする。色香とでもいうものが、後を引いているようだった。迫はその後姿を目で追って、茶をすすった。ずずっ、ずずずっ。
「どうだ、落ち着いたか」
「……あぁ、やっと現実を飲み込んだよ」
迫がことりと麦茶のグラスを置く。冷静さを取り戻した瞳で俺を見据えた。
「で、あの人だれ?」
「あぁ、あれはな」
迫の動揺の原因は、やはりあれだったようだ。
「最近うちに不法侵入しそのまま不法滞在している超絶美人縦セタ巨乳未亡人風お姉さんだ」
「いやわかんねぇよ」
◇◆◇
最近うちに不法侵入しそのまま不法滞在している超絶美人縦セタ巨乳未亡人風お姉さん。少し呼びにくい名前であるので、俺は彼女に静子という名前を与えようと思う。
静子は梅雨明けのじっとりとしたかび臭さとともに現れた。
うちは外から見れば普通の一軒家だ。狭い土地を有効活用するため、とりあえず二階建て。住宅街の隙間にすっぽりとはまっている。
それでも、父と二人で過ごすとなれば広々としたものだった。夏休みも始まり、父のいない昼間などはむしろ、寒々しくすら感じるかもしれない。それはそれで、むしろちょうどいいかとあくびを嚙み殺す、夏休み初日の昼下がりだった。
「おはよう。おひるごはん何にする?」
リビングに入った俺に、当たり前のように挨拶。キッチンでエプロンを身に着けた静子が、そこにいた。
彼女は超絶美人だった。お前はミス東大に行け。
彼女は縦セタを着ていた。夏だぞ、正気か。
彼女は巨乳だった。あくまで客観的事実として。
彼女は未亡人のような風味を出していた。泣きぼくろ。
彼女はお姉さんだった。シルエットが女性そのものである。
情報量の洪水。
「すみません。家を間違えてしまったようです」
俺は即座にリビングのドアを閉めた。見知らぬ人がキッチンにいて、当たり前のような顔をしてそこにいるのなら、それはもう他人の家であるはずなのだ。
しかし、不可思議かな。俺はパジャマを着ているのだ。中学生のころからずっと着古した、襟元だるだるの一着。わが一張羅とは言えども、これで外出する恥はわきまえている。
ならば、俺は家を出ていないはずで……?
首をひねるついでに、もう一度ドアノブをひねって開けてみた。
「ぬわっ」
その先に巨乳がある。
「もう。返事ぐらいしなきゃだめでしょ~? 聞いてるんだから」
いつの間にかドアの前にやってきていた静子が、俺の脳天に手刀を落とす。柔らかな衝撃がぽすんと跳ねた。
「ほら、何にするの」
「何でも、お任せします」
「しますって、かしこまっちゃって」
別に痛くなどなかったのだが、すっかり負けた気分になってしまった。くすりとほほ笑んだ静子に続いてリビングに入り、食卓に着く。四人でもかけれそうな四角い食卓には、けれども椅子が二つのみ。机には、小さいころに俺が彫刻刀で彫り込んだ『天上天下唯我独尊』の文字がある。我が家だ。
静子の炊事の音を聞きながら、俺はさらにリビングを見回してみるのだが。この前買い替えたばかりの大型テレビも、父の趣味であるサッカーグッズの祭壇も、そして、コルクボードに張られた家族写真も。すべては俺の家のものであった。
ただ一つの異物。静子。母の面影があればまだ、母の霊がお盆に先駆けて帰ってきたのかとも思えるのだが、実際に写真と見比べてみても面影はない。父は清楚系が好きだったのだ。けして未亡人趣味ではない。
「はい。お待たせ」
そんなこんなしているうちに、食事が出来上がったようである。
運ばれてきたのは、なんてことはない和風の昼食だ。きれいな焼き目のついた鮭はじゅうじゅうと脂を香らせ、添えられたブロッコリーとミニトマトが現代らしい。ほかほかと湯気を立てる白米とみそ汁はすきっ腹には毒だった。冷凍食品で適当に済まそうと思っていた分、手はするりと箸に伸びてしまう。
「いただきます」
「はいどうぞ」
向かいに座った静子に、頬杖越しでにこにこと見守られながら、俺は箸を焼き鮭に向けた。切り身の腹にある太い骨を箸で外すと、みずみずしい身が顔を出す。そのまま身をするっとほぐして、口に運んだ。
うまい。鮭のもつ旨味と少しきつめの塩味が素晴らしい。たまらず白米の椀を左手に、米をかきこむ。
「そんなに美味しかった?」
俺は静子の言葉にうなずきで返事をして、とにかく食事をかきこんだ。俺は人間火力発電所だったのだ。
ちょっと口がしょっぱくなってきたところで、みそ汁を一口。しみわたる。
「それにしても」
「どうかした?」
食べてばかりの俺は、そこではたと気づいた。
「あなたは食べないのか?」
静子は俺の食事を眺めるばかりで、何も食べる様子がないのである。
「お姉さん? お姉さんは食べないわよ」
「あれか。おいしそうに食べているのを見たらお腹一杯ということか」
「そうだったらいいけれど。それも違うかなぁ」
余裕を見せて受け答えする静子に、俺は警戒心を解いている己を自覚した。食事の力とはかくもすさまじいものか。胃袋を掴むとはよく言ったものだ。
しかし、父のいない今、俺は留守の番である。この家を守らねばならない。会話を通じて、正体を探ってみよう。お昼を食べながら。
そんな決意を箸先に宿し、鮭をあらためてほぐしにかかった矢先。静子はぴんと指を立てて見せた。
「ほら、お姉さん勝手にこの家に上がり込んでる立場だから。そのうえ勝手にものを食べるのは違うかなって」
「……おっしゃる通りで」
「ね? だから、一人で気にせず食べてね」
俺はそれきり、食事に集中した。食べ終わると自室に戻り、ひたすら読書に耽った。途中でお菓子の差し入れがあった。せんべいだったので、ばりぼりとむさぼった。
不審者が不審者だと自白するのは、存外に恐ろしいものである。読書をしてはいたが目は字面の上をすべるばかりだった。
空虚に焦るばかりの俺は、一つの可能性にすべてをかけていた。あれは、父が雇ってくれた家政婦なのである。家に一人になってしまう俺を見かねて、父が気をまわしてくれた結果なのである。父の優しさなのである。
だがそれでは、縦セタである説明がつかない。今は夏だ。一般的な家政婦はわざわざ縦セタを着ないだろう。冬だって着ないだろう。
それでも俺はすがる気持ちで、父が帰るなり出迎えに走った。すでに家の中に静子の気配や痕跡はなく、父に家政婦の存在を尋ねても、そんなものは知らないと首を振るばかりだった。
◇◆◇
「そしてその後も、父がいない間は我が家には静子がいるのだ」
「いるのだ、じゃねぇよ。普通に怪談だよ」
「怪談ではない。現にお前が観測した。やったな。これでリアルだと証明された」
「やったー、とはなれねぇよ……」
迫は俺の状況説明を受け、五厘刈りの頭を抱えた。甲子園で負けた野球部員のようだが、彼は現役の野球部なのであまり褒められた冗談ではない。
こんこんと、ドアがノックされる。静子からのマフィンの差し入れだった。出来立てだ。
静子から必死に目をそらしていた迫の前に、皿を置いてやる。ついでに一言添えた。
「ちなみに、うちにオーブンはない」
「余計怖くなることを言うな!」
皿を反射的に払おうとする迫を、寸前で止める。お互いに一息つく。俺は毒見のつもりで、マフィンをひとかじり。「うまいぞ」と言うと、げんなりされた。
「……それで、俺を呼んだのはなんでだ?」
「そんなこと決まっているだろう。静子を追い出すのだ」
「そんな順応してるくせに?」
「考えてもみろ。家に知らない人がいると気持ち悪いだろう」
「考えなくてもな」
マフィンをかじりながら話していると、ようやく迫も諦めがついたのか、マフィンに口をつける。
「でも、俺なにもできないぞ?」
「何を言っている。お前は今日、何を持ってきた」
「え、何って、バットだけど……」
「それで脳天をカチ割れ」
「怪談から事件になるわ!」





