彼女の場合。
『何でか言ってくれたら大人しく一緒に行く』
「アナタの本当のご両親がお待ちなんです」
『何処で』
「王都です」
『王都の何処』
「それは」
『言わないなら絶対に協力しない』
「城でお待ちになっております」
『私がお姫様だとでも?』
「はい」
『無理、絶対に嫌』
「ですが」
『私は今まで貧民街に居た、それこそ薬を売るか体を売るかしないと生きられない様な場所で、それで王女様になるなんて無理。私の為を思うなら、何とか向こうを諦めさせてよ』
私はアッシュを見た瞬間、前世の記憶を取り戻した。
彼の忠誠心を疑い、お父様から敢えて苦言を呈してくれるアッシュを誤解するな、と。
だから私は、嫁ぎ先で苦言を呈する者の言う事を良く聞いた。
王女として、お姫様として、妻として。
そして死んだ。
「アナタを守るた」
『アナタが守ってくれるって言うの?』
「俺達が守ります、彼はクロウ、俺はアッシュ」
『でも、どうせ』
いえ、最初に私が彼を拒絶した、私から離れる様にと言った。
あんな思ってもいない事を言わず、もっと素直に言えていたら。
あんな奴、あんな奴に嫁がなければ。
アッシュは、彼は私の事を考えて苦言を呈してくれていた。
けどアイツは、アイツだけは許せない。
「もし俺達が信用ならないなら」
『いえ、でも条件が有る』
アッシュが前に婚約者候補を排除してくれていた、でも彼が離れたから、私はあんな奴に。
いえ、あの男には外聞も何も表面上の問題は無かった。
だからこそアッシュも見逃したのかも知れない。
先ずはアッシュが排除した者から、ココでも排除すべき。
少なくとも、私は本当に王女なのだから。
『何て利発な子なのかしら』
《相当に苦労しての事なのだろう、すまない》
『いえ、良いの、もう良いの、やっと会えたんですもの』
悪しき貴族に奪われ、今まで行方不明だった娘の顔を、やっと見る事が出来た。
体の痣に歌声、そして容姿も、何もかもが王家王族だと指し示している。
それに更には、利発さまで。
《だが、王女としては生きられない、と、残念だ》
『その利発さこそ相応しいとも思うのだけれど』
貴族の娘として、侍女としてなら王宮へ上がる。
でなければ一切協力は出来無い、と。
「強引さが仇となったのかも知れません、申し訳御座いません」
《いや、利発な子なんだ、コチラが素直に身分を明かしても難しかっただろう。気に病むなアッシュ》
「ですが」
《いや、こうして会えるだけでも十分なのかも知れない。だと言うのに、王女の責務まで追わせるのは、あまりに欲張りなのかも知れない》
『そうね、なんせ会って話せるんですもの』
《あぁ、そうだな》
王女の国葬が執り行われ、私はアッシュの家の養子になった。
代々騎士として活躍し、近衛兵にまでなれたアッシュの妹に。
どれだけ厳しい躾けが待っているのかと、そう少しだけ心配していたのだけれど。
全然、厳しく無い。
ただ、冷たい。
以前のアッシュとは全く違う、何処かで優しさを信じられた様な行動も、言葉も無い。
『あの、お兄様』
「はい、何か」
いつまでも私は王女様扱いのまま、確かに養子の妹だけれど。
『字の練習も兼ねて手紙を書いたのだけれど』
「拝読させて頂きます」
『ええ、お願い』
「俺が同じ年の時は、この位でした、見本にどうぞ」
『そう、ありがとう』
前は、こんなにも他人行儀だっただろうか。
「後は、何か」
『いえ、ありがとう』
「いえ」
どうしてこんなにも胸が痛むのだろう。
彼は騎士で近衛兵で兄、私は妹で王族。
コレが当たり前の筈なのに、どうしてこんなにも淋しいのだろう。
《あぁ、アッシュは昔からあんな感じなんですよ。冷血冷徹鉄仮面、情が無いと思って下さって構いませんよ、お気になさらず》
『その、私が嫌われてるワケじゃ』
《とんでもない、誰にでもあんな感じで、ですがもしご不満でしたら改善させますが》
『いえ、良いの、少し気になっただけだから』
《良いんですよマリー様、遠慮なさらずご不満を言って頂いて、ご家族でも有るんですから》
『いえ良いの、今で十分だわ』
マリー様は出会った時から賢い方で、思い遣りが有る。
だからこそ、あの無愛想なアッシュには一応注意しなければ。
あぁ、なら王妃様達に少し相談すべきでしょうね、滅多な事では会えないんですし。
『そう、あの子がそんな事を』
アッシュの代わりに近衛兵長になったクロウから、娘がアッシュの冷たさに傷付いている、と。
《だがアッシュは前からアレだ、どう伝えるべきか》
娘は、マリーは賢い子だが、まだ8才。
何かしら欠けているとは思うが、難しいか、あのアッシュの良さを理解するには時間が掛かるだろう。
『愛想も情も無い代わりに、良く仕事が出来る子、なのだけれど。でも、私達からアッシュに言うのは、少し事が大き過ぎないかしら?』
《そこで、です、お会いする理由になるかと》
《あぁ、クロウ、成程な》
『是非お願い、ね?』
《あぁ、頼んだ》
《はい》
私達の賢い娘は、貧民街で育った者に王女の荷は重い、そう言って貴族の娘となる事を提案して来た。
恨みを買い、私達を罰する為なのか、と。
だが私達を恨み拒絶する事も無く、いつか王宮に上がる為に、と努力をしてくれている。
そして、努力は実り。
『王様、王妃様にご挨拶申し上げます』
『まぁ、凄く上手な挨拶よ、本当に』
《家の教育が良いのだろう、さ、面を上げコチラへ》
『はい』
どうしてこんなにも良い子なのだろうか。
どうして、こんな子を利用しようなどと。
いや、あの時はそうする他に手は無かった。
長引けば更に王宮へと敵の手勢が増え、果ては国を揺るがす事態となっていた。
だが。
《本当に、すまなかった》
『アナタ』
『いえ、事情は伺いました、仕方無かったと分かってますから』
《だとしても、だからこそ、本当にすまなかった》
アッシュに見付け出して貰えなければ、私は。
『私は元気にしております、どうか気に病まないで下さい』
《あぁマリー、本当にすまなかった》
多分、私だけ前世の記憶が有るのかも知れない。
お父様もお母様も、それこそクロウも相変わらず。
いえ、そうなるとアッシュがあまりにも違い過ぎる。
もしかして、以前の彼こそ、前世の記憶が。
そうなると、確かに全ての辻褄が合う。
クロウの婚約者を排除せず、私の婚約者までも特に調べる事も。
いえ、寧ろ私が王女では無くなってしまったから?
王女では無い私には、価値を見出だせない?
だから?
だから前の様に注意すらしてくれないの?
『アッシュ、どうして注意してくれないの?』
「何の為か分かりませんが、ワザとしてらっしゃる事は見抜けますから。俺が頼りないなら、信用出来無いと仰るなら、無理に関わって頂く必要は」
どうしてマリー様は泣いてらっしゃるんだろうか。
俺はただ、近衛兵であり兄としては注意はした、そして時には見過ごす事も必要だと思い。
《アッシュ、ちょっと来て下さい》
「だがマリー様が」
《良いから来て下さい》
『良いの、行って頂戴』
「すみませんが、失礼致します」
一体、何をクロウは怒っているんだろうか。
《アッシュ、何故僕が怒っているか、分かりませんか》
「あぁ、全く分からない」
《兄妹だとしても、冷た過ぎるからですよ》
「だが俺には元々弟も妹も居なかった、一体、どうしろと」
《もう少し情を持って下さい》
「具体的に頼む」
《笑い掛けたりだとか甘やかすだとか》
「それは婚約者にする事だろう」
《そこまででは無くて、少し別に、もう少し砕けたりだとか……》
あぁ、そう言えば前にも似た様な説教を受けたな。
相手は確かクロウで、そう注意された原因は、マリー様だった気が。
「すまん、前にもこうして説教をさせたな」
《何の事です?》
「いや、前にも似た事をお前に言わせてしまっただろう」
《いえ、王と王妃からのお話で十分だろうと、僕は何も言った覚えは有りませんが》
「そう、だったか?」
《勘違いだとしても、いえ、僕は何処で説教しましたか?》
「その時は、確か、王宮だった気が」
《覚えが全く無いのですが、もし僕の苦言がお説教だと》
「いや、前にも同じ様な事を言われた気がしただけなんだ、本当に」
《お疲れですか》
「あぁ、そうらしい」
《珍しいですね、記憶違いも滅多に起こさないのに》
「あぁ、俺もそう思う」
《あ、もしかして夢で僕が説教した、とか。罪悪感ですかね》
「いや悪いとは全く思って、無かったが、もう少し、改めようとは思う」
《協力しますから、もう少し優しく接してあげて下さい》
「分かった」
私が泣いたせいで、アッシュの態度が変わってしまった。
こんなの、私は望んで無い。
嫌だ、前みたいで。
前?
前世でのアッシュは優しいけれど、冷たくて、こんな媚びた様な態度なんて無かった筈。
でも、前と比べて全く違う、違い過ぎる。
その前。
その前?
もしかして、私は何度も転生してる?
何故?どうして。
どうしてアッシュだけ、こんなにも前と違うの。
「マリー」
『違うの、お願いアッシュ、そうじゃないの、お願い、前に戻って』
前に戻って欲しいと懇願され、俺は前世を思い出した。
ただ、どうしてマリー様が泣いているのかが分からない。
俺を断頭台に掛ける程、憎悪を持っていた筈なのに。
憎悪も無い、情愛を浮かべた眼差しを。
いや、俺の表面的な優しさに気付き、再び断罪を行おうとしているんだろうか。
「すみませんでした」
こんなにもマリー様を揺さぶってしまう俺は、傍に居てはいけない。
前世でも俺は誤解させてしまい、殺されたのだろう。
だからこそ、俺は逃げるしか無い。
あんなにも意味の分からない断罪を避ける為、理不尽と不条理を避ける為。
《どうして辺境なんですか》
「俺は居ない方が良い、きっとその方が良いんだ」
《だからどうしてそうなるんですか》
「俺の事以外、マリー様は狼狽える事は無い。俺は困らせたくない、憂い無く幸せになって欲しいんだ」
《だからって》
「俺が傍に居て出来る事は何も無い筈だ、後はお前に頼んだ、クロウ」
出来る事は。
ぁあ、処刑の際に立ち会っていた者達の内偵か。
《分かりました》
「あぁ、頼んだ」
これで悲しませる事も、憤りを感じさせる事も無い、筈。
正しい判断の筈が、どうして不安なのだろうか。
いや、きっと大臣達の事を調べれば落ち着く筈だ、きっと。
《すまんな、まさかマリーを利用しようとする者がこんなにも居たとは》
「いえ」
《はぁ》
「更に調べてみるつもりですが、どういたしましょうか」
《すまないが、頼んだ》
私達が目を掛けてしまったせいで、マリーを利用しようとする者が多く蔓延ってしまっていた。
そして未だに亡くなった身代わりの王女を慕う者まで、半ばマリーを排除しようと動いていた。
娘を忘れさせない為に、などとほざき、マリーを消そうと。
全く嘆かわしい、あの亡くなった王女は偽者、マリーこそ本物の娘だと言うのに。
《マリーの考え次第だが、王都から離すべきかも知れないな》
『そうね、私達の我儘で不幸にさせたくないの、話してみてくれないかしら』
「分かりました」
アッシュに名を言われた者に、覚えが有った。
そう、前の前、最初の。
いえ、最初かどうかは分からないけれど。
そう、前にアッシュが排除してくれた相手、私を淫乱と謗った男の父親も排除すべき者だったのね。
やっぱりアッシュには記憶が有った、前も、その前も。
けれど、どうして今は記憶が無いの。
どうして。
それとも、やっぱり私は嫌われているのかしら。
それは嫌だ。
何故、嫌なの?
どうして。
何故。
『アッシュ』
「マリー様、何か」
ぁあ、この瞳に憧れていた。
その瞳に私を写して欲しかった、温かく、優しく。
柔らかく微笑んで欲しかった。
まるで王子様のように。
そう、アッシュは私の王子様。
そして私はお姫様。
私のアッシュ。
アッシュが好き。
『アッシュ、私の王子様になって』
マリー様の言葉で、更に前世を思い出した。
骨と皮だけになりながらも、俺を王子様なのだと言ったマリー様を、思い出してしまった。
また失敗した、俺が思い出す時期が遅れ、傍に居たばかりに。
「年の差もですが、アナタと俺は兄妹」
『更に養子縁組すれば良い、クロウの妹になる、だから』
「俺とアナタは長く一緒に居過ぎてしまった、それはきっと単なる憧れです、賢いアナタに俺は」
『そんなっ』
《失礼、しても大丈夫、じゃなさそうですが》
『クロウ、私はアッシュが好きなの』
「クロウ、マリー様はお疲れらしい、休ませてあげてくれ」
『そんなっ、違う』
「すまないクロウ」
『待ってアッシュ』
《マリー様、落ち着いて下さい》
『クロウ、ねえお願い!アッシュを何処にもやらないで!』
どうして、こうなってしまったんだろうか。
前は首を落とされ、次は慕われ、今も。
どの道、俺では分不相応。
それに例えマリー様に前世の記憶が有ったとしても、またきっと誤解が生まれ、俺は断罪される筈。
ぁあ、どうして俺は首を落とされたんだろうか。
いや、今生きている、それにマリー様も生きている。
コレで良い、マリー様が生きているなら、コレで。
「マリー様、そんなに俺を苦しめたいんですか」
リンゴと飴しか食べれなくなってしまった私に、アッシュは憤りと呆れを含みながら、少しだけ悲しそうに言った。
違う、そんなつもりじゃない。
そんな風に見て欲しいんじゃない。
《アッシュ、言葉が過ぎますよ》
「そう思われたくないならしっかり生きて下さい、俺の為、クロウの為、お父上やお母上の為に」
あぁ、前のアッシュと同じ、厳しいけれど優しさの有る言葉。
でも、そんな目で見ないで。
悲しそうに、困ったような目で見ないで、そんな目は望んでない。
『ごめんなさい』
「お元気になるまで俺は顔を出しません、良いですね」
《アッシュ》
「良いですね、マリー様」
『はい、ごめんなさい』
《アッシュ》
「全てはマリー様の為だ、クロウ」
『良いのクロウ、ごめんなさい、ありがとうアッシュ』
心配を掛けるべきじゃない。
分かってる、こんな脅す様な結果は、望んでいないもの。
《例えマリー様の為だとしても、言い過ぎです、注意してきますね》
クロウに違和感を覚えた瞬間、再び前世を思い出した。
もっと前は、アッシュはクロウに命令する事が多かった、それこそ最近と同じ様に。
あぁ、私は何度、転生しているのだろう。
何度、アッシュは辛い思いを。
いえ、もしかして、その中で私はアッシュに何かをしてしまった?
だからアッシュは私を避け、なのに私を守ってる。
だから、あんなに悲しみと憤りを混在させて。
「優しくしてどうなる、以降も食べないと脅され振り回される事になれと言いたいのか?」
《いえ、ですがもう少し》
「言い方を変えてどうなる、俺に親しみを覚えさせてどうなる」
マリー様は確実に前世を覚えている、今世では好まなかったリンゴを生で食べるだなんて、有り得ない。
そう思った瞬間、更に前世を思い出した。
多分、全て。
《マリー様はアナタを》
「あぁ、俺が間違っていた、全て」
俺の存在が無ければ、マリー様の心は乱れる事は無い。
どうしてもっと早く。
いや、前は死を恐れ、その為にもと関わろうとしていた。
理由も分からないままに捕縛され、断頭台に乗せられ、断罪される。
あの恐怖を今でも覚えている、なんて理不尽で不条理なのだ、と戸惑いと憤りで頭が全て埋め尽くされた。
そんな場で読み取れた事は、マリー様から僅かでも情を向けられていた事を、あの時に初めて知った。
だが、俺にはまるで意味が分からない、と。
あぁ、思い出した、全て。
知らなかった、分からなかった、マリー様のお気持ちが。
だからこそ、俺は殺されたのか。
最初から、俺が諸悪の根源なんだな。
もう、終わらせよう、全て。
『アッシュ、目を覚まして、お願い』
彼は今までの死とは違い、毒を煽り死のうとした。
何故、どうして。
どうしてこんな事に。
どうして、何で、何処で間違えて。
最初?
最初から間違えていたの?
なら最初は何処、いつ。
最初は、何処。
前の、前の、最初。
あぁ、最初から私は間違えていた。
私は最初、彼を、殺した。
《マリー様、後は僕が付き添いますから、どうかお休みに》
あぁ、クロウの妻や侍女に唆され、アッシュを誤解し殺したんだわ。
馬鹿ね私って、本当に。
彼に結婚して欲しくなくて、いつまでも私の内緒の王子様で居て欲しくて。
なのに彼は私が嫁ぐとなると、自分まで結婚すると言い出して。
ショックだった、私は単なるお荷物、ただの護衛対処でしかない。
そんな事実を付きつけられた事が、ショックだった。
あの冷たい目が誰かに溶かされてしまうなんて、耐えられなかった。
私は好きだった、最初から、ずっと。
どんなに叱られても、冷たくされても。
ずっと、アッシュが好きだった。
『ごめんなさいアッシュ、今まで、全部、ごめんなさい』
アッシュは何度も私を救おうとしてくれた、それこそ最初から、いつもいつも。
だからこそ、例え私の気持ちを拒絶しての自死でも、私は諦められない。
離れるだなんて、有り得ない。
何としてでも彼を生かし、必ず私のモノにする。
《マリー様》
『クロウ、お願い、例え彼が私を嫌いだとしても良いの。お願い、彼を生かして私と結婚させて』
《こんな冷血漢を、そこまで愛してますか》
『ええ、ずっと前から愛してたの、ずっと』
もう私は王女じゃない、どんなに拒絶されても、絶対に傍に居続ける。
《で、見事に絆されてくれて助かりました》
アッシュが手に入れた毒薬を、僕がすり替えておいたんです。
そうして動かない体のまま、アッシュにはマリー様の独白を聞いて貰う事にした。
ですがその事すらもマリー様には内密に、アッシュは奇跡によって回復した、と。
「どうして分かった」
《何でか分かりませんが、嫌な気配がしたと言うか、見た事が有る様な雰囲気でしたので、見張らせていたんです》
本当に勘です、嫌な予感がして見張らせていた。
それにあの言い回し、まるで死のうとしているかの様で、その嫌な勘が当たってしまった。
だからこそ、利用させて貰った。
マリー様はアッシュを好いてると知ってましたし、アッシュには全く気が無い事も。
けれど、だからこそ、熱意にも弱いと。
「前世の記憶か」
《あー、何かしらの勘が働く場合、そうなのかも知れませんね》
「あぁ、そうなのかも知れないな、お兄様」
《凄い違和感なので止めて下さい、今まで通りクロウでお願いしますよアッシュ》
「考えておく」
《嫌ですね本当、すっかり丸くなって冗談を言う様になってしまって》
「マリーにゴリゴリと角を削り落とされたからな」
《あぁ、愚痴を言っていたと告発しておきますね》
「俺が居なくなっても良いならな」
《それは困ります、護衛対象を2人も失ってしまったら、僕の首まで失ってしまうので》
「正解に言うなら、失うのは頭だがな」
《細かいですね本当、やっぱり言ってしまいましょうかね》
『あらクロウ、私に何を教えてくれるのかしら?』
《あー、いや、惚気てらっしゃったと、では失礼致しますね》
最初はぎこちなかったんですが、今はマリー様のお腹にはお子様がいらっしゃる。
それも2人目です、流石に愛が無い、とは言わせませんが。
やはり、どうにも心配でして。
『それで、何を言ってたの?』
「丸くなったと言われ、マリーのお陰だ、と」
『どうせゴリゴリと角を削り落とされた、とでも言ったのでしょう?』
「あぁ」
『そうやって心を削り落とされたから、よね、ごめんなさい』
「いや、もうお前が食って生き続けてくれるなら、それで良い」
『嫌味を言える様になったのね』
「あぁ、コレもマリーのお陰だな」
『ごめんなさい』
「いや、もう済んだ事だ、全て」
『他所見をしないでくれるなら、絶対にしないわ、もう2度と』
「最初から、しているつもりは無かったんだがな」
『けど愛してくれなかった』
「俺なりの愛、だったんだが」
『そうなのよね、なのに私は我儘だった。やっぱりダメなのよ、最初からしっかり王族教育を受けないとダメなのよ、愚か過ぎだった、ごめんなさい』
「今はもう十分に賢いと」
『どんなに海へ真水を入れても、飲める様にはならないでしょ、それと同じよ。愛も、薄まらない、全く』
「すまない」
『いえ、私こそ、ごめんなさい』
マリー様は、不器用ながらも最初からアッシュを愛していた。
けれどアッシュは。
彼は護衛対象、妹としか見ず、そう接し続けた。
「愛してる」
『本当に?本当に夫婦として?』
「本当に愛してる」
あぁ、彼も男なんですね。
良かった、本当に。
『嫌な所はちゃんと言ってね、お願い』
「責任感からでも、死にたくないからでも無い、愛してる」
それからはお子様が3人に増え、先ずはアッシュ様がお亡くなりになると、次にマリー様が。
もし来世が有るなら、もう少し簡単に一緒になって頂けると助かるんですが。
そう上手くいくなら、今生に悩みは少ないですよね。
明日、B面があがります。
アンニュイ後味若干悪い系とは、真逆になります。