5回目。
また、早世させてしまった。
だからこそ、もう、最初と同じ様にするしか無い。
『やだ、はなして』
「守る為だ、大人しくしてくれ」
『やだー』
「頼む、大人しくしてくれ、君の為なんだ」
『たすっ』
すまない、君の為なんだマリー。
「すまない、全ては君の為なんだ」
彼は、アッシュは前回と違い、娘を強引に連れ去って来た。
《ありがとう、アッシュ、すまない》
「いえ」
『ありがとう、けれど、どうしてこんな風に』
「すみませんが、コレが彼女の為なんです」
彼には前の記憶が、有るのか無いのか分からないわ。
どうして手段を変えたのかしら。
『なら、穏やかに迎えに行っても』
「万が一にも親しくなっては不都合が御座いますでしょうから、配慮させて頂きました」
《あぁ、すまない、ありがとう》
彼は前の記憶を、いえ、やはり分からないわ。
前こそ記憶を持ち、今こそ記憶が無いのかも知れない。
分からない、分からないわ、何も。
『あんな奴、大っ嫌い』
『やめなさいマリー、彼はアナタの為を思ってしてくれているのよ』
『けどだって』
『本当よ、本当に、アナタの為なのよ。お願い、そこだけは分かってあげて』
私を強引に攫ったアッシュ。
何の説明もしないで、口を塞いで王宮へと連れ去った。
しかも今度はココでは口煩い、私がダメな子だからなのは分かってるけど、でも。
『でも、あの時、ちゃんと説明してくれたら良かったのに』
『それもアナタの為なのよ、どうか許してあげて』
代々騎士で、私の事は親子二代で探し出し、見付けてくれた。
けど、でも、だからって。
だからって。
『そんなんじゃ、ちゃんとしたお姫様にはなれないって。他の人は優しいのに、素っ気無いし冷たいし、全然笑ってもくれない』
『でも、ちゃんと出来たら褒めてくれるでしょう?』
『それは、そうだけど』
『近衛兵だからと言って仲良くする必要は無い、全ては国やアナタの為を思って言ってくれている、その事は分かるわね?』
『それは、分かるけど』
『アナタが出来る子だから、賢くて良い子だと分かっているから、そう期待しての事なのよ』
でも、他と違って優しくしてくれない。
笑ってくれない。
私だけに、笑ってくれない。
「アリシア様」
『いい加減にしてよ、もう顔も見たくない』
「分かりました、失礼致します」
それから本当に、彼は私の目の前から居なくなってしまった。
今までアッシュの補佐だったクロウが、私の近衛兵に。
そしてアッシュは、辺境へ。
『お父様、違うの、アレは言葉の』
《気にする必要は無いよアリシア、アッシュは自ら赴いたんだ》
『えっ』
《辺境での防衛指南に、結婚だ。アレも良い年だ、寧ろ遅くて心配していたんだが、何とかな》
『そんなに、私の事が嫌いだったの?』
《そんなワケが無いだろう、常にお前の事を心配し、結婚にまで口を出してきたんだからな》
『じゃあ、ならどうして』
《お前との噂が出てはお前が困るからだ、年が離れ身分差も有る、しかも近衛として近しい者でもある。万が一を考え婚約者の選定をしてくれた、クロウの相手もお前の相手も、全てアッシュが内々に調べ結果を出してくれた。国やお前の為、裏方に徹すると言ってくれた、そうしたアイツの忠誠心を疑わないでくれ》
『なら、じゃあ、どうして優しくしてくれなかったの』
《優しく接する事だけが優しさでは無いんだよ、アリシア、苦言を呈する者程傍に置け。己を律する事は誰にでも難しい、そして苦言を呈する事には苦痛が伴う、その苦痛を受けてでも苦言を呈する。そうした者は得難い、そして望んだからと言っても簡単に手に入るワケでは無い、大事にすべき者なんだ》
『本当に、私の為に?』
《あぁ、だからこそ、彼の忠誠心を疑うべきでは無い。良いね》
アッシュが優しくない事には、全て理由が、裏が有る。
なのに私は分かろうとせず、拒絶してしまった。
彼は真に、本当に優しいのに、私は。
『ごめんなさい』
前と同じ様にした筈が、どうして。
「どうして」
《すみません》
「何が有ったんだクロウ」
彼女は結局、嫁ぎ先の者に殺された。
彼女の為にと散々に言い募り、追い詰め、民の病の治療にと駆り出させた。
優しい彼女は疑いもせず、彼の言う通りにし。
《すまない、私のせいだ》
『アナタ、どう言う事なの』
《苦言を呈する者を傍に置け、と》
『どうして、どうしてそんな事を!』
《アッシュの忠誠心を疑ったからだ!誤解を解く為にと、すまない、まさか、こうなるとは》
『いい加減にして!また、またアナタは私から子を』
「王妃様、どうかお鎮まりを」
《すまない》
王が王妃の刃物を受け入れる寸前、どうにか体を滑り込ませる事は出来た。
だが、コレで俺に次は無いのかも知れない。
それにもう、俺にはどうしたら良いか。
『あぁ、そんな、違うの、ごめんなさい』
「いえ、コレは俺の不注意です、どうか、お気に、なさらず」
『今度こそはと、そう思ったのに、ごめんなさい』
「あぁ、王妃様も、そう、だったんですね」
『ぁあ、アナタもそうだったのね、あぁ、ごめんなさい、お願い、あの子をお願い』
そうしたい、どうにかしたい。
けれども、一体、どうすれば。