表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/6

4回目。

 次こそは、と。

 クロウに全て任せ、俺は顔も出さず、表では一切指示も出さなかった。


 そして王宮内の黒幕に調査員を付けさせ、再び俺は断罪役をし、直ぐにも残党狩りを始めた。


 コレでもう、マリーとは会う事も、例え会ったとしても俺は赤の他人。

 だが万が一を考え、クロウに頼み徹底的に会わない様に、と。


 した筈が。


『だれ?』


「単なる一兵卒ですが、何か」

『いっぺいそつ』

《あ、すみません。さ、行きましょうアリシア様》


 どう足掻いても、会ってしまうらしい。

 ただ、俺は残党狩りを終えたら辺境に向かう。


 全てはマリーの為に。




『あれのなまえはなに?』


 前世の記憶から油断していた僕は、マリー様が部屋から出てしまった事に暫く気付かず。

 アッシュに出会わせてしまった。


 しかもたった1回会っただけで、こうして印象に残ってしまった。


《彼は、アッシュです》

『あっしゅ』


《灰色と言う意味ですよ》

『はいいろ?』


《この、暖炉の灰、その色の名前です》

『なんで?』


《彼の瞳が灰色だからですよ》


『あれがはいいろのめ』

《はい》


『あんまりみたことない』

《ですね、珍しい色ですから》


『きれいないろだった』

《そうですね》


 前と同じ様になってしまう、そう警戒していたのですが。

 彼の情報が少ないお陰か、アッシュについての話題が出る事も無く。


「王都にはあまり呼び出さないで欲しいんだが」

《王女様の婚約が決まりましたので、お知らせすべきかと》


「あぁ、そうか」

《それに王も気にしてらっしゃいますので、そろそろお戻りになっては?》


「いや、だが」

《万が一にも王女様との事は有り得ないんですし、寧ろ、離縁なさるならお手伝いしますよ》


「いや、せめて彼女が結婚してからだ」

《分かりました、確かにお誘いしましたからね》


「あぁ、すまないな」

《いえ》


 そして結婚式を終え、挨拶回りで会う事に。

 もう大丈夫だろう、そう思い会わせたのですが。


『あ、アッシュ、アッシュよね?』

「単なる一兵卒を覚えていらっしゃるとは、流石です王女様」


『勿論、とても綺麗な目をしていたんだもの、しかも近衛兵なのに嘘を言ってたから、良く覚えてるわ』

「その説は大変失礼致しました」


『良いのよ、相変わらず綺麗な目ね』

「いえ、王女様には叶いません」


『ありがとう、ふふふ』


 コレで大丈夫だろう、そう思えた。

 いえ、そう思い込みたかったのかも知れません。




《あんな格下に色目を使うとはな、とんだ淫乱王女様だ》


 ただ、幼い頃に良く覚えていた彼の瞳を、綺麗な瞳を久し振りに見たから。

 だから褒めただけなのに。


 優しい人だと思ったのに。

 初夜なのに。


 私はお姫様で、だから彼は王子様だと思ってたのに。


『クロウ、私帰りたい』


《何が有ったんですか》

『久し振りに会った彼の瞳を褒めたあの時、アレだけで私を淫乱だと、乱暴に』


《帰りましょう、アリシア様》




 アッシュを、彼を利用しようとは微塵も思わなかった。

 だからこそ、何も言わずマリー様を城へ。


 甘かった。

 これまでに2回しか会っていないのだから、と。


『アッシュ、アッシュ』

「クロウ、何が有った」


 彼らは出会うべき運命なのだろうか。

 そして彼女は、惹かれる運命。


 これはもう、そんな運命なんだろうか。


《アリシア様、人目も御座いますので。アッシュ様には俺が説明しておきますから》

『ダメ!言わないで、お願い』


《分かりました、ですが先ずは部屋に行きましょう、長旅だったのですから》

『でも、言わないで、お願い』

「何も聞かないでおきます、お帰りなさいませアリシア様」


『うん、ただいま』


 あれだけ落ち込んでいた彼女は、直ぐにも持ち直した。

 けれども、だからこそ。


《すみませんが僻地に引っ込んで下さい、アッシュ》


「そこまで噂が広まっているのか」

《はい》


 マリー様の元結婚相手の手先が、王宮内部にも入り込んでおり、噂が一気に広まってしまっていた。


 王女は近衛兵とデキている。

 例え根も葉もない事でも、夢の有る話に皆が飛び付いた。


 騎士とお姫様。

 マリー様が憧れていた御伽噺。


「そうか、すまない」

《すみません、急いでいたとは言えど、僕のミスです》


「いや良い、気にするな、直ぐに準備する」

《すみません、ありがとうございます》


 けれどたった3回だけでも、マリー様の心には大きく残ってしまった。


 マリー様の運命の相手は、アッシュなのだろうか。

 なら、そもそも引き離す方が間違いなんじゃないだろうか。


 そう思い、アッシュに気が有るかを確認してみたんですが。


「身分差、年の差、下手に近しい者。そうした問題が」

《いやアナタの気持ちが知りたいんです、どう思っているんですか?》


 彼にも僕と同じ様に前世の記憶が有るのか、無いのか、敢えて確認はしていなかった。


 僕の気が触れたのかと思われたく無いの、その事は勿論。

 追求されたくなかった、アッシュの死後にマリー様がどうなったのかを、訊ねられたく無かった。


 言えなかった。


「幸せになって頂けるなら、俺はどうなっても良い」


《だからって、どうして全て僕に譲る必要が有ったんですか。アナタのお父様とアナタに任された仕事は、アナタが全うしたのに、その功績すら僕に譲って》

「功績よりマリー様の幸せだ、俺はどうとでも生きられる、けれど彼女には限りが有る。出来る事、出来無い事、俺とは全く違う」


 彼はここまで思っているのに、僕は、死なせてしまった。

 マリー様の悪阻だと言う言葉を信じ、あの悪辣な男の事も信じてしまった。


 アレは、周りも合意の上での自死だ。


《すみません》

「どうした」


《すみません、すみません》

「おい、クロウ、どうした」


 僕は前の記憶が有ったのに、どうしてまた失敗してしまったんだろう。

 どうして、どうすれば。




『あの瞳を見ているだけで、嫌な事を忘れられるの』


『そう』


 たった3回、少し会い少し話しただけで、私の愛娘は近衛兵を好いてしまった。

 けれど彼は、アッシュは直ぐに身を引いてくれたわ、娘の為に。


 それでも、忘れられない。

 あの瞳の色に、彼に魅了されてしまった。


『お母様、分かってるわ、彼とは一緒になれないのよね』

『そんな、違うのアリシア。違うのマリー、違うのよ』


 愛しい子。

 だからこそ、茨の様な道を歩んで欲しくないだけ。


 何年も離れていた愛娘、今度こそ守ってあげたい。


 だからこそ、近衛兵とは、騎士と結婚をさせる事に躊躇いが生じてしまう。

 いつか戦いで、政治で、いつか命を落としてしまうかも知れない。


 置いていかれる悲しみ、そんな思いをさせたくない、けれど外戚となれば守れる限界は有る。

 しかもこの子は我慢強い、そして努力家、きっと苦労する筈。


『良いんです、分かってます、お母様。コレは単なる憧れなのでしょうから』

『ごめんなさい、今度こそ幸せにするわ』


 そう誓ったの。

 なのに。


『ごめんなさい、お母様』

『ぁあ、ダメよアリシア。マリー、お願いよマリー、目を開けて、お願いよ、お願い』


 新しく婚姻を果たした矢先に、妊娠と病が重なり、亡くなってしまった。

 そうして本当に国葬を行い、娘を見送った。


 3度も、娘を失ってしまった。


《王妃様》

『クロウ、私は間違えてしまったのかしら』


 もし彼に預けていれば、少なくとも彼の地区で病は流行っていなかった。

 もし最初から彼に預けていれば、こんな事には。


《僕には、分かりかねます》


『そう、よね』


 けれど、もし。


『失礼致します』

《今は控えて頂けると》

『良いのよ、急ぎの、重要な事なのでしょう』


 連絡係の躊躇いに、私もクロウも不安を覚えた。

 この様子は、私達の知る者に何かが。


《何が有ったんですか》


『アッシュ様が、お亡くなりに』

『そんな、どうして』


『自死を、なさいました』


 死後の世界でも姫を守る為、どうか自らも死の国へ行く事を、どうか許して欲しいと。

 そう遺書を遺し、彼は手製の断頭台で、自死を。


《見張りを、見張りを付けさせていた筈ですよ!》

『お亡くなりになったのは馬舎でして、作業してらっしゃるのか、と』


 あぁ、もし彼の元へ嫁がせていれば。

 もしやり直せるなら、その時は。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ