固定を組むらしいです
1日に1回の休日から3日ごとに1回と変更しました。
次もそのまた次の日も、1週間ほど続けて三人はパーティを組んで湿地を探索をした。
数日は事前に確認せずに解散をして、早朝集まってからパーティを組んでいたが、ダンジョンの中で食事をとりたくないから、昼食を取った後から探索を行おうとシグは提案をした。
30分という限定された時間だが、時間に追われて食事をするのは好きではなかったからだ。
パーティを組んで2日後に、中ボスである牛の顔になって大きくなったカウトードを。そして今日はついに湿地の階層守護主である、宝石があしらわれた冠を乗せている巨大なキングスライムを無事討伐することが出来た三人は、いつもと変わらずに食堂で魔石の清算をしていた。
攻略階層を更新して、テンションが上がっているのだろう。ヒルデとルナは、落ち着かない様子でシグから魔石が入っている袋を受け取っている。
「さて、明日は自由行動にしようか」
「他のチームやクランは、ほぼ毎日ダンジョンの探索をしているのですが」
「前回もそうだけど、休みを取るなんてもったいなくない? ライブのために、毎夕探索している人も多いし」
3日に1回の休みを入れながら6時間の探索をしようというシグの提案は、ほぼ毎日長い時間をかけて探索をしていた二人からしては、ありえないことだった。
しかし、彼はそれを非効率だと考えている。
肉体労働であるダンジョンの探索は、体力だけではなく集中力も必要とする。一つの失敗で崩壊する可能があるからだ。
いくら死んでも生き返れるとはいえ、ペナルティとしてレベルが2ほど低下するというのは致命的だ。
レベルの低下によってダンジョンの探索が遅れる。周囲から置いていかれることから、それを取り返すために探索をする。
成功する場合もあるが、焦りなどによって失敗をする。そのことで、睡眠時間を削ってまで探索をするという、負のスパイラルに陥る。
ならば万全な状態で探索をしたほうがいいに決まっている。
そのことを説明すると、二人は納得をした。
シグは気にしていないが、冒険者たちは探索を行う時間を気を付けている。
特に、4人以上9人以下のチームや10名以上からなるクランは、一般労働者の休みの時間に合わせて夕方から明け方までに探索を行うことが多い。
チームやクランを設立するためには、ヘカテによって切り離された空間に作られ、管轄しているプライベートエリアと呼ばれている建物を賃貸する必要がある。
ギルドの一端に設置されているボードに、メンバー全員のカードを置いて契約金を支払うことで契約書が発行されて、それをギルド提出して手続きを行うと設立が成立する。
賃貸をするには、月に多大な金銭を支払う必要があるが、それ以上にメリットもある。
まずはプライバシーの保護だ。
ダンジョンのように切り離された空間によって作られたそれらは、対象以外の人物はそのメンバーと一緒でないと入ることができない。
次に冒険者ギルドが閉まる深夜の時間でも、賃貸した建物の中にある筐体でダンジョンを探索できることができることだ。
紳士諸君が利用している冒険者たちは、これを利用してチームを組んで深夜帯にダンジョンの探索をしている。
また有名になることで、鍛冶屋からのスポンサーを得ることもできる。
これらのことから、利害が一致した冒険者たちはお金を出し合ってでもチームやクランを組む場合が多い。
ちなみに、月に決められた金額をハウスにある筐体へ入金ができなかった場合は、問答無用に契約書は破棄をされ、チームやクランは解散される。
そのことから入会する場合は入会金を。さらに月会費を取るチームやクランが多い。
「それじゃあさ、この後にパーティ結成の祝いってことで打ち上げしない?」
「それはいいですね!」
「いや、ちょっと待て。確かに1週間ほどパーティを組んではいるが」
「このメンバーに不満があるのでしょうか?」
「それはないが……」
「ならいいじゃん。ハーレムパーティだよ? あいたぁ!」
「やかましいわ!」
なんだか結託されているようにも思いながらも、連携を深めることもできてきた。
数週間ほどこの関係が続いたら、自分から固定の提案を行おうと思っていたシグは、茶化してくるルナの額にデコピンをする。
「ハーレムパーティはさておき、正直このパーティを崩すのはもったいないと思うんですよ」
「だよね。ここ1週間ほど死ぬこともなく、湿地の階層守護主も倒せたんだし」
「なら、固定としてこのままよろしく頼む」
二人はそのお願いを受け入れると、ルナは勢いよく立ち上がる。
「よーし、このまま目指せハーレムチームだ!」
「それって私も入るんでしょうか」
「当たり前でしょ。正妻は譲ってあげるよ?」
「ありがとうございます」
冗談だと気付いているのかムードに乗るヒルデと、それに調子づくルナ。
これ以上好き勝手言わせるわけにはいかないシグは、ルナに再度デコピンをしようとするが、それを予測していた彼女は頭をのけぞらせて避けると、捕まえてみろと言わんばかりにぴょんぴょんと逃げるように食堂から出て行った。
待てこらと続いて出ていくシグを、ヒルデは早足でついていく。