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ヘイトの概念を勘違いしていたようです

 ようやく転移をする感覚をつかんだのか、シグはつんのめることもなく着地することが出来た。エスカレーターから飛び降りる感覚だなと感じながら、腕についている緑色のワッペンに気付く。

 どういう原理でくっついているんだろうと興味本位で引っ張ろうとするが、手は中空を舞う。ホログラムのようなものかと自解をしながら、ヒルデとルナも続いて転移してきた。

 シーフのAGIを活かすために、金属を一切使っていない麻で出来た服と、刃渡り8cm弱のナイフぶら下がっているるガーターリングが左右対称についている。

 周囲を警戒しているのだろう。垂れている耳が前後左右に動いている。


「初めてということで作戦の共有だ。索敵時は俺が先頭で後尾はルナだ。いいな?」


 転移した最初の周辺にはモンスターがいることはないことから、作戦を共有するために水気を含んだ土に、メイスで名前の最初を中心に特徴をとらえた簡単な盾と十字と剣の絵を描きながらも確認を取ると、それに返事をするように首を縦に振る。


「敵が見つけたら必ず報告すること。敵の種類や数や方向を言うのも好ましいが、慣れてからで大丈夫だ」


 情報共有は大事だから、まずは声を出すことから始めようと提案をする。

 種類や方向を求めるのは、それだけ思考を割かずにたたかえるようにするためでもある。

 今まで臨時を組んできた彼女達だが、こういうことをするのが初めてなのだろう。少し戸惑いながらも頷いた。

 それにほっとしながら話を進めていく。


「戦闘時の陣形は簡単だ。俺が前に出て敵を引き付けるから、ルナは一匹ずつ確実に仕留めて行ってくれればいい。ヒルデは前回と同じように後方でサポート。余裕があれば周囲も見ていて欲しい」


 警戒をしながら戦闘を行ってはいるが、敵を前にしているためにそれは完璧ではない。

 そのことから、ヒーラーであるヒルデに周囲を警戒もお願いする。


「とはいっても、湿地なら木々がないからな。奇襲なんてよっぽどないから気を楽にしよう」


 湿地は視野の確保ができるため、戦闘の音を聞いてモンスターがひかれてきても目視できる。しかし、第三階層である森林ではそうはいかない。練習はできる時にした方がいい。


「よし、じゃあ探索を開始するか」


 絵を足で消して前に進んでいく彼に、二人は先ほど決められた陣形で後をついていく。

 しばらく歩くと、雨の降った畑を想像させるほどの合唱をしているトードを見つけた。


「前方トード3。水たまりは右前方だ。プロボック!」


 プロボックを受けたトードは、前回と同様に全速力で走ってくる。左に盾を装着しているために、モンスターを生み出す可能性のある水たまりを左前方に確保して、トードを正面にとらえる。

 吐き出される舌を盾で受け流し、扉を破るような蹴りをメイスで払うと、体制を崩したトードに盾の先端を突き刺す。


「シャドウエッジ!」


 ルナはがら空きになっている背後から、光を帯びた短剣をトードに突き刺す。一撃で光になるトード。垂れた耳がピクリと動くと、地面を蹴って後方へ飛んだ。

 すると彼女がいた場所に紫色の舌が飛んできた。


「プロボック! すまん、ヘイトが跳ねた」

「大丈夫だよ。ダブルアタック!」


 とっさに飛んだためか、じめじめとした土によって着地に失敗したのだろう。

 片手を着いてバランスを整えてた彼女に襲い掛かるトードを、謝罪と共にプロボックで捕まえる。

 シールドバッシュで一匹を仕留めた後に、残ったトードを倒した二人に近づいたヒルデはヒールをかけた。

 ヒールは傷を癒すほかにも、体力を少し回復させる効果があるからだ。


「聞いていた話と違うんだけど?」

「マックさんの時はこういうことはなかったんですけど……」

「いや、別に攻めてないよ! はい、魔石袋」

「あー……確か少し戻った場所に安全地帯があったよな。そこで休憩しながら説明させてくれ」


 冗談を本気にとらえたヒルデに、ルナは焦りながら拾った魔石袋をシグに投げて渡す。

 バツが悪い雰囲気の中、袋をキャッチして仕舞うと、何故ルナにトードが襲い掛かったのかを説明するために、落ち着いて話せる安全地帯へと誘導する。


 安全地帯とは、ダンジョンの内部に点々と存在する三畳ほどの広さのある石畳のことだ。

 3つの街灯に囲まれているポイントで、そこに入ると街灯が点灯する。

 中から攻撃をすることが出来ない代わりに、点灯している最中はモンスターは遠ざかっていくことで、安全に休憩をすることが出来るスペースだ。ちなみに1つの街灯につき10分ほどの制限時間が設けられていて、30分経つかそこから出るかで全ての街灯の光が消える仕組みとなっている。

 また、1つのポイントにつき1回のみの使用の制限もかけられているので、気軽に使うと痛い目をみることになる。


「ヘイトの概念を勘違いしていた」

「そもそもヘイトってなんなの?」

「私も気になってました」


 安全地帯に座ると謝るシグに二人は質問をする。

 ぽりぽりと頭を掻きながらも、思い浮かべている言葉をかみ砕いて伝えるために整理をしていく。


「ヘイトというのは、そうだな……簡単に言えば警戒の度合いって感じか? 例えば目の前に弓の矢をつがえようとしている人がいるとしよう。二人はそれを警戒するよな。それと同じようにモンスターも思うわけだ。さっきのだと、シャドウエッジを使って一発で倒したルナを厄介だと思ったトードは、俺よりもそっちを優先したって感じ」

「では何故前回はシグさんだけが狙われたのでしょうか」

「他人のせいにするのはよくないが……」


 こてりと首を傾げたヒルデに、もったいぶったように言葉を止める。

 二人も息を止める。


「マックはナイトの俺よりも弱かったってことだな!」


 攻撃対象にのみ働く場合や、関係なく全体にたまっていくといった感じで、ヘイトシステムというものは複数存在する。

 前回いくらマックが攻撃しても、シグからヘイトが剥がれることがなかった。

 そのことから、ヘイトは攻撃対象に対して個別に設定されているのではないかと考えていたが、今回のことを考慮すると後者の方のシステムを採用しているのだろう。

 冷静に思い返してみれば、マックは攻撃するたびにトードやスライムの攻撃を食らって飛ばされていた。

 つまり、その飛ばされた時間は戦闘に参加していなかったということだ。

 

「まさか大剣使いのファイターが、シールドバッシュ以外の攻撃スキルを使えないナイトよりも弱いなんて誰が想像するよ」

「そんなことで死にたくないんだけど?」

「すまんすまん、次からはちゃんとヘイトを取るように努力はするからさ。それでルナに注意点が追加だ。シャドウエッジの使用は少し控えてくれ。あとは何度かそっちにモンスターが行くかもしれない。そこは勘弁してくれ」

「元々使っていなかったスキルだしいいけど、攻撃に対してもボクが気をつければいいし」

「いやそこは俺が納得いかない」


 気にしないという彼女だが、タンクとしての意識が高い彼はそれを許さなかった。

 さてと、と立ち上がって探索を再開をした。


「攻撃を止めてくれ」

「わかった」


 数回ほどトードやスライムを相手に試行錯誤をしながら、ヘイトを大体つかんできたシグは彼女に指示を飛ばす。

 戦いに集中していて数回ほど攻撃を入れたルナだったが、攻撃が自分に襲ってきたことからか、彼の言葉に注意するようになった。


「ちなみにもう一度攻撃したらどうなるかわかる?」

「そうだな……スライムにダブルアタックしてみろ。トードが一斉にそっち向くから」

「戦闘中ですよ? ほどほどにしてくださいね」


 何度も相手にして慣れたのだろう。ルナはふと思ったことを聞く。

 本当かな、と思いながらダブルアタックをすると消えていくスライム。しかし4匹のトードの目が、一斉に彼女を向いた。

 それをプロボックで取り返したシグは、作業をするかのようにトードたちに攻撃を入れていく。

 ヒルデもヒールで定期的に回復をしながら、周囲を警戒する。


「その管理ってどうやってるの?」

「経験としか言えないな」

「経験……ねぇ。まだ1ヶ月もダンジョンを経験していないのに?」

「才能だな!」


 ヘイトという概念や、探索に慣れていることからだろうか。道中に冒険者に登録した時期をそれとなく聞いた彼女は、その言葉にいぶかしめた。

 何とも言えない雰囲気が、その場を漂う。


「そろそろ3時間経ちますが、ルナさんはどうしますか?」

「延長で。こんなに楽にレベルやガルドを稼げるのに終わるのもったいないし」

「シグさんは大丈夫ですか?」

「そうだな、飯食ってからもう3時間ほどするか?」


 その雰囲気を変えるべく、ヒルデは魔石袋を拾いながらこの後の予定のことを聞くと、ルナもそれに乗るように延長を願い出た。

 シグもその流れに乗るように、安全地帯を指さしながら提案をすると、二人もそれに頷いたのだった。

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