サメの顔のフィッシャーマンのようです
23日はもしかしたら深夜。もしくは投稿が出来ないかもしれません。
イヅナが加入してから連携を含めて彼女のレベルが上げたことで、中ボスを攻略するために浜辺の扉を探していた。
鳥人には飛べる種族と飛べない種族に分かれている。
イヅナは前者の鳥人ということで、全員と同じように歩いて探索をおこなっている。
ちなみに飛べる種族は、骨が軽量化されているためか脆くできており、イヅナは飛べない種族でよかったと言っている。
「おいシグ、今回もあれやんのか?」
「一本背負いか?」
「それだそれ」
「あれは偶然であって狙ったわけじゃない」
「んだよ。つまんねぇな」
早く戦いたくてうずうずしているイヅナは、彼女が入るきっかけとなったことをシグへと問いかける。
この階層の中ボスであるサメの顔をしているフィッシャーマンの特徴は、鋭利な歯をと手に持った三又のモリだ。
またその首の横についている管のようなものは笛であり、それを鳴らすと、一度だけ海からクロスボウを手に持った魚の帽子をかぶったゴブリンこと、ギョブリンが現れる。
ギョブリン達は、フィッシャーマンが攻撃している対象を狙うように、視野の端へと移動して攻撃を行う厄介なモンスターだが、森林の皮の鎧を装備しているゴブリンとは違い、海パンしか装着していないので防御力がなく、一突きで簡単に倒すことが出来る。
前回のフィッシャーマン戦は、ルナが2匹のギョブリンを仕留めたのだが、彼女が残りの1匹のギョブリンを倒したと同時に放たれた矢を盾で弾いた際に、フィッシャーマンがモリで攻撃をしてきた。
フィッシャーマンのみが残っていると状況を理解していたシグは、自身の右肩の上あたりにその腕があったということから、一本背負いが出来ただけで狙ったわけではない。
そのおかげでイヅナがパーティに加入してきたのだが、タンクをしながらあれを狙ってやれと言われても無理だと言わんばかりに、素っ気ない返事をする。
「あのさぁ、今はまだダンジョンの中だよ?」
「ちゃんと周囲は警戒しているみたいですし、大丈夫ですよ」
「ならいいんだけどさ」
シグの周囲に纏わりつくイヅナに嫌気を指しているルナだが、戦闘や周囲の警戒を卒なくこなしていることからヒルデはそれを収める。
過剰ともいえる殲滅力で探索を続けているパーティは、目的である扉を見つけた。
「なんで毎回あいつは仁王立ちをしてるんだ?」
「そっちのほうが格好いいからじゃないですかね?」
「どうでもいいじゃん。ぱぱっと終わらせようよ」
「おうよ。タンクは任せたぜ」
海に面している扉を守るように、モリを地面に突き刺して仁王立ちをしているフィッシャーマンを見たシグは、突っ込みを入れながらも戦闘準備をする。
ランパートの土色のオーラを身にまといながら、距離を詰めていくシグに気付いたフィッシャーマンは、シャーックと言いながら地面からモリを抜いた。
どこからそんな声が出ているのか理解できないほどのソプラノボイスを聞きながらも、フィッシャーマンのヘイトを取るためにプロボックを飛ばす。
そのヘイトを取る淡い青の光の矢が当たると、ふらふらとしていた三又のモリの尖端がシグへと定まる。
シグを突き殺そうと力いっぱいに返しのついたモリを突きだす。
取り巻きがいないことからモリは盾で受け止めながら、噛みついてきた顔をメイスで殴る。
それに合わせるように、ルナはバゼラードを、イヅナは自身の脚を、フィッシャーマンに向けて攻撃を放っていく。
序盤ということでヘイトが安定しないということから、彼女達はスキルを一切使わない。
ヒルデもベネディクトを使わずに、シグに重きを置きながら各員にヒールをかけていく。
四方八方から攻撃を受けるフィッシャーマンの矛先が、そのメンバーのどちらかに向きそうになった瞬間。
「プロボック!」
シグのプロボックによって、その矛先が彼に固定するように向けられる。
繰り出される攻撃を危なげなく弾き飛ばされるフィッシャーマンは、怒り狂いながらも首についている管からぴゅるるるという音が鳴り響いた。
仲間を呼ぶ合図だ。
「扉の右手からギョブリンが2匹です」
「ボクが左を受け持つよ」
「お前の方が早いんだから奥の右側に決まってんだよ」
「仲良くしろよ。ルナは奥だ」
「わかったよ。じゃあどっちが速く倒すか競争ね」
「はん! 後で泣くんじゃねぇぞ」
ざばんざばんと海から這い出てくるギョブリン2匹は、手に持っているクロスボウにモリの矢を番えている。
どちらを相手にするかを言い合う二人に、シグはフィッシャーマンを相手にしながら器用に指示を飛ばした。
競争と言い始めたルナとイヅナは、彼の一声でギョブリンへと駆け出していく。
ヒルデはその二人の武器にベネディクトを乗せた。
にじぐざぐに回避行動をとりながらも詰めていくルナと、直線的に走るイヅナの戦闘スタイルは、はたからみると両極端ともいえる。
競うように最大速度でかけている二人を傍に、シグはフィッシャーマンの相手をする。
フィッシャーマンを援護するように飛んでくる2つの矢を避けても当たらない位置にヒルデが展開していることを確認したシグは、それをヒルデと反対の方に向かって盾で弾き飛ばす。
追加で飛んでくるフィッシャーマンのモリを横に避けて、噛みつきの攻撃は前と同じようにメイスでその鼻を叩くことで阻止する。
次に飛んでくるであろう矢に注意をするが、ルナとイヅナが既にギョブリンを仕留めていた。
自分がフィッシャーマンを倒すと言わんばかりにアクセルで加速しているルナに対して、イヅナは彼女に迫る勢いで加速している。
彼女の足を見てみるとマジックポイントを消費して、1度だけ自身の攻撃力を増すことが出来る気功を連続で使用しているのだろう。水気を含んでいるはずの砂が舞い上がっている。
「ちょっとその技ズルくない!?」
「それだったらお前のそのアクセルも卑怯だろ!」
「ヒルデ、そっちにいくから前にバリア張ってくれ!」
「はい! バリア!」
怒涛の勢いで走りながらも言い合っている二人に、シグはこのままでは自分もろとも殴るのではないかと畏怖の念を抱く。
今までにあった強敵に対してもかいたことのない冷や汗を出しながら、全力で後方へとステップを踏みながらもヒルデにバリアを張るように指示を出す。
彼女もシグの言葉と行動に反応をして、自分を守るように盾を構えているシグの前にバリアを展開した。
背後を取っているということで、ルナは自身の最大火力であるシャドウエッジをフィッシャーマンに放った。
それを受けたフィッシャーマンは、倒れこむように膝を地面に落としたのだが、追い打ちをかけるがごとく横面に、左を軸にしたイヅナの烈風脚という上段回し蹴りが炸裂する。
どこからどう見てもオーバーキルだ。
シグに吹き飛んできたフィッシャーマンはバリアにぶつかって減速をすると、それに合わせてシールドバッシュを強引に弾き飛ばした。オーガ以上ではないかと言わんばかりに左手を痛めたが、ヒルデはその腕をヒールで癒した。
そしていつもならば歓声を上げたりハイタッチをしていたシグだが、今回は違った。
青筋を立てながらも笑顔のシグを見た二人は、やってしまったという感じの表情をしている。
「さて、帰るか」
「今日はまだレベリングをしようぜ!」
「そうだね!」
「やかましいわ! さっさと帰るぞ!」
「皆さん、帰りますよ?」
その怒声に二人はおののく。
ヒルデもにこやかな笑みを浮かべながら諭すような口調で、二人に帰順するようにお願いをする。
最短でモンスターを討伐しながらも浜辺から帰った二人に待っているのは、反省会という名の恐ろしい説教というのは説明するまでもないだろう。
二人が解放されたのは深夜だった。