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異世界に転移したそうです

 ──気持ち悪い。

 意識がハッキリとしたシグの第一の感情である。

 例えるならば、知らない場所にいるにもかかわらず、その場所がどういう場所なのかを理解しているというものだ。

 フランクルト王国城塞都市トルクブルク。

 女神ヘカテによって複数生み出された『ダンジョン』の入り口を管理するために作られた都市である。

 そこの屋台通りと呼ばれている西区の端で目を覚ましたシグは、いつの間にか手に持っていたカードに、「武具や冒険者ギルド登録と数日分のガルドを最低限には入れておきました」と書かれていたメッセージがあったことと、最低限と言われているが余剰すぎるだろと突っ込みを入れつつも、高額なガルドが入っていることを確認してから、すぐそこにあった喫茶店へと入っていく。


「コーヒーを頼む」


 案内された外の席に座ってすぐに店員へと注文を行うと、彼女が差し出してきた手のひらに乗っている端末に、ポケットの中からカードをかざした。

 ピロン、と音が鳴るとごゆっくりとどうぞと店員は店の中へと入っていった。


(携帯端末と身分証明証に金が一緒になってるって、便利なものだな……ってどんだけあの世界をリスペクトしているんだよ)


 インベントリを使ってポケットから出したように見せたカードを、太陽に向ける。

 自分以外からは無地に見えているカードを、今まで何度も使ったことがあるようにスムーズに操作を行う。

 ステータス以外にも、ヘカテーチャンネル等文字が記載されているアイコンに無意識に笑いがこぼれる。

 それを見ながら、異世界へ来たんだなと実感がこみ上がってきたシグは、先ほど来たコーヒーの香りを楽しみながら通行人達に目を向けた。

 人間に獣人、エルフ、ドワーフ。

 見たこともない多種多様な種族を好奇心な目で見ながら、再度カードに視線を戻す。

 ヘカテーチャンネルを選ぶと某動画サイトのようなトップページが、プロジェクタで表示されたように現れた。


(対人ゲームでいう神の視点っていう感じか。って、やっぱりアタッカーが多いな)


 数多くの表示されているサムネイルから適当に選ぶと、緑色の肌をしているゴブリンと呼ばれているモンスターと対峙している4人の姿が映し出される。

 視点の高さや角度等、自分で変更することができることの感想を思い浮かべながら黙って閉じてトップページへと戻ると、職業タブを選択してその中にあるナイトというタブをトンと指を使ってタップする。

 しかし、検索結果がありませんという文字をみてシグはため息をついた。

 このヘカテーチャンネルはダンジョンに潜っているメンバーを問答無用に映し出されるのだが、これを見る限り聞いていた通りだなというものと、それでも何名かは映っているだろうという期待を裏切られた二つを含んだものである。


(とりあえず冒険者ギルドで登録して……いや、まずは武具か。何しに来たんだこいつって見られるのは嫌だしな)


 ご馳走様と店員へと声をかけて、東区の職人通りと言われている場所に迷うことなく足を運ぶ。

 が、シグに襲い掛かる災難はここからだった。


「ナイトか……そこら辺にあるもんから好きに選べばいい」

「とりあえずこれでいいんじゃないか?」

「あっちにあるのから適当に選びな」


 店に入って笑顔を向けてきた店員から放たれた言葉に、シグは呆れながら失礼しましたと言って店を出ていく。

 勧められた装備は、浄眼で確認した限りそこまでよいというものではない。

 次からはこの店を使わないようにしようと思うが、逆に当然かと納得はする。

 喫茶店で見た限りアタッカーが動画映えする。

 逆に言うならば、タンクというクラスであるナイトは動画映えしないとも言える。


(ナイトに時間をかけるなら、次来るであろうアタッカーの対応をするのは仕方がないか。しかし顧客にする対応ではないよな)


 店の名前を見える場所に彫刻するというルールを義務付けられていることも相まってか、注目されるクラスを優先するのは仕方がないことである。

 次も同じような対応だったら冒険者ギルドへと行くかと、半ば諦めた感じにハーゲン工房と無骨なデザインの看板を掲げている店の門をくぐる。


「いらっしゃい」

「今日から冒険者ギルドに登録しようと思っているナイトだが、おすすめのものはありますか?」

「身体を触るぞ」

「どうぞ」


 今までにない対応をする、受付のカウンターから出てきた自分よりも一回り小さなドワーフの男は、触りやすいように横に両手を広げたシグの身体を触り始めた。

 そして満足したのかカウンターへと戻ると、ごそごそと机の下から木箱を鈍くて重い音を鳴らして上へ取り出した。


「重心的にプレートアーマーよりはチェインメイルとレザーアーマーの方がいいだろう」

「金額は?」

「グリーヴや籠手を含めて50万ガルドでどうだ」

「盾とメイスを合わせると?」

「普通ならロングソードを選ぶ奴が多いんだがな、形状は?」

「カイトが好ましい。メイスはできれば40cm弱が好ましい」

「ならば65万でどうだ」

「現物を見ても?」


 少し悩むように顎に手を添えながら、少し触っただけでよくわかったなとシグは感心した。

 もともと別の世界の住民のシグは、重装甲を装着したことはない。

 武器に関しては、ゲームではロングソードを好んで使っていたが、突いてよし薙いでよし、そして雑に扱っても壊れにくいという点から鈍器であるメイスを選んだ。

 金がたまったら敵によってロングソードも購入してもよいなと考えながら、取り出された武具を見ても粗悪品出ないことで、この店主は客を選んでいないのだろうと予測をした彼は、装着してもよいかと許可を得てから着込んでいく。

 少し窮屈だなと感じながらも、可動域を確認をするために肩を回したりしゃがんだりする。


「少し窮屈に感じますがよい作品ですね。購入しても?」

「隙間が空いて刺されるよりましじゃ」

「それもそうですね」


 カウンターの上にある端末にカードを載せて支払うと、手入れや保管方法を教えてもらう。

 背後からまた来いよと威勢良い声を掛け投げながら出ていくシグは、次の目的地である冒険者ギルドの建物へと購入した装備を鳴らすために大股や小走りをしながら向かっていく。

 目的の建物に入って向けられてきた視線は、背負っている盾を見て興味を失せたかのように散っていく。

 登録受付のカウンターに到着して上にあるハンドベルを鳴らす。

 すると、狐の獣人の女性が後ろの扉から出てきた。


「ギルド職員のタマモと申します」

「冒険者登録をお願いします」

「5万ガルドですがよろしいでしょうか」


 見たこともない端末に少し戸惑うが、さすがにこういう場所で詐欺のようなことはしないだろうと考えたシグは、今までと同じように支払う。

 機械音がなるまでは同じだったがその後いきなりカードが光った。


「カードの更新ですよ」


 大体の人はそういう反応をしますよと、笑顔で説明を続ける。


「冒険者ギルドは、女神ヘカテ様によって作られたダンジョンの管理をするために作られたものです。ダンジョンに入るためにはそのカードも今後は必要になります」


 引き出しから取り出された紙を机の上に広げて、木の棒で読んでもらいたい場所を指す。


「ダンジョンの中で死んだ場合ですが、あちらの部屋から吐き出されるような感じで生き返りますのであの周辺にはいかないようにしてください。ちなみに生き返ると言いましたが、ペナルティとして1日ほどの1段階ステータスの低下や、2ほどのレベルが低下となりますので注意してくださいね」


 モンスターを倒すと袋に入ったアイテムが地面に落ちる。

 これをドロップアイテムと呼ばれている。

 ちなみにモンスターはダンジョン内にしか存在しておらず、外には存在しない。

 そのことから、ダンジョンは女神ヘカテからの祝福や試練ではないのかと一部から言われている。


「ドロップアイテムの売却はギルド外の場合は、ギルド公認の看板を掲げている場所での販売でお願いします。それ以外に卸した場合は即刻ギルドの登録抹消になります。その場合は今後一切登録できないので絶対にしないようにしてくださいね」


 ダメですと言わんばかりに指でバツマークを作ったタマモ。

 初めてそういうのを見たなと思いながら説明を続けて受けていく。


「第一の草原と第二階層の湿地は、一人でしか潜ることはできません。ヘカテ様が言うにはチュートリアル……とのことです。潜る際はあちらの受付にある筐体にカードを載せてから行先の階層を選んでくださいね。選択を終えたら1分後に選んだ階層に飛びますので注意してください」


 あちらですと指されている指の先には、病院などでよく見かける筐体が5つほど並んでいた。

 それを確認したタマモは、さらに説明を続ける。


「ちなみにダンジョンですが、毎回一人一人作られているみたいです。なので他人と出会うことはありません」

(インスタンスダンジョンみたいなものか)

「また、第三階層からはパーティを組むことが可能です。パーティにつきましては、すぐに利用するわけではありませんので、カードに新たに追加されたヘルプで確認をお願いします」


 多分ここ辺りです、とカードで場所を探していたシグの手助けする。

 そこには目を瞑りながら腕を組んでいるデフォルメ絵のヘカテのマークが追加されていた。


「ヘカテーチャンネルにマイページというものが追加されてますので、後でいろいろとカスタマイズするのも忘れないようにしてくださいね」


 これもあっちの世界のをリスペクトしているんだなと思いながら、マイページカスタマイズを流し見をする。


「以上で説明はおしまいです」

「ご丁寧にありがとうございます」


 仕事ですから。とピンと張った耳をぴょこぴょこと動かしながら礼をしたタマモは、後ろの部屋に戻っていった。


「チュートリアルってことだから、初心者訓練所みたいなものか……とりあえず潜ってはみるか」


 これまでのことから、ダンジョンの第一階層である草原がどういう場所かと予想したシグは、筐体へと向かう。

 ここにカードをかざしてくださいと表示されているディスプレイ。そこにカードをかざす。すると、初めての人向け用と、わざわざタップをする場所をポップアップして難なく進めることが出来た。

 受付完了しました。カードで時間を確認してください。

 お辞儀しているヘカテちゃんを後ろに、カードに表示されている減っていく数字。

 3・2・1・0とカウントダウンが終わると、水中に飛び込んだかのような浮遊感を感じながらシグはそこから消えていった。

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