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ルナの野望のようです

 ルナは野望を持っている。

 必ず、かの唐変木を手にいれなけれなばらぬと決意をしていた。

 今夜もその野望を果たすべく、ヒルデと共に居酒屋で冷えたエールを喉を通す。

 ヒルデもパンを片手に葡萄酒を嗜んでいる。


「二人でシグを手に入れる作戦!」


 ルナは、追加で来たビールを持った右手を高らかに上げると立ったままぐびぐびと飲み干す。

 シグがそこにいたなら、ホップを多く使われているから葉を食ってるようなものかと考えられるくらいの酒豪のようだ。


 何度もその会議は行われているのだろう。

 ヒルデも葡萄酒を飲みながら、彼女に続く。


「私服デート作戦もあまり評判がなかったみたいです」

「本当に男色家ってことは……?」

「1週間に1度ほどギルドの裏手にある娼館に通ってることは確認積みです」

「ってことは、希望はあるってことだね!」


 ギルドの裏手には、娼館がある。

 生き返るとは言え、死との隣り合わせの探索によって高まった生殖本能の抑えるための場所だ。

 当然男であるシグもそれは例外ではなく、定期的にそこに通っていることはヒルデによってリサーチ済みである。


「それにしてもヒルデからこんなこと提案されるとは思わなかったよ」

「私も女ですからね」


 この作戦会議は、ヒルデが立案したものだ。

 孤児院で過ごした彼女は、子供向けの本を読むことが多かった。

 子供向けの本は、姫を守る王子様のようなものが多く、探索は彼女から見て姫は自分でモンスターから守ってくれるシグを王子様に見立てたのは仕方のないことだ。

 また一方で今の彼の年齢は20だが、それはヘカテによって操作された年齢だ。

 年が近いにもかかわらず、院長のような安心感があることからの心の安らぐ空間からもある。


 その一方でルナは、自分の容姿にもかかわらず向けられる卑猥な視線が来ないことや、普段の何気ないやり取りが気に入っていた。

 自分の性格から来る失敗も、怒ったりはするが最終的には許容されていることもあるのだろう。

 次第にシグに惹かれていった。


 そしてその二人の思惑が重なり合って出来たのが、この深夜の作戦会議ということだ。


「ボクのおっぱいってそんなに魅力ないのかな?」

「そんなことないと思いますよ? それ以上持ち上げたらもぎますよ?」

「ひぃ!」


 自分のたわわに実った胸をむにゅっと持ち上げながらつぶやくルナに、ヒルデの何とも言えない表情から繰り出される言葉にゾッとする。

 普段は色々と遠慮している彼女だが、酒気を惑っているためか多少タカが外れているようだ。


「普段のシグさんの言動を見てみたんですけど、どうもラインを引いてるようなんですよね」

「ライン?」

「ええ、ある一定以上から近寄らせないというか、距離を置いてるような気がするんですよ」

「ふぅん」


 多くの子供や大人の相手をしてきた、ヒルデの読みは正しい。

 タンクという役割をしている彼は、ある一定以上親密になると失敗した経験から、特別視というものをしないようにしている。

 その壁をなんとなく感じているヒルデは、ルナの性格でそれを崩せるのではないかと淡い期待もしている。


「新規に入ってくるライバルの差をつけないといけないね」

「いえ、逆に人員を増やして攻め込むのもいいかもしれません」

「それだと分け前が減らない?」

「シグさんは物じゃないですよ?」


 ルナの言葉に思わず突っ込むヒルデだが、それもそうかもしれませんねと視線を左下に向けた。

 それを見てにゅふふと、何かを思いついたかのようにルナはバンと立ち上がる。


「そうと決まったら夜這いしに行こう! 事前にボクがシグが休んでいる宿屋を調べておいたから!」

「さすがにご迷惑では?」


 いいからいいから。と、手を引いて居酒屋から出ていった二人が向かった先は、シグが泊まっている宿へと到着する。

 そこの受付にいる女性に、シグに合いに来たと言うと、シグのパーティということを知っていたのだろう。

 受付の女性は深いことを聞かずに、彼が泊まっている部屋番号を教える。


「夜這いに来たよ!」

「何が夜這いだこの発情兎が!」

「ヒルデも一緒でお買い得だよ!」

「やかましい! ヒルデもなんか言ってやれ」

「そうですね。賞味期限はまだ先ですから美味しいと思いますよ?」

「ヒルデ!? なんで防音を発動してるんだ?」

「ご迷惑がかかりますので」


 シグの言葉に頬を赤らめて返答をするヒルデは、防音をするために扉を閉めてからその取っ手についてある魔道具に魔石を入れた。

じゃらじゃらの音のをならして入っていく魔石は、ある一定以上入ると音波のような並みが広がる。

これにより、この部屋の音が周りに音が聞こえん心配がなくなった。


 扉という退路を断たれたシグは、ここからどうやって逃げるかを考える。

 窓から飛び降りてもよいが、そこにはいつの間にかルナが通さないと言わんばかりに仁王立ちをしている。

 この宿に向かう際中にどういうことを行うのかは、ルナによって決められていた。


「いや待て、お前ら。こういうことをするには順序というものだが」

「そうしていたらシグは何もしないじゃん。いいじゃん娼館に通ってるんだから」


 縄を持ちながら獲物を追い詰める肉食獣ように、じりじりとルナはシグの言葉を聞かないと言わんばかりだ。

 ならばヒルデだと、彼女を見るが。その瞳から見られる決意からして無理だろうと察する。


「大丈夫です。安心してください」

「何が!?」

「初めてですから優しくしてくださいね?」

「ボクも初めてだから優しく!」

「どう返せばいいんだよ!」


 二人の決意を見て、覚悟を決めたのだろう。

 シグは深く息を吐くと、二人を見ると。二人も足を止めた。


「吊り橋効果じゃないんだろうな」

「ないよ?」

「後悔してもしらないぞ?」

「こういうことをしているのですから、後悔はありません」


 シグも二人にはそれとなく恋心というほどではないが、惹かれてはいた。

 しかし手を出すにはいかないということで、娼館に通ってはそれらを発散していた。

 その状況化でこのようなことをされては、我慢することは出来ない。


 再度確認をしようとしたが、それを聞いては相手に恥をかかせるだけだろう。

 またこのような特殊な体験をしたことがないのだろう。

 どういっていいのかわからないシグは、うーんと少し考えた。


「とりあえず、頑張らせてもらいます?」

「なんで疑問形かな? まぁ頑張ってもらおうか」

「そうですね」


 その言葉にクスクスと笑う二人と、シグは眠れない夜を過ごすこととなったのは言うまでのことはないだろう。

これなんていう恋愛ゲーム?

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