反省会と今後の方針を決めるようです
オーガ討伐により、第三階層の攻略が完了したシグ達は、ギルドの一室を借りていた。
防音壁や鍵をかけることできるそこは、ギルドにガルドを支払うことで利用することが出来る。
あまり使われることのない部屋なのにもかかわらず、職員が清掃していることから清潔に保たれている。
「さて、まずは反省会だな」
少し前に買い替えた羽ペンを取り出して、その先にインクを付けたシグは、3枚の紙を机の上に並べる。
使用によって摩耗する羽ペンは、定期的に変えないといけないことからか、書類等を扱う者以外からは好まれて使われていない。
こういう作戦会議の場面でも、口頭のみで終わらせる場所が多いが、それでは記憶に残らないと思っているシグは、自腹を切ってでも紙に書いてから各自に配っている。
「まずはヒルデからだが、正直に言うと指摘する場所はない。ベネディクタの時間管理やヒールによるヘイトの管理はもちろん、警戒に関しても問題はないと思う」
「ありがとうございます」
「あえていうなら、余裕があるときはホリーライトでの攻撃をする練習もした方がいいかもしれない。アンデッドに有効ってことで、次の階層守護主やその取り巻きには圧倒的火力が出るからな。ルナからは?」
「ないよ?」
アタッカーであるルナにも確認を取る。
頑張りますと意気込んでいる彼女に、シグはそれを記載した紙を渡した。
「次に俺だが、そうだな……敵の攻撃に目を鳴らす速度を早くはしたいかな。後はマジックポイントをもう少し使ってでもいいから、バッシュやブーメランを使うってところか」
「それだと完璧すぎない?」
「そうですよ。今でも十分なほどなんですから」
「課題を作るらなければ成長は止まるからな。ほかの二人は何かあるか?」
問題がないということで、自分の動きが完璧だと考えると成長はしないことから、シグは些細な事でも自分に課題を課すことにしている。
本来ならば数多くのタンクの動きを見て、それを研究することで大きな一歩を踏み出せるのだが、ナイトでの放送は大体アダルトなものが多いので、参考にすらできない。
二人にも問題点を聞くが、不満がないのだろう。先ほどの記載した紙を横に置く。
「さて、一番の問題児であるやつの話だが……なってない口笛を吹かずにこっちを向け」
両手を頭の後ろに組んで、横を向きながらかすれた音が鳴る口笛をしているルナは、チラチラとシグとヒルデを見ている。
「まぁ新しいスキルを得たことからの高揚からのことだろう。反省もしているからこれ以上は言わないようにはする」
「ありがとうございます!」
「しかし、次また同じことをやったら……」
「やったら……?」
ごくりと喉を鳴らすルナに、じらすように一呼吸を置く。
「しょうがないってことですませるか。それで全滅したらしたで面白そうだし」
「それ一番精神に来るやつじゃない!?」
「そうですね、私もそれがいいと思いますよ」
「ヒルデも!?」
予期せぬ内容にルナは驚愕をする。
「ぶっちゃけた話、今回のオーガ程度だと問題という問題は思い浮かばないんだよ」
「そうは言いますけど、森林の攻略は中堅の証ですよ?」
「そうだよ? 森林の攻略を諦めた冒険者は、引退をするかハーブを採取するかの二択なんだから」
湿地の攻略は出来るが森林の攻略が出来ない冒険者達は多い。
実入りの良いハーブ採取があることから、他にやりたい仕事がない者達は森林の階層でハーブ採取を勤しんでいる。
「しかも一年もたたずに攻略なんてほぼありえませんよ?」
「アタッカーのDPSのごり押しで攻略している奴らと比べられてもなぁ」
「でぃーぴーえす?」
「瞬間火力って考えてくれ」
シグが用いている編成の強みは、タンクがアタッカーやヒーラーに向けられるダメージを受ける代わりに、残りが最大限の力を発揮することが出来ることからくる安定感だ。
瞬間火力──DPS(Damage Per Secondの略)──でのごり押ししているパーティとは比較することは出来ない。
正直シグ本人は、この戦法をダメとは言わない。
転移する前には否定はしてはいたが、安定を捨ててでも攻撃に徹しないといけない場面があることは彼自身知っているからだ。
あの時に否定をしていたのは、その両方が出来ていなかったから出た言葉である。
「それで、今後の方針なんだが……アタッカーが欲しいな」
「ボクはクビってこと!?」
「やかましい! 放送を見る限り浜辺はこの3名でも攻略は出来るとは思っている。が、その後は多分、ルナ1人では討伐速度の限界を感じる場面が出てくると思う。さっき言ったことだが、俺たちのパーティは一般的なパーティとは戦法が違う」
「つまり、先を見通しての募集ってことですか?」
その通りだと言いながら、持ち手が暇だったのかルナの紙に兎のマークを出す。
それを見るために近づいてきて、似てないと煽ってくる彼女にデコピンを入れようとするが、それを察知してかすぐさま席に戻っていく。
「まぁそうだよね。ボクも最初は戸惑ったもん」
「しかも何度かモンスターがそっちにも行ったからな。ヘイトの概念を理解してもらうためには早めに補充した方が妥当だと判断をしている」
それで問題があると、凝り固まった身体をほぐすために、ぐーっと背もたれにもたれかかる。
「ナイトをリーダーとした俺達のパーティ……いや、俺といたらいいか? 巷でなんて言われてるか知ってるか?」
「寄生、ですよね?」
「いいじゃん。知らないやつらの評価なんて放っておきなよ」
森林でくすぶっている者達から見たら、シグは腹の立つ存在なのだろう。
彼らからは嫌味を込めて、そのようなあだ名がつけられている。
「野次馬どもの発言はぶっちゃけどうでもいい。しかしな、そう呼ばれているパーティの募集を見て、そこに入りたいと思うか?」
シグの言葉にそれを聞いて、そうじゃないと完全に否定できないことから言葉が詰まった。
「そういうことなら、いい相談相手がいますよ!」
その雰囲気を一変するように、パンと手で音を鳴らして出ていく。
「そんなこと思ってないよ?」
「んなもんわかってる。ほら紙」
「ん、ありがと」
ルナの言葉に返しながら紙を渡したシグに、それを受け取った彼女は感謝を述べる。
その後すぐに、会議室の扉が開くとそこにはヒルデの他にタマモがいた。
「ヒルデさんから話は伺いました。相談担当者のタマモです」
「餅は餅屋といいますので」
「いくらかかった?」
「装備のお返しということで」
「そうか」
冒険者ギルドの職員に、ガルドを支払うことで相談を持ち掛けることが出来る。
お辞儀をしているタマモは、会議室の端にある椅子を机まで持ってくると、一言失礼しますと断りを入れてから座った。
「道中に軽く説明を受けましたが、どうやらシグさんの蔑称に悩んでいることからのパーティ募集の相談ということでよろしいでしょうか」
「はい、アタッカーの募集を行う際にそれによって不都合が生じることを懸念しています」
タマモの質問に、今までの言葉遣いから変更したシグは、なぜ補充が必要なのかを説明をする。
それを聞いた彼女は、なるほどと相槌を打った。
「それなら、ギルドの紹介システムを利用なさってはどうでしょうか」
「紹介システム?」
「ギルドが仲介役としてパーティの募集を手助けするシステムです。ギルドマスターと副ギルドマスターともう一名が1日ごとにパーティを組んで、個人やパーティの総合の評価を決めて、それに見合ったメンバーを紹介するものですね」
「費用は?」
「一名で5万ほどでですが、パーティの評価や仲介手数料として合計で25万といったところです」
「支払います」
決して安くはないが、ギルドが正当な評価を出して保証と仲介役をするのであれば仕方がないと言える。
即決したことに驚いたタマモだが、シグはあれ以降メンテナンスやポーションの他に日常生活に使うガルド以外には、使ったことがないことから懐には余裕がある。
将来の投資だと割り切って、全員の料金を一括で支払った。
「支払いの確認が出来ました。希望の日時はどういたしますか?」
「そうですね、本日森林を攻略出来たので2日ほど休みを設けようかと思っていますので、3日後の昼の1時からでどうでしょうか?」
「承りました。もし日時の変更がございましたら、希望日の前日までに連絡の方をお願いします」
そういうと、タマモは会議室から出ていく。
「で、ボクたちはガルドを払わなくてもいいの?」
「別に俺が好きにやってることだからな」
「悪いですので、半分ほど支払わさせていただきますね」
いいのか? と確認を取ったシグは、差し出されているヒルデのカードの上に重ねる。
25000ガルドを獲得しましたという文字が浮かび上がったカードを確認したシグに、ルナも自分だけ払わないのは申し訳ないと思ったのだろう。
彼女もシグに同額の値段を支払って、今日の会議は終了という流れとなった。