オーガと激突するようです
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全員が森林のレベル上限である29になったことから、昼から開始した森林の探索は滞りなく進み、目の前にある渦巻いている扉の前で、三人は休息を行っていた。
黙々と自分の獲物に刃こぼれがないかを確認するルナや、深呼吸を何度も行っているヒルデを横に、シグは今朝買った新品の緑と青のポーションを、腰についてある専用のホルダーに差した。
効果は変わらないポーションだが、ゲン担ぎの一つである。
また不安なのか、メンテナンスを終えたばかりの銀色の鎧と盾も、不具合がないかを朝から何度も確認をしている。
「確認を取るが、まずは俺がヘイトを引き付ける。攻撃は最初緩めてくれ。ヒルデはいつも通りの支援を頼む。ヘイトが跳ぶことはないだろうが、随時注意はしておくように」
二人はシグの確認に、無言で頷いて返す。
「まぁ、死んでも2レベル下がるだけだからな。いつも通りやって失敗したら反省だ。気負い過ぎるなよ……さて、いくか」
そういうと、渦巻いている扉の中へとシグを先頭に入っていく。
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森林の階層とは打って変わって、火が灯されている松明に囲まれた広場に飛ばされた。
太陽が昇っているにも関わらず灯されているそれは、一周回って不気味である。
侵入者を発見して怒っているのか、地面が揺れるほどの咆哮が上がる。
一目見ると剛腕とわかる腕だが、それと反対に腹部が出ている。
その重量を支えるためか、その腕以上に肥大している脚部を持つ、青色の肌をしている3メートルほどの巨体のモンスターのオーガだ。
侵入者を排除すべく、地面に落ちてある木の棍棒を拾い上げる。
「ランパート! プロボック!」
シグがオーガにプロボックをする。
それに反応したのか、オーガの目は獲物を見つけた狩人のように鋭いものへと変わる。
ここがもし建物の中であったら、地面が揺れるのではないかと思えるような脚力で彼に駆ける。
「大丈夫ですか!?」
「……ったく、どんだけの馬鹿力なんだよ」
振り回された棍棒がシグの盾にぶつかると、金属同士が衝突したのではないかと錯覚するほどの振動が、彼の腕へと伝わってくる。
予測を上回る振動に、シグの体が一瞬宙に浮く。次からはもう少し踏ん張りを入れて受けないといけないなと思いながらも、彼女から飛んできたヒールを受ける。
プロボックを入れてヘイトの上書を行い、またオーガの攻撃を受け止める。
ルナはその攻撃の硬直を狙ってバゼラードでオーガを斬りつける。
いつもならばスキルを使っての攻撃だが、最初は緩めろとのことでそれらを使用はしていない。
自身の体を傷つけられていることの怒りが、ルナへと向こうとする。
しかしそれはシグのプロボックによって阻止される。
5分以上そのやり取りを繰り返すと、オーガの攻撃をだんだんと避けてから、自分からもメイスで攻撃を入れれるようになってきた。
「よし、行くぞ!」
最初に緩めてほしいといった理由は、オーガの攻撃に目を慣らすためだった。
どのくらいの力が自分に飛んでくるのか。
振るわれる棍棒や腕や脚の速度やその間合いを、何度も盾を使って受け止めながら注視をした。
彼の掛け声でヒルデは、ヒールを使って癒した後に、ルナのバゼラードにベネディクタを纏わせる。
それを手に、自身の高いAGIを活かして攪乱をしながらダブルアタックやフラッシュスティンガーを使って、左の太ももを重点的に狙っていく。
何度も攻撃を加えるが、彼女の直感によってヘイトは稼ぎ過ぎないように調整しているようだ。
ヘイトが向くかどうかのぎりぎりのラインで攻撃を緩めては、シグのプロボックに合わせて怒涛の如く攻撃を入れていく。
足を傷つけられたことで、踏ん張りが利かなくなってきたのだろう。棍棒による力が弱まってきたことで、棍棒を盾で受け止めるのではなく流していく。
「弓が出てきました!」
「すぐに弓を仕留めてくれ。プロボック!」
「了解。アクセル!」
自身の思い通りにならないのか、自分が一方的に斬られたからかはわからないが、怒ったオーガは棍棒を地面に叩きつけた。
ヒルデの合図に、後方の湧き上がって出てきたゴブリンアーチャーを、ルナはアクセルを使って瞬時に距離を詰めていく。
湧いてすぐのことからか、状況を把握しきれていないのだろう。
アクセルを使った尋常ではない速度の勢いを余すことなく、バゼラードに乗せての銀色の一閃が、呆然としているゴブリンアーチャーに突き刺さる。
「弓を仕留めたよ! エッジいくよ!」
消えていくゴブリンアーチャーを見もせずに、オーガへと駆け出す。
「シャドウエッジ!」
アクセルの効果が乗っているルナは、背後からオーガの背に向かってシャドウエッジを放つ。
これまでにない痛みに悶えるオーガは、ルナに棍棒を叩きつけようと振り上げる。
「おまっ……! コンボするぞ。ハウリング! シールドブーメラン!」
武器を盾に叩きつけて行うハウリングによって震えた盾を、オーガの頭に向かって飛ばす。
対象に当たって自動で戻ってくるこのシールドブーメランは、使用している最中はシールドが一切使えなくなるデメリットがある。
さらにハウリングを使用してすぐに使うと、威力やヘイト上昇値が上がる。
先ほどのアクセルからのシャドウエッジも同様である。
それらは、特定のスキルからの連続使用により、威力や効果が上がる。
しかし、その変わりにスキル硬直と言われている動けない時間が強制的に出来ることから、使用するときには注意が必要だ。
ヘカテヘルプにはコンボシステムと記載されていることから、コンボと略されて言われることが多い。
当然それはシグにも適応される。
動くことのできない彼に向って、オーガはこれまでの恨みと言わんばかりに、力の入った棍棒を振り下ろしてきた。
「バリア!」
それを拒むように、ヒルデはバリアのスキルを使用する。
使用者のVITによって強度のある半透明な板を作りだすそれは、オーガの剛腕から繰り出される棍棒を完全に止めることは出来ない。バリアに当たった瞬間に、ガラスが割れる音が鳴り響いた。
しかし、1秒も立たないその隙はシグの盾が戻ってくる時間を稼ぐことは出来る。
「シールドバッシュ!」
コンボによる硬直から解放されたシグは、棍棒に向かってシールドバッシュを使ってそれを弾き飛ばした。
「フラッシュスティンガー!」
彼と同様に硬直が溶けたルナも、オーガに向かって放たれる刺突。
その攻撃がオーガに突き刺さると、力が抜けたように倒れこんだ。
「ルナ。リーダーが筐体に触らないと出ることは出来ないぞ」
「噓でしょ!?」
光に包まれるそれを見届けるシグとヒルデに、そそくさとその場から離れようとするルナ。
まるで泥棒をするかのように忍び足で動く彼女を、青筋を立ててぴくぴくと眉を動かしたシグは、追いかけて捕まえた。
「痛い痛い!」
「うるせぇ! 何勝手にコンボを使ってヘイトを稼いでんだ? あぁ?」
「助けてヒルデ!」
「たまにはお灸が必要だと思いますよ?」
ドスの聞かせた声と一緒にルナに向かってアイアンクローを決める。
ヒルデに救援を求めるが、彼女も思うところがあったのだろう。
いつもなだめる彼女だが、シグの気が済むまで放っておこうと思いながら、目の前に浮かび上がってきた自身の討伐報酬を確認する。
「まぁ、アクセルが切れてなくて勿体無かったんだろう。火力も申し分はないし、事前に報告はあったからどうにかなったが」
「ナイス連携!」
「何サムズアップしてんだ、この兎はよ!」
「ぐおおおお……!」
アイアンクローから解放されて安心したのか、ルナは再度調子に乗る。
それを許さないようにウメボシを決めたシグ。
「私もバリアで連携出来たので、良かったです」
「ヒルデもああいってるからさ!」
「ですが、すぐに攻撃するのは相談や提案ではないですよ? 次から気を付けてくださいね?」
「ごめんね? 次からちゃんと気を付けるよ」
「はぁ……まぁ帰るぞ。帰ったら会議室を借りて反省会だ」
ヒルデの言葉を聞かせるためにウメボシを解かれたルナは、二人から距離を取りながらも謝罪をする。
しょうがないかと諦めたシグは、ダンジョンから出るためにオーガが倒れた場所にある筐体へとカードをかざすと、三人はその場から転移をしていった。